117 魔王
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魔王ヘリオスは広間からトモヤが去ったあと、玉座に腰掛けながら思考を張り巡らせていた。
本日得た情報は重要だ。それを踏まえ今後の方針を決めなければならない。
しかしそのためには、過去から今に至る経緯も把握しておく必要がある。
ヘリオスは自身が誕生した頃からの記憶を遡る。
千年と少し前、前魔王は中央大陸を支配し、配下の魔族を他大陸へ送ることによって世界を手中に治めんとしていた。
そんな魔王に一人の息子ができる。
ヘリオスと名付けられたその者は僅か20歳にして父親の力を上回り、前魔王を殺害することにより新たな魔王として君臨した。
ヘリオスが魔王になり始めて行ったことは、魔族に自身の力を証明することでも、他種族を滅ぼすことでもなかった。
前魔王の配下であった魔族を全て解き放ったのだ。
その理由は大きく二つある。
一つは、ヘリオスが無能を嫌っていたこと。
もう一つは、前魔王とその配下が目標にしていた世界征服などという、その気になれば一瞬で達成できるものに興味がなかったからだ。
最強の力を持つヘリオスは、その気になれば世界を征服することも破壊することも可能であることを理解していた。
そして、その後に訪れるであろう永遠の退屈を想像することもまた容易かった。
ヘリオスは生涯を魔法の研究に費やすと決めた。
スキルを一切持つことなく生まれたヘリオスであるが、自身の魔力を使用することによってスキルと同じ効果を再現することができると知っていた。
もっとも、そうするためには魔法の理を理解する必要はあったものの、時間をかければ可能であると判断した。
自分に不可能などない。だからこそ、世界の真理に到達せんとした。
手足が必要であることに気付いた。
無能ではなく有能な。
自身は魔王城にて魔法の研究に励む。その間、世界全土から魔法の知識を集めてもらう必要があった。
だからと言って、見知らぬ魔族を配下にしたいとは思わない。無能に信など置けるものか。
故に決めた。子を成そうと。
ヘリオスは中央大陸全土から美貌を持った魔族を探し、その者と子を作った。
――そして莫大な力を持った子は生まれ、母親は死んだ。人智を超える力を持った子の出産にその身が持たなかったのだ。
しかしそれでヘリオスが悲観することはなかった。
“この世界の王”として生まれた以上、自身が悲観することなど有り得ない。
ヘリオスは子を育てると共に、また別の魔族を集め子を作った。
千年の月日を費やす中で、数多の魔族を犠牲にし――100人にも及ぶ強力な子を作り上げた。
たったそれだけの者達が、“魔王軍”と呼ばれているのだ。
彼らは魔王の指示に従い、世界中から魔法の知識を集める。その途中、手段が乱暴なものは他大陸に侵略を仕掛ける者もいた。
そのどれもがまさしく一騎当千の力を持っている。
例えば東大陸に攻め込んできた際には、たった数人の精鋭に対し大国の騎士団を総動員して止めなければならなかった。
ふと気が付くと、ヘリオスのステータスは全て∞などという見たこともない表示がされるようになっていた。
文字本来の意味はともかく、ヘリオスが人智を超えた力を得たことを証明するものだということだけは直感で分かった。
それでもなお止まることなく研鑽を続けていく。
そんな日々を過ごす中、やがて魔王には二人の子ができる。
テラリアとルナリアだ。
千年の月日の中で、ヘリオスの心を大きく揺るがしたのはその二人だけだった。
彼女達にまつわる記憶がヘリオスの脳裏をよぎる。
「くっ……くくく」
はっきり言って、ルナリアが未だ生存していることはヘリオスにとって予想外であった。
魔王城から追い出した経緯から考えるに、一人きりで生き抜くことなどできなかったはずだ。
その裏には、間違いなく何者かの思惑がある。
そしてその何者かの正体など考えるまでもない。
方針は決まった。
ひとまず、自身と同等の力を持ったあの男のことは置いておく。
それより先にヘリオスが他の何よりも忌み嫌う無能を処分する必要がある。
その手段も決まった。後は行動に移すだけだ。
ヘリオスは静かに玉座から立ち上がると、歩を進めだす。
災厄を周囲に振りまくために。




