103 再会
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「ぅ……優!」
「ッ」
自分の名を呼ぶ声に、ユウはハッと我に返った。
目の前にはユイがいて、心配そうな表情でユウを見上げていた。
「なんだい、結衣」
「なんだって……ぼーっとしてこっちの話も聞こえてないみたいだったから心配して声をかけたんだよっ」
「ああ、ごめん。つい考え事をしていたみたいだ」
「……いいけど」
謝罪の気持ちを込めて優しく微笑むと、何故かユイは頬を赤らめて顔を逸らす。
その理由が少しだけ気になったが、この場には他にも二人いる。
意識を切り替えなければならない。
とはいってもやはり、少しは先ほどまで考えていたことを思い出してしまう。
ユウ達四名はトモヤと分かれた城に残った後、剣の技術や魔法の扱い方など、様々な教えを受けた。
実戦のために王都近くの迷宮に向かい、そこで遭遇した魔族と命をかけた戦いを行い、最終的にはユウが迷宮に封印されし聖剣の使い手に選ばれ討伐したなど、その過程には一言では語り切れない程のドラマがあった。
やがて、十分な力を得たと判断されたユウ達は魔王討伐のために中央大陸に足を踏み入れ、魔王が住むと言われる魔王城まであと一息という場所にある都市、プティモに辿り着いた。
ユウは改めて辺りを見渡す。
ユウ達が夕食を取るために入った店の中にいるのは、これまでに見たことのないような異様な風貌をした人々――つまりは魔族だった。
その中で、明らかにユウ達は浮いている。
ここにいる人族は、ユウ達しかいない。
それ故に、周りからも興味深そうに視線を送られていた。
だが驚くべきことに、不必要に絡んできたり、ちょっかいを出してきたりする者はいなかった。
魔王城からの距離を考えても、この都市は魔王の膝元といっても構わないくらいだというのに。
魔王軍が東大陸に攻め込んでくることからも、ユウ達は魔王が人族を嫌っていると認識していた。
当然、町に辿り着いた時も歓迎されていない雰囲気ならばすぐに引き返そうと考えていた。
しかしそういった様子はなかったため、こうして町の中で休息をとっているという訳だ。
そうなると、ますます魔王という存在が何なのか分からなくなってくる。
自分を討伐しにくる者達への対策を取ることもなく、ただ魔王城にいるとでもいうのだろうか?
それは自分に逆らう者などいないという考えによるものか……もしくは、どんな者が目の前に現れようが、自分が負けることはないという自負によるものか。
どちらにせよ、油断はできない。
この町には魔王の仲間がおり、既にユウ達の情報を伝えているかもしれない。
だとすれば、ここに長居はできない。
一刻も早く、討伐に向かうべきだろう。
その考えを三人にも伝えると、納得したように頷く。
今はこの場にいないが、荷物持ちなどで同行しているフレアロード王国所属の騎士達にも後で伝えておくべきだろう。
ここからの戦いは、彼らには荷が重い。
(……そうだ、あと少しで終わるんだ)
魔王を倒せば、ユウ達は役目を終えて元の世界に戻ることができる。
帰還方法を魔王から聞き出さねばならないという問題もあるが、それも含めて、後一歩のところまで来たことを改めて実感していた。
カランカラン。
店の扉が開く。
普通なら誰が入ってきても気にはしないのだが、今回は違った。
そこには、この場所には似合わない少女たちがいた。
一人は、明るい赤髪を靡かせる人族――そう、人族だ。
まさかこんなところに自分達以外の人族がいることに大いに驚く。
もう一人は、透き通ったセルリアンブルーの長髪と、長い耳が特徴的な少女。
見た目からしてエルフ族だろう。こちらもまた、中央大陸では珍しい。
続けて入ってきたのは白銀の髪に、黒色の角を持つまだ幼い少女。
彼女は魔族なのだろうが、それでもユウは衝撃を受けた。
通常、魔族の髪や肌の色は明度が低い。中には金髪などの者もいるが……それでも、あれほどまでに輝きを持つ髪色の者とは出会ったことがなかった。
だからと言って、彼女達に視線を向け続けるのは失礼になる。
そう思い食事に向き直ろうとする――
「……え?」
――が、そうすることはできなかった。
三人の少女の後ろから入ってきたその男の姿に、注目せざるを得なかったから。
「え、うそ」
「どういうことなのかしら~」
「不思議」
同時に気付いたであろうユイ達も、彼の姿を見て目を大きく見開いていた。
遅れて、彼もこちらに気付く。
そして信じられないものを見るかのように、目を細めた。
けれど、そこにいるのは偽物でも幻でもなかった。
答えは既に分かっているけれど、それでも呟かずにはいられなかった。
「夢前……か?」
「……九重」
その日、夢前智也と九重優は再会した。




