111 不毛
トモヤとヘリオスが向かい合う。
両者から魔力が漏れ出すだけで大気が震え、緊迫した空気が場を支配する。
ジリジリと間合いを図るような時間が過ぎる中、先に動いたのは相手だった。
「もう少しばかり実力を測らせてもらおう。喰らえ」
「――防壁」
ヘリオスは先程と同じ漆黒の砲弾を同時に20発放出する。
一発一発が空間を抉り取る威力を持つ攻撃が、前面180度から隙間なく襲い掛かってくる。
トモヤが使用した防壁のスキルによってその全てを防ぐことはできたものの、まだ油断することはできないと直感が告げていた。
明らかにヘリオスはまだ本気を見せていない。
これ以上この場で戦うことになれば、周囲への影響は計り知れない。
トモヤは視線をヘリオスに向けたまま、後ろにいるユウ達へ声を張り上げる。
「九重、お前はそいつらを連れてここから離れろ!」
「っ、しかしそれでは君が――」
「――足手まといだから消えろって言ってるんだ。そいつらの命より、自分のプライドの方が大事だって言うなら好きにしろ」
「ッ」
現実を突きつけるような内容だが、聡明なユウはそれで冷静になることができたのだろう。
ギリッと歯を噛み締めた後、悔しさと惨めさを隠しきれないとばかりに表情を崩す。
「……すまない、夢前」
ユウは最後にそう言い残すと、手から光の帯を伸ばし三人の体を優しく抱える。
気絶した体に負担がかからないように気を付けているのが分かる動きで、トモヤが生み出した壁の穴から退避していった。
ヘリオスはその間、攻撃の手を止め逃げていくユウ達を眺めていた。
完全に姿が消えたのを見届けると、つまらないとばかりに息を吐く。
「あれでも最低限の実力は保有していた。我が軍門に下るならば生かしてやろうと考えていたが、こうなっては興味も消えるというものよ。今、我が何より相手にせねばならぬのは貴様だからな」
「……ずいぶんと余裕なんだな」
「なに?」
「俺達のステータスは互角。戦ってもどちらが勝つのかなんて想像もつかない。いや、それ以前の問題だ。それくらいお前も分かっているだろう」
ステータスが∞の者同士がぶつかり合えばどのような結果になるのか、火を見るよりも明らかなはずだ。
にも関わらずヘリオスは動揺や焦りを見せない。
まだ余裕でいられるほどの何かを隠しているのだろうか。
いくら考えてもこれまでの情報では答えに至ることはできない。
そもそもまだ二回しか攻防を行ってはいない。
結論を急ぎすぎているのかもしれない。
考えをまとめると、トモヤはゆっくりと息を吐きながら集中力を高めていく。
合わせるようにヘリオスも戦闘の構えを取る。
両足を肩幅に広げ立ったまま片手をトモヤに向けて伸ばす。
接近戦ではなく魔法戦を得意とするもののそれだ。
誰かが合図をしたわけではない。
しかし、動き出しは同時だった。
「敏捷ステータス、10億」
「朽ちよ」
防御ステータスの類とは異なり、トモヤは敏捷ステータスをいたずらに高める手段は取らなかった。
これまで経験したことのない速度を自在に活用できる確信がなかったためだ。
しかし、10億でも十分に人智を超えた動きは可能だ。
実際、ヘリオスが放った漆黒の砲弾のことごとくを回避することに成功する。
一つ一つの砲弾が魔王城に大穴を開けていく音を置き去りにしながら、トモヤはヘリオスの背後に回る。
そしてその拳を振るう。
(攻撃ステータス――1兆!)
瞬間、大気が爆ぜた。
馬鹿げた火力の拳がヘリオスの背の鎧に衝突すると、まるで空間そのものが破壊されたかのような炸裂音が響いた後、衝撃が広がり魔王の間の壁や天井を吹き飛ばしながら外に拡散していく。
荒廃した大地の光景が広がる中、トモヤの視線は一点に留められていた。
どのような化け物であっても消し飛ばしてきたトモヤのステータスによる攻撃。
それを喰らってなお、ヘリオスはそこに立っていた。
鎧にすら傷一つない状態で、至極当然と。
「――その程度か?」
「チッ」
軽く振るった腕を避けるため、トモヤは舌打ちしながら後方に飛ぶ。
予想はしていたが頭が痛くなるような結果だった。
なんてことはない。
ヘリオスは∞の防御ステータスによって、トモヤの攻撃を防いだだけだ。
そうして反射されてきたエネルギーはさらにトモヤの防御ステータスによって弾き返される。
それが幾回も繰り返された結果、エネルギーは逃げ場を求めるようにして周囲に拡散していったのだ。
ヘリオスが∞の防御ステータスを持っていることから、トモヤの攻撃ではびくともしないことなど分かっていた。
だけどそれは逆もまた同じ。
流れるようにして再度ヘリオスから放たれた漆黒の砲弾を前にして、トモヤは一歩も動かない。
「……今度は避けぬか」
やはりそれは先程と同様、トモヤの防御ステータスを貫くには至らず衝撃だけが拡散していく。
お互いに防御ステータスは∞に保った上で、攻撃もしくは魔攻は∞ではない威力に留めているのだ。
その理由は簡単。
∞の攻撃同士が衝突した際に発生するであろう現象をトモヤとヘリオスの両者が理解しているからだ。
だからこそ二人はお互いの手を探るようにして、意味のない攻防を重ねていく。
まさしく、不毛だった。




