106 誓い
「えっと、どういうことかな? つまり、夢前くんと優は昔からの知り合いなの?」
「……まあ、そうだな」
「でもでも、それだったらおかしくないかな? だって私、夢前くんと優が仲良くしてるところなんてほとんど見たことないよ?」
トモヤの説明とこれまでの出来事から違和感を覚えたらしいユイは、率直にその疑問をぶつけてくる。
トモヤは少しどう答えるか悩んだ後、誤魔化すことに決めた。
「それはあれだ。あいつは中学で私立に行って、俺は公立に行ったからな。関わりがなくなったんだよ」
「でもさ、普通それだったら再会したらまた仲良くなったりしないかな?」
「そうならないこともあるだろ」
「そっかな? うーん、まあ、そういうこともあるか!」
完全にではないだろうが、一応は納得できたらしいユイは元気よく立ち上がる。
「何はともあれ! 私は優達と一緒に魔王討伐を目指して頑張るよ。本当は夢前くんにも協力してほしいけど……夢前くんは夢前くんで、何か事情があるんだもんね。ならしょうがない」
言いながら、ユイは優しく微笑んだ。
その姿を見て、形容し難い痛みが胸の中に生じる。
何かを言わなければならない。そんな焦燥感に突き動かされるままに、トモヤは告げる。
「柳」
「ん?」
「色々と思うところはあるだろうけど……お前みたいな奴が傍にいることは、あいつのためになってると思うから。だから、あまり思い悩むなよ」
言葉の真意をすぐには理解できなかったのかきょとんとした表情を浮かべた後、ユイはえへへと笑みを零した。
「うん、任せて! 夢前くんもガンバだよ! 何を頑張るのかは分かんないけど!」
「すげぇテキトーだな」
「まあねっ!」
何故か自慢げに頷いた後、ユイは颯爽と自分達の滞在する宿の方へ向かい、途中で振り返り大きく手を振った後、今後こそ去っていった。
「……ふー」
彼女を見送り、一人残されたトモヤはゆっくりと息を吐いた。
結局ユイと真摯に向き合えなかったことに、思うところがない訳ではない。
けど、今はそれを伝えるべき場合ではないと思うから。
さあ、宿に戻ろう。
「っ、トモヤっ!」
「っと」
宿の自室に戻ると、そこに一人でいたルナリアがパアッと表情を輝かせて飛びついてくるのを反射的に受け止める。
ルナリアはぎゅっとトモヤを抱きしめながら顔を上げると、えへへと笑う。
「おかえり、トモヤ!」
「ああ、ただいま、ルナ……というか、一人で待ってたのか?」
「うん!」
その問いにルナリアは元気よく頷く。
トモヤは少しだけ驚いていた。
確かに部屋はトモヤとルナ、リーネとシアの二部屋で取っているが、トモヤが戻って来るまでルナリアはリーネ達と一緒にいると思っていたからだ。
ずっとルナリアを一人で待たせていたことを知り少し罪悪感を抱くと同時に、こうして健気に待っていてくれた彼女に愛おしさを感じ、その頭に手を乗せる。
サラサラとした、艶のある白銀の髪をすくうようにして何度も撫でると、ルナリアは嬉しそうに「んー」といった声を漏らしていた。
(……やっぱり、俺の居場所はここだ)
ルナリアとスキンシップをとるうちに、トモヤは自然とそんな確信を抱いた。
少し昔の知り合いと出会い調子を崩されていたが、トモヤにとって一番大切なものはここにあるのだ。
それを改めて実感した。
その後、眠る時間がやってくる。
二人部屋のためベッドは二つあるが、ルナリアは当たり前のような流れでトモヤの布団の中にその体を潜らせる。
そして頭だけをポンッと布団から出し、トモヤと視線がぶつかった。
「ねぇねぇ、トモヤ。これからはなにするの?」
「これからか……とりあえず、明日はスーシャのところに顔を出しに行こうか」
「っ、うん! たのしみっ!」
ここ数時間の出来事の密度が濃かったため昔のように思うが、金髪の魔族の少女スーシャに関しては、無事に母親のミリャのもとにまで連れて行っていた。
旅の中でスーシャと非常に仲が良くなっていたルナリアは、明日も会えると分かりとても嬉しそうにしている。
そんなルナリアの前で、トモヤはそれより後のことも考えていた。
数日間はこの町に滞在し、スーシャのもとに行くということでいいだろう。
しかしそう遠くないうちには、南大陸を目指すためにここを出発しなければならない。
彼らとは、今度こそ違う道を歩むことになる。
「ねえ、トモヤ」
一人で考え事をしているトモヤに向かい、ルナリアが呼びかける。
気のせいでなければ、普段より声に元気がないように感じた。
「どうしたんだ、ルナ」
「その、えっとね……」
言葉に迷うような、ルナリアにしては珍しい姿を見て、トモヤも彼女の話を真剣に聞かなければならないと思った。
そしてようやく、ルナリアは不安気な表情で言った。
「トモヤは、どこにもいったりしない……?」
「――――」
「ふぇっ、と、トモヤ?」
聞いた瞬間、トモヤは反射的にルナリアを抱きしめた。
華奢で柔らかいルナリアの体が、トモヤの片腕の中に収められる。
その態勢のまま、そっと優しく告げる。
「当たり前だろ。俺はどこにも行ったりなんかしないよ」
「ほんと……?」
「ああ、本当だ」
何度も何度も、安心させるために本当だと言い続ける。
きっと、ルナリアは不安に思ったのだろう。
先ほどのトモヤとユウの会話。その内容を聞いてはいなかったのだろうが、雰囲気から何らかの因縁があるのだということを察することは可能なはずだ。
リーネやシアは気を遣い何も問いかけてくることはなかった。
ルナリアもまた同じように問いかけてくることはなく……それでも、どうしても不安になったのだろう。
自分の知らないトモヤの知り合いがいて、その相手と話す時の姿もいつもと違っていて。
そんなもの、不安にならない方がどうかしている。
だからこそ伝えておかなければならなかった。
「大丈夫だルナ。俺は、ルナが俺を必要とするうちは、絶対に離れていったりなんかしないから」
「……うん」
安心、したのだろうか。
ルナリアはゆっくりと微笑むと、疲れが溜まっていたのかそのまま目を閉じていき、静かに眠りに落ちていった。
トモヤは眠るルナリアの頭を撫でながら、改めて心の中で誓う。
――俺が自分から、ルナリアと離れることなんてしない、と。
だけどきっと、その誓いには一つの見落としがあった。
3月31日に発売する書籍版ですが、店舗特典の詳細がホームページで出ています。
種類が大量にありますので、ぜひ一度ご覧ください!
ルナリア「みんな、見てねっ! えへへっ」




