107 魔王城
本日3月31日、書籍版の発売日です!(早売りしているところもあるようですが)
より面白くなるよう改稿しましたし、シソ様の絵が非常に素晴らしいです!
どうぞよろしくお願いします!
◇◆◇
「さあ、もうすぐ着くよ」
彼との再会から三日後――ユウ達はとうとう、魔王が暮らすといわれる魔王城が視界に収まる位置にまで辿り着いていた。
荒れ果てた大地の中に佇む、黒く染まった巨大な城。
それを見た時、ユウの胸の中に不思議な感情が生じる。
世界最強と謳われる魔王と戦うことに対する緊張か、もしくはようやく元の世界に帰ることができるのだという歓喜か。
どちらにせよ、魔王を倒さなければならないということには変わりない。
最後に覚悟を問うために振り向き、共に戦う仲間に視線を送る。
ユイは緊張を隠すように少しぎこちない笑みを。
リコはこくりと頷きつつも、手が落ち着きなく動いている。
ミホはゆっくりと深呼吸をし、一番冷静のようだった。
だけど誰一人として、魔王城を前にして逃げ出そうとは思っていない。
心強さを感じる。きっと自分達なら成し遂げられるという確信がある。
だからユウは最後に力強く頷き、彼女達と共に歩み始めた。
悪の権化たる魔王――そんな敵と戦うと思っていたからこそ、目の前に現れた人物はあまりにも予想外だった。
魔王城の巨大な扉の前には、一人の女性が立っていた。
薄い灰色の髪は膝下にまで伸びるほど長く、光を灯さない瞳がこちらに向けられる。
美しい女性。一見すると人族のようだが、頭から伸びる二本の黒い角が、彼女が魔族であるということを証明していた。
「貴方達は、魔王様を討伐しにきた勇者の方々ですね。お噂はかねがね」
その女性は、ユウ達にとって思いもよらぬことを言った。
「確かにその通りだ。けど、君はいったい何者だ? どうしてこんなところにいる?」
「私は魔王様の配下……いえ、そう名乗るのもおこがましいほどの矮小な存在です。ここにいるのは、魔王様から貴方達を迎えに行くよう命じられたからです」
「なっ……」
続けられたセリフに、ユウは思わず目を見開く。
驚いたのは他の者も同様だった。
ユイが耐え切れないとばかりに前に出る。
「どういうこと? 私達がここにくるのがバレてたってこと?」
「ええ、魔王様は万能なお方ですので。その程度、仔細ありません」
「それで、わざわざ貴女が私達を倒しにきたってことかな?」
「いえ、そうではありません。先ほども告げた通り、私はただ迎えにきただけ……今から、貴方達を魔王様のもとにまでお連れします」
まるで自分達を歓迎するとばかりの対応に言葉を失うユイの代わりに、再びユウが一歩前に出る。
「……素直にその申し出に応えるとでも思っているのかな? 罠があると思うに決まっているだろう」
「そう思いここに留まるのであれば、別にそれでも構いません。それで本当に、貴方達の目的が果たされるのであればの話ですが」
「ッ……」
悔しいことに、その忠言は事実だった。
ユウ達からすれば、まずは魔王と相対するのが第一。
だが素直に申し出に従えば取り返しのつかないことになる可能性もある。
どう対応すればいいのか悩む非常に難しい局面だが、この中にはそれを打破できる人物がいた。
「優。探知魔法を使ったけど、ひとまず罠のような物はなかったわ」
優れた補助魔法スキルを保有するリコが、確信した声でそう告げる。
それを聞き、覚悟はできた。
進まなければ、何も始まりはしない。
「分かった。君の案内を受け入れよう」
「了解しました」
女性は表情を変えることなく踵を返す。
扉の前に手を翳すとそこから魔力が流れ、応じるように扉が鈍重な音と共に開かれる。
「では、こちらにどうぞ」
何が起きても対応できるよう注意を払いながら、ユウ達は魔王城に足を踏み入れた。
中はまるで中二病の自室のように、黒一色だった。
コツコツと音を立てながら、回廊や階段を経由しそこに辿り着く。
城の入り口のそれと比べても劣らない程に立派な観音開きの扉。そして中から感じる圧倒的な威圧感……この先に魔王がいるのだとすぐに分かった。
先ほどと同じように女性が手を翳すと、扉は少しずつ開かれる。
「では、後は皆さまだけでどうぞ」
最後にそう言い残すと、女性はこの場から離れていく。
腰元の剣に手を添えながら、ユウは最初にその部屋に足を踏み入れる。
巨大な広間の奥には玉座があり、そこに一つの人影があった。
そこにいたのは、紛れもない――――
◇◆◇
輝く金髪と、縦長の瞳孔が特徴的な目をした少女が、元気にこちらに駆け寄ってくる。
「ルナ!」
「スーシャ!」
その少女――スーシャを見て、ルナリアは嬉しそうに彼女の名を呼び返した。
その様子を、一緒にいたトモヤ、リーネ、シアの三人は優しい瞳で眺める。
するとスーシャの奥から黒色の長髪を靡かせる女性――スーシャの母親ミリャが現れ、一礼をしてきたためこちらも同じく礼を返す。
この三日間で見慣れた光景。
トモヤ達はプティモでの日常を謳歌していた。




