110 対峙
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ルナリアによる驚愕の発言後、トモヤはすぐさまユウ達の下へ駆け出した。
黒く染まった巨大な魔王城の前にまで辿り着き、正面扉から侵入するのは時間のロスだと判断すると、索敵のスキルを使用しユウ達の居場所を把握した。
そこからの行動は早かった。
大地を凹ませるほどの力で飛び上がり、その壁面目掛けて拳を振るう。
耳を劈くような破砕音と共に、壁だった欠片が室内に散っていく。
そうして生まれた足場に着地すると、流れるように視線を落とす。
その場にいる者たちを確認する。
まず、部屋の隅にはユイ、リコ、ミホの三名が横たわっているのが見えた。気を失っているようだ。
そこから少し離れた場所に立っているのは、灰色の長髪と二本の黒い角が特徴的な綺麗な女性だ。
彼女の姿を見た瞬間、ドクンと心臓が脈打つのが分かった。
理由は分からないし、今考える暇もない。
何故なら――
「夢、前……」
――最も注視すべき二名が、この部屋にはいたからだ。
そのうちの一人であるユウは手酷くやられたのだろうか、ボロボロの状態で地に這い蹲っている。
そしてそのすぐ傍には、圧倒的な魔力を纏った男性が立っていた。
確信する。
彼が魔王だと。
無機質だった目に僅かな色を灯し、トモヤに視線を向ける。
「貴様は何者だ? まさかこの堅牢な城を一部とはいえ破壊できるような者がいるとはな。装いから察するにこやつらの仲間か?」
「知り合いだが、別に仲間ってわけじゃない。ただ目の前で死なれるのは困るな」
答えを濁しながら、トモヤは敏捷ステータスを高める。
目にも止まらぬ速度で空を駆け、ユウを回収しユイ達の下にまで運ぶ。
「うっ、ごほっ、ごほっ」
急激な動きのせいか、ユウはせき込んでいる。
とはいえ少々手荒になったのは事実だが、文句を言われる筋合いはない。
「……ほう」
その一連の流れを“その眼で見ていた”魔王は、感心したような言葉を漏らした。
同時にトモヤも察する。この相手は間違いなく今の動きを追えていた。
理由は分からないが何も手出しをしてこなかっただけだ。
この隙を利用し、治癒魔法を四名にかけておく。
戦いで消耗した魔力などはともかく、怪我などは問題なく癒せたはずだ。
「これは……」
自分の体が治っていくのを眺めながら、ユウは驚いた表情でトモヤを見る。
ここまで効果の高い魔法を行使できるという事実が信じられないようだ。
彼は以前、自身がトモヤの実力をある程度知っていると告げていたが、さすがに全てを網羅しているというわけではないのだろう。
「なるほど、そのようなスキルも保有しているのか。ならば、これはどうだ?」
「――――防壁ッ!」
魔王はそう告げた後、漆黒の魔力による砲弾を放出する。
反射のように防壁のスキルを使用し、透明の壁によってその攻撃を防ぐ。
強力な魔力同士の衝撃に魔王城全体が激震し、ミシミシという嫌な音が響く。
このような経験はトモヤにとって初めだった。
結果として敵の攻撃は防げた。
だが、僅かとはいえ防壁を押し込むことができるなど考えてもいなかった。
脳裏にルナリアの言葉が浮かぶ。
(まさか、本当にコイツは――)
「ほう、面白い」
焦りのため歯を噛み締めるトモヤに対して、魔王は余裕綽々という態度だった。
まるでこの程度、何の問題もないとでも言いたげに。
「もしやとは思ったが、我の攻撃を防いでみせるとはな。貴様もまた理より外れし者か」
「理を外れし者だと?」
「ああ、これを見せれば理解できるであろう?」
魔王が手を掲げると、空中にステータス画面が浮かび上がる。
そこに書かれていたものは、覚悟していたとはいえ信じがたいものだった。
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ヘリオス
攻撃:∞
防御:∞
敏捷:∞
魔力:∞
魔攻:∞
魔防:∞
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「……ステータスが全て∞か」
それでもいくらか落ち着けていたのは、事前にルナリアからその可能性について聞いていたからだろう。
「やはり貴様にも覚えがあるのだな?」
「……ああ」
応えるように、トモヤも魔王――ヘリオスと同じようにステータス画面を空中に表示する。
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トモヤ
攻撃:∞
防御:∞
敏捷:∞
魔力:∞
魔攻:∞
魔防:∞
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ヘリオスが意識的に情報を隠そうとしているため、こちらも同じ項目だけ。
背後から、ひゅっと息を呑むような音が聞こえた。
こうして、ステータス・オール∞の二人が対峙した。




