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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第四章 中央大陸編
112/137

112 中断

 お互いに全力で戦えば世界が崩壊することは理解している。

 だが数値を抑えたステータスで戦っても、傷一つ負わせることはできない。

 なればこそ、多種多様の手段を用いてどこかに綻びが生じる瞬間を待つ以外、不毛な現状を変える方法はなかった。


 トモヤは自身のミューテーションスキル、オール∞を駆使した攻撃を仕掛け始めた。

 しかし空間魔法や神聖魔法を含めた様々な魔法攻撃はヘリオスの魔防ステータスの前にあっけなく霧散。

 魔法以外にもトモヤが知っているノーマルスキルを次々と使用していくが、一向に通用する気配はない。


 となると残された手段は一つしかない。

 極力使いたくはなかったが、そうも言っていられないだろう。

 終焉の剣(ジオ・フィーネス)から現状を打破することのできる記憶がないか探すしかない。


 その結論に辿り着いたトモヤは、異空庫から終焉の剣を取り出す――


「来い、終焉の(ジオ)――」

「そろそろ現実を教えてやろう」

「――なっ」


 ――が、一体何が起きたのか。

 異空庫から終焉の剣を取り出すことができない。

 そもそも、異空庫を発動することもできなかった。


 原因はすぐに分かった。

 異空庫が発動されるべき空間に、トモヤではない別の――ヘリオスの魔力が介入している。

 干渉と言った方が正しいかもしれない。とにかく、その魔力が存在するために異空庫の発動が妨げられるのだ。

 発動場所を変えようとしても、まるで先読みしているかのようにヘリオスの干渉は続く。


 異変はそれだけで終わらなかった。

 異空庫だけではなく他の魔法に至るまで、発動のタイミングで魔力の干渉を受け防がれる。

 腰元に携える剣を鞘から抜くことすら透明の魔力の鎖に捕らわれているかのように叶わない。

 武器やスキルといった搦め手の類は全く通用しなくなる。


 そうなれば原点回帰。

 馬鹿げたステータスに頼った戦闘に移行せざるを得ない。

 さすがにヘリオスと言えども、トモヤの動き全てを止めることはできない。


 結局状況が改善することもなく無益な戦いが続く。

 トモヤがそう思った、次の瞬間――



「空間斬火!」



 芯の通った凛とした声が、高らかに響き渡った。


 刹那、後方から数十もの斬撃が空間を切り裂きながら迫り、トモヤを素通りしてヘリオスに迫る。

 0コンマ数秒にも満たないタイムロスの後、大火が咲き乱れた。


「む――」


 突如自身に襲い掛かってきた、想定していなかったであろう攻撃にヘリオスはぴくりと眉を動かす。

 その身は斬撃と炎の海に呑み込まれていった。


 ガシャンと、金属がぶつかり合う音と共にトモヤの横に一人の人物が降り立つ。

 ふわりと赤髪を靡かせるその女性の正体はリーネだ。

 トモヤはヘリオスに細心の注意を向けたまま、視線を彼女に向ける。


「来たのか、リーネ」

「君が何も言い残すことなく颯爽と消えていったからな。心配になって追いかけてきたんだ。しかし……あまり得策ではなかったかもしれないな」


 ギリッと歯を食いしばりながら、リーネは自分の失態を恥じるようにそう零す。

 彼女の視線の先にいるのは燃え盛る炎の中にいるヘリオスだ。

 まるで攻撃の結果を予知しているかのような表情だった。


 トモヤとリーネが視線を向けた先から、強烈な風が吹き荒れる。

 その風は火炎を完全に掻き消し、中心から無傷のヘリオスが現れる。


 これまでのトモヤの攻撃が通用しなかったように、リーネのミューテーションスキルをもってしても傷一つ負わせることができなかったのだ。


 しかし、結果は同じでも状況は大きく変わった。

 トモヤとヘリオスの二名による戦闘では、お互い攻撃手段にのみ意識を割くことができた。

 しかしリーネは違う。

 彼女のステータスでは攻撃の余波に巻き込まれる恐れがある。

 ヘリオスほどの実力者ならば、トモヤの意識の隙をついてリーネに攻撃を仕掛けることも可能だろう。

 トモヤにのみ戦闘時の障害が生まれる。リーネが自分の取った行動を失態として考えているのも、それこそが理由だろう。


 だがリーネの登場によって生じる変化は、決してトモヤに策が増えることだけではない。

 最悪な結果を生み出さないために、トモヤは覚悟を決める。

 リーネに危害を加えられるくらいならば、“例え世界が滅ぶというリスク”を背負ってでも全力で戦って見せると。


 大量の魔力が溢れだす。

 全力で戦う準備はできている。

 そんなトモヤの姿を見て、ヘリオスはふっと息を吐いた。


「ここまでか」


 言って、体に纏う魔力を霧散させる。

 臨戦態勢を解いたのだ。


「ヘリオス、お前も“それ”は望まないということか?」

「“それ”を防ぐ手段くらい当然あるが、面倒なことになるのは間違いない。此度はここらが潮時だろう」


 その答えを聞き、トモヤも警戒はしたまま魔力のみを霧散させる。


「驚いたな。そこまで素直に引いてくれるなんて」

「程度が知れた。確かに貴様は我に匹敵する力は持っているが、超えることはできん。今ここで処分する必要はなかろう」

「…………」


 何をもってそこまで断言できるのかは分からない。

 ただ、ここで否定するのは得策ではないとトモヤは考え、じっとヘリオスの言葉を待つ。


「だが、我と貴様がただこの場で別れるという訳にもいかぬ。話の場を設けよう――女、貴様は不要だ。ここを去れ」

「――ッ」


 ヘリオスがその眼で睨むだけで、リーネは金縛りにあったかのように動けなくなっていた。

 トモヤは庇うようにして間に立ち、そっとリーネに話しかける。


「悪い、リーネ。ここは俺とアイツで話をする……先に戻っていてくれないか?」

「ああ……そうした方が良さそうだな。すまない、事態を悪化させる結果になってしまって」

「いや、どちらにせよ途中で戦闘は中断する流れになっていたはずだ。結果として被害が広がる前に終われたのはリーネのおかげだよ」

「……後は任せた、トモヤ」


 こくりと頷き、壁に空いた穴から飛び降りるように去っていくリーネを見送る。


 広間からリーネの姿が消えると、ヘリオスは一度指を鳴らす。

 創造を使用したのか瞬く間に広間の穴や傷が元に戻っていく。


 広間が完璧に復元すると、ヘリオスは玉座に腰掛ける。


「では、話をするとしようか」

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◇『ステータス・オール∞』3巻の表紙です。
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