104 相違
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剣呑な雰囲気の中にあるそのテーブルを、二つのグループが不安そうに眺めていた。
片方は、リーネ、ルナリア、シア。
もう片方は、ユイ、リコ、ミホ。
そしてその注目の先にいるのは、トモヤとユウの二人だった。
――トモヤとユウ達が再会した時、真っ先に騒いだのはユイだった。
トモヤが中央大陸にいるなど思ってはいなかったらしく、どうしてここにいるのかと尋ねてきた。
それにリコやミホも立て続けに質問をしてきて、収拾がつかなくなった。
そこで、彼女達の中から代表してユウが、トモヤに様々な事情を聞く役目になったのだ。
(まさか、こんなところでこいつ等と遭遇するとはな……)
現在に至る過程を思い出しつつ、トモヤは面倒なことになったと眉をひそめた。
確かにユウ達が魔王討伐を目指していることは知っていたし、やがてそれを成すために中央大陸に来ることも分かっていた。
だがそんな時がくるとすれば、もう暫く後になるだろうとトモヤは考えていた。
ステータスが優れているとはいえ、異世界にきてたった数ヶ月で、世界最強と謳われる敵に挑みに行くとは思っていなかったのだ。
けれど、その考えが間違いであったということを、トモヤは今になってようやく理解できた。
目の前に座るユウを一瞥する。
確認もとらずにステータスを見るのも申し訳ないので実行には移さないが、それでもなんとなく実力は分かる。
これまでトモヤが戦ってきた相手の中でも、ユウはかなりの上位に入るだろう。
終焉樹内で出くわしたフィーネスや、世界樹の下で戦ったルーラー。
そしてつい先日ぶっ殺したゼーレとも互角に渡り合えるかもしれない。
それに……
(まだ何かを隠してるみたいだな)
表面上感じる気配……というよりも、ステータスでは計り知れない程の力を秘めているということも、トモヤは直感していた。
普通に戦ってトモヤが負けるとは全く思わないが、ユウが本気を出せばフィーネス達を圧倒することは可能だろう。
そしてきっと、どれだけ強いのかは知らないが魔王にも負けることはない。
だとするなら、彼が魔王に挑みに行くことを止める理由はない。
彼らに協力する必要もない。
そう考えを整理した上で、トモヤは会話を行おうと決めた。
「……それで、どうして君はこんなところにいるんだい?」
口火を切ったのは、覚悟を決めたトモヤではなくユウの方からだった。
ユウはトモヤから視線を逸らしたまま、硬直した現状を打破するためにそう告げたかのようだった。
「どうしたも何も、ただあいつらと一緒に旅をしてるだけだ」
対するトモヤも、どこまで語ればいいのかを悩み、結局は当たり障りのない答えに至る。
だが、ユウはその回答に納得した様子はなく。
「こんな、強力な魔物が闊歩する場所をかい? もしかして君は、彼女達に戦闘を全て任せでもしているのかな?」
「それは……」
責めるような言葉に、トモヤは口を閉ざす他なかった。
彼の言い分を否定するためには、トモヤのステータスについて教えなければならないだろう。
それはできない。
だからこそ無言を貫くトモヤだったが、続けてユウが告げた内容には、思わず目を見開くこととなった。
「いや、冗談だよ。君だって戦えるんだろう。それくらいは知っている」
「っ……お前、なんでそれを」
「そんなことはどうだっていいだろう。大切なことはもっと他にある」
まるでトモヤの本当の力を知っているかのようなユウの言葉に動揺しつつもそう尋ねるが、彼は答えるつもりがないのかすぐに話を進めた。
ここまで逸らし続けていた視線を、ようやくトモヤに向ける。
透き通った茶色の瞳。だけどその奥には、確固たる決意が窺える。
相手が女性なら、一瞬で心を掴まれてもおかしくないと思える程の眼差しは、しかしトモヤにとって凄惨な過去を思い出させるものでしかなかった。
動揺を重ねるトモヤに追い打ちをかけるように言う。
「なぜ君は魔王討伐に協力しようとしない。人々を苦しめる者を退けるのは、力あるものの責務だろう。それに、元の世界に戻りたいと思っていないのか」
「――――」
スッと、沸騰しかけた脳の温度が下がった。
「それには賛同できないな」
ユウの考え方が、あまりにもトモヤと違ったから。
例えば前者、力ある者としての責務をユウは説いた。
確かに、目の前で人々が理不尽に苦しめられようとしているなら、それが見知らぬ人であろうと助けようと思うだろう。
実際にトモヤはこれまで多くの人を助けてきた。
けれどやはり、優先順位というものはあるのだ。
トモヤにとっての最も優先度の高いものとはリーネ達の存在、ひいては彼女達と共に過ごす日々だ。
それらを守ることこそ、トモヤにとって唯一最大の責務。
そして、後者に至っても答えは同様、賛同できない。
この世界に呼び出されたあの日、王都から追放された日。
トモヤは、もう彼らとはかかわらず生きていこうと決めたのだ。
彼らに協力したいとも、その末に手に入れるであろう元の世界への帰還方法を知りたいとも思っていなかった。
考え方の相違、トモヤとユウの間に隔たる壁の大きさが、たった数分の会話で明らかになった。
当然、トモヤは自分の考えを変えるつもりはない。
「自分が何を為すべきなのか、何をしたいと思うのか。それは自分自身が決める事であって、誰かに義務として押し付けられるものじゃない。だから、お前の言葉には賛同できないよ」
「ッ!」
バンッ! と、ユウが机を力強く叩きつけて立ち上がると、耐え切れないとばかりに顔を歪ませて叫ぶ。
「君がそんな風にッ! 自分以外の想いをないがしろにするからッ! だからっ、だから彼女は――」
「――――ッ」
「――あ」
そこでユウは、自分が何を言ってしまったのか理解したのだろう。
顔を真っ青にし、悲痛な面持ちで口を開く。
「……すまない。今のは失言だった」
「……どうだっていい。それに、お前は間違ってないからな。座れよ、周りの視線が痛い」
「あ、ああ」
大声で叫んだユウに対し、店内にいる全員から怪訝な視線を送られていた。
その中に含まれている三人の少女のことを思えば、トモヤも少し居心地が悪く感じた。
「まあ、あれだ」
だからこそ、早くこの場から逃げたという意思で場を収めようとする。
「別に俺はお前の考えに賛同しないだけで、否定したいわけじゃない。魔王を倒したいのなら、倒せばいいよ」
「……そうだね」
おそらく、もっと他に言いたいことはあったのだろう。
だけどここではもうそれは叶わないと悟ったのか、ユウも小さく頷いた。
つまりそれは、会話の終了を告げる合図だった。
トモヤは椅子から立ち上がると、リーネ達のいるテーブルに近づき、目を合わせられないまま告げる。
「悪い、先に宿に戻ってる」
「……分かった」
ありがたいことに、訊きたいことは山ほどあるだろうにリーネは何も尋ねてくることはなく、それどころか優しい笑みを浮かべてくれた。
そんな彼女に感謝しながら、トモヤは一人で先に宿屋に戻った。
なんだか本編はシリアスな感じですが、ここで重大発表があります。
ヒーロー文庫様より、本作の書籍化が決定しました。
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