108 急転
トモヤ達がプティモに辿り着いた当日。
一番初めに思い出すのは情報量の密度が高かったユウ達との遭遇だが、その前にはスーシャを母親のミリャのもとに連れて行くという出来事があった。
デッケでの事件についての一部始終を説明すると、ミリャは少しだけ困った表情を浮かべた後、トモヤ達に頭を下げて感謝を告げた。
それはスーシャをここまで連れて来てくれたこと。
そして、父親アグロスへの温情に対するものだった。
それからこの数日、特に仲良くなったルナリアとスーシャを引き合わせるため、トモヤ達は彼女達のもとに赴いていたのだ。
「あいかわらず元気だな」
楽しそうにはしゃぐ二人を見て、トモヤはそう思った。
最近は少し表情に陰りが見えていたルナリアも、スーシャと一緒にいる時には笑顔を浮かべるため、連れてくるたびによかったと感じる。
「そう。じゃあ、私たちも楽しもう」
「うおっ」
「こらシア、いきなり何をしている」
「む」
突如として身を寄せてきたシアの首根っこを、呆れた表情でリーネが捕まえる。
見慣れた光景。シアが近くに迫った時に何も思わない訳ではないが、それでも動じるとまではいかない。
「ふふっ、やっぱり皆さん、仲がいいですね」
そんなトモヤ達の様子を見ていたミリャがくすりと笑いながら感想を漏らした。
黒色の長髪が特徴的な女性で、一見すると人族のようだが、首元に視線を下ろすと肌を覆う鱗が窺える。
話を聞くに、ミリャとスーシャは体に鱗を纏った魔族であるらしい。
その分、体も頑丈でかつ多大な力を保持しているのだとか。
彼女達は華奢な身体つきに反して、ステータスを差し引いたとしても成人男性を優に超える身体能力の持ち主なのだ。
その後、四人で軽く談笑していると、ふとシアが興味深そうに言った。
「やっぱり、以前から思っていたけど、不思議。魔族で、あれだけ明度の高い髪色をした二人が並んでいるなんて」
「……そうですね」
その言葉に対し、ミリャは少し間を置いて頷いた。
トモヤもこれまでに得た知識を踏まえた上でシアの言いたいことを理解できた。
もともと、魔族は髪から肌の色にかけてまで黒に近いことが多い。
だが、あそこにいる二人。スーシャは金色で、ルナリアは白銀。中央大陸全土を探してもなかなか見ない組み合わせだろう。
「確かにこの大陸では、あまり金髪の子が快く受け入れられるとは言い難いです。とはいえそういった子が全く生まれないという訳ではありません、夫……アグロスの努力の甲斐もあって、私達は無事に周りの人と関係を築きながら仲良くできています」
ですが、と。そう言葉を挟んだ後、ミリャは真剣な表情で告げる。
「ルナリアさんのように、あそこまで光り輝く髪を持った魔族の子を見たことはありません。きっと、たくさんの苦労をしてきたのでしょうね」
「いえ、実はその……俺達もルナの昔の事情についてはあんまり詳しくなくて。出会ったのもここ最近と言っていいくらいです」
「そうなのですか? それは驚きですね。皆さんの間には、長年寄り添った家族のような信頼感があるように見えますから。それだけ、彼女と真摯に向かい合ってあげれてるんですね」
「…………」
ええ、と。すぐに頷くことはできなかった。
本当に真摯に向かい合うというのなら、普通はルナリアの事情を知っていてしかるべきなのではないだろうか。そんな考えがトモヤの中に生じたからだ。
思えば、リーネとルナリアの境遇について推測したことはあっても、彼女に直接訪ねることはなかった。
きっと、そろそろルナリアの心に踏み込むべき頃合いなのだろう。
ずっとこのままでいる訳にはいかない。
彼らとの遭遇がきっかけになってか、トモヤにもそうするだけの覚悟が生まれていた。
――魔王城に向かう彼らを見送った。それは転じて、トモヤが向こうの世界の関係よりこちらの世界を選んだことと同義だ。
「そういえば……そろそろなのか」
「ふえっ? 何がそろそろなの、トモヤ?」
いつの間にかすぐそばにまで来ていたルナリアが、不思議そうな表情で見上げてくる。
そのことについて口にするべきか一瞬だけ逡巡したが、言っても問題はないかと思い告げる。
「えっとな、数日前に出会ったやつらなんだけど。あいつらは魔王を倒すためにこの大陸に来てて、そろそろ魔王城に辿り着く頃合いだろうなって思ってさ」
「…………え」
「なに?」
「っ」
「……驚きました」
トモヤの言葉を聞いた四人が、四者四様の反応を見せる。
ミリャは純粋に驚き目を開き、シアは微かに眉をひそめる。
リーネはふむ、と何かを考え込むような素振りを見せた後、真剣な眼差しをトモヤに向けた。
「トモヤ。それは本当か? 何か事情があるようだから君と彼らとの関係に口を挟まないようにしていたが、こればかりはさすがに忠言させてほしい。無謀だ。彼らが魔王に敵うようにはとても思えない」
「……そうなのか? 俺は魔王の実力は知らないから一概には言えないけど、あいつらも結構な強さだし、それに魔王を倒さないといけない事情もあるんだ」
「だとしてもだ。君ほどの常識外れのステータスの持ち主ならともかく、ただ強いだけでは魔王に勝てるとは到底思えない。私も含めだ。私たちが産まれる遥か前から、この世界の頂点に君臨する存在だぞ」
「リーネの言うことは正しい」
続けて、シアも自分の考えを告げる。
「少なくとも、魔王は私やリーネでは敵う相手じゃない。世界樹の守り人として働く時に聞いた決まりの中にもあった。もし、世界樹を狙う相手が魔王だとするならば、抵抗しても無駄。ただ逃げて生き延びることだけを考えろ、と」
「そこまでなのか?」
リーネとシアは、それぞれミューテーションスキルというステータスの差など簡単に覆せる強力な力を持っている。
そんな二人が口を合わせて、自分では敵わないと断言する存在。
きっと、直接会ったことなどないはずだ。
それでもなお確信を抱けてしまう程、魔王の実力はこの世界での常識で。
――その常識を知らないのは、異世界の人間であるトモヤと、ユウ達だけだ。
「そう、だよ。だめ、なんだよ」
「……ルナ?」
ルナリアの声は小さく震えていた。
何かに恐れるように、それでも伝えなければならないことがあるからと、声を絞り出すかのようだった。
トモヤは、これまでに見たことのないその様子に思わず動揺してしまう。
そんなトモヤに追い打ちをかけるように、ルナリアは顔を上げ、必死な表情で言った。
「だめなの! ぜったいに! だって、だって――」
そして、言った。
「だって、あの人は――お父さまは、トモヤといっしょだから! 勝てるわけ、ないから!」
「――――え?」
お父さま。
トモヤといっしょ。
ルナリアの口から出たその二つの言葉の真意を、トモヤはすぐには理解できなかった。
それほどまでに、想像もしていない言葉だった。
そして――――
トモヤ(お父さま……だと? ふむ、親権について少し魔王と話し合う(殴り合う)必要がありそうだ)
トモヤがアップを始めました。




