114 愚者
「飛獣炎を再現することは可能かだと?」
ヘリオスにそう問われて、トモヤは考える。
彼がわざわざ解説してくれたことから、飛獣炎が空間魔法、召喚魔法、錬成のスキルを複合させたものだというものは察しが付く。
これまでトモヤも複数のスキルを組み合わせた必殺技を幾つも生み出してきた。
一見、再現は可能なように思える。
しかし、無理だ。
時間をかけてならばともかく、少なくとも今この場では。
飛獣炎はただ三つのスキルを重ね合わせているだけではない。複雑な仕組み、恐らくは何らかのスキル外の干渉によって成立させている。
それこそ、この世の理を理解していなければ成し遂げられないような。
ギリッと、トモヤは強く歯を噛み締める。
それを見たヘリオスはにやりと口角を上げた。
「答えは出たようだな。そう、貴様では到底再現することはできぬだろう」
ヘリオスが再び杖で床を叩くと、四つの魔法陣が出現する。
「物のついでに教えてやろう。これらの魔法陣は火魔法、水魔法、地魔法、風魔法の効果を有する。だが、決してスキルではない」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りだ。我らはもともと自らの魔力によって魔法を使用することが可能である。だが、そのためには尋常ならざる修練が必要となる。そこでその修練という過程を省き、結果のみを現実のものとする力、それこそがスキルだ」
ヘリオスの言葉の意味をトモヤなりに解釈する。
「つまりお前はスキルじゃなく、修練の末に手に入れた力でスキルを再現しているって訳か」
「いかにも。それこそが世の理、魔の真髄。魔の真髄を極めた我はありとあらゆるスキルを再現できるだけではない、この世には存在しない新たな力すら生み出すことができるのだ。ただ、模範通りの力しか持たぬ貴様とは格が違う」
つまりは先ほどの飛獣炎にも、トモヤのオール∞では再現できない技術が使われていたのだろう。
ヘリオスの主張は理解できた。
確かに彼の力は異常だ。
あくまで全てのノーマルスキルを使用することができるだけの、トモヤのオール∞とは違う。
言ってしまうならばそれは――
「――ノーマルスキルの域を超えた、ありとあらゆるミューテーションスキルを生み出すことが可能ということか」
ただ、これまでの会話から抱いた感想を口にしただけ。
簡単に聞き流されてしまうと考えていた。
しかし、
「――否。あれはもはや、理そのものが異なる」
ぞくりと、背筋が凍るような低く感情を排した声でヘリオスはそう言った。
その瞳にはどこに向けられているのかも分からない歪んだ憎しみが浮かんでいた。
「ミューテーションスキル、あれは奇跡の代物だ。魔の真髄など関係ない、別次元の力だ。才能など、修練など、立場など、何一つとして関係ない。無為無能、愚者、弱者、そのような者達にすら与えられる汚らわしき力だ」
「…………」
「故に、故に認めぬ。そのような力を持つ存在を。我は寛大だ。力あるものを受け入れよう、勇気あるものを称えよう、賢明なものを敬意を表しよう――だが、ミューテーションスキルを持つ者だけは決して許すことはできぬ。見つけ次第、この手で処分する」
その言葉に微かな違和感を覚えた。
先ほどリーネは空間斬火を放っていたはずだが、何の反応もなかった。
ミューテーションスキルだとは気付かなかったのだろうか。しかし、何故?
そんな疑問が頭に浮かんだが、すぐに薄れていく。
何故なら、ようやく繋がったから。
ヘリオスに必ず訊かなければならないと考えていた問いと、その答えが。
体の内側から沸騰するかのように怒りが沸き上がる。
「……だからか」
ああ、つまり、それだけなのか。
それだけでお前は――
「だからお前は、ルナを見捨てたのか」




