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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
序章:空の島より
4/47

多くの問題はガーッとやればなんとかなる。4

11/19 エピソードが8000文字を超えていたので分割いたしました。

 ぼくの頭蓋を襲った衝撃は、例えるならば軽トラックの上ではしゃいでいたら、トンネルの入り口で頭をぶつけたくらいの感じ!

 でも、


「あれ?」


 予想よりも衝撃は小さくて、ぼくは五体満足に生きていた。

 おかしいな? さっきの振り回し方とか勢いから考えると、たんこぶ以上の悲惨な状態になると思ってたのにね。

 もちろん、ぼくの身体が多少頑丈だってことも理由のひとつだけど、それ以上にロボットが途中で戦斧を振る腕を止めたってことが大きな要因だった。


「もしかして途中で人道に目覚めたのかな? 長い長い時間の経過の果てに目覚める自我ってロボットものの王道だよね」


「んなわけあるか。後ろを見ろよ」


 あいたた、と頭をおさえながら、恐る恐る振り向くとロボットがまるでギャグマンガのような滑稽さで壁にめり込んでいた。

 あの素晴らしい速度で、滑らかかつ大胆に壁面にダイブしたのだろう。


「……」


 ぼくらが息をのんで動きを注視していると、ロボットがぐらりと揺れてあおむけに倒れこんだ。

 ボディには砕かれた壁面のかけらが乗っているけれど、装甲のほうにはダメージを負った様子はない。


 ――じゃあ何で?


 その答えはすぐにロボットさん本人が教えてくれた。


「最新のOSのアップデートを発見しました。更新作業を開始します……失敗しました。OSを再インストールしてください」


「……」


「……」


 なんだろうね、このやるせない感じ!

 レストランのフルコースを食べにいったのに、いきなり強制的にデザートだけ口に詰め込まれて、ハイさよなら! みたいな!

 見るとフリートークすら閉口してしまっていた。


 これはいけない! せっかくのピクニックだってのに、この空気はいけない!

 ぼくは空気を読める人工生物なのだ。


「ご、ごほん。わお! こいつはすごいぞ。この企業ってば機械にまで過労死させるなんて! ぼくってば超ラッキーだったな。このラッキーさっていうのはぼくが物語の主人公のような強運さを持っていることの証明じゃないかな?」


「い、いやいや、逆に運が悪かったんじゃないか? もう少し動かなくなるのが早かったら情熱的に抱きしめられてたかもしれねーぞ?」


「機械はノーサンキュー!」


 女の子にぎゅーっとされるならともかく、こんないかつい機械に抱きしめられてもうれしくもなんともないから!


「まあいい。すぐそこの角を曲がったらすぐにメインルームだ」


 白けてしまったどうしようもない空気に背を向けて、フリートークがぺたぺたと廊下を奥に進む。


「ちょっと待って」


「? なにやってんだ?」


「なにって……倒した相手から戦利品を奪うのは冒険の基本じゃないか。『フルーフは鋼の剣を手に入れた』――なんちゃって。最後はちょっと消化不良だっただけど、せっかく戦闘イベントが起きたんだ。せめて戦利品くらいあってもいいじゃないか」


 あおむけに倒れて動かなくなったロボットの指から、白い斧を無理やりはがして奪い取る。

 剣じゃなくて斧っていうのがいい。木を切り倒すのによし、薪を割るにもよしの万能ツールだからね。


「……へえ、結構重いな」


 改めて見ると奇麗な斧だ。

 柄は金属製で、およそ人間が使うように設計されたとは思えないほどの重さがある。

 斧頭に彫り込まれた溝には黄金が流し込まれた謎の模様があって、およそ実用的には見えない。


 刃先まで真っ白な斧頭の材質はいったい何だろう? 質量的には鉛よりも重く、金よりも軽いように思うけれど、そんな合金ってあったっけ?


 こんこんと叩いてみると、硬さと粘り強さを併せ持った合金の感触が返ってくる。

 刃はつぶされているわけではないけれど、それほど鋭く研がれているわけでもない。


 とはいえ、こんな重いものを叩きこまれて無事に済む相手がいるとも思えないので、そのあたりは整備性との妥協点というところなんだろう。


「ふふん」


 なんだかんだ言って棒状のものを握ると心が躍るよね。

 子供っぽいって言われるかもしれないけれど、ぼくは男の子だからね。仕方ないね。


 人類に連綿と受け継がれてきたヤンチャな少年の系譜は、人工生物たるぼくのなかにも流れているらしい。


「なんかRPGの主人公になった気分だ。もう少し敵らしい敵が出てきてほしいけどね。あとヒロイン」


「あーん? 俺がヒロインで我慢しろっつーの。だいたい、見た目的にはモンスターのほうだろうがよ」


 ぼくが斧をひらひらと振りまわす姿を見て、フリートークが「ひひひ」と笑う。


「ヒロインにトカゲはちょっと……普通ヒロインっていったら可愛い女の子だよね?」


「たまにはトカゲがヒロインのゲームがあってもいい。それが表現の自由ってもんだ。よし、メインルームに到着だ。この扉が最後の関門ってわけだな」


 ぼくたちがたどり着いたのは大きな大きな両開きの扉だった。


 いままであった扉とは全然違う厳重さ。

 この先が重要施設です! って言わんばかりの威圧感。

 ゲームだったら、フリートークが立っているあたりにセーブポイントが置いてありそうな感じの、いかにも何かありそうな扉。


「よし、じゃあ開けるよ」


 果たしてこの先に待っているのは、どんなイベントなんだろう。

 ごくりと息を飲んで、そのレバーを引っ張り――


「……閉まってる」


 いままで無防備だったんだから、最後まで無防備を貫こうよ!

 半端にセキュリティが守られていると、めんどくさく感じちゃうじゃないか!


「フリートーク、解錠できる?」


「ったく、オレはお前のサポートユニットであって、空き巣泥棒の道具じゃねーんだけどな。……ちょっと待ってな」


 フリートークは不平を言いながらも、扉の横にある端末にとりついた。

 背中をパカっと開けてコードを取り出し、その先端を端末の下のコネクタに接続すると、同時に端末の表示がピコピコと変わり始める。


 そして、待つこと3分。

 ぼくが床に三角座りで行儀良くしていると、やがてフリートークが振り向いて首を横に振った。


「生体認証でしか開かないっぽいわ、これ。オレのハッキング能力じゃ全然歯が立ちやしねえ。モームを連れてきたほうがよかったかもな」


「そっか。それは残念。

 そうすると直接ダムを見に行ってみて、何か不具合が起きてないかを確認して、駄目だったら後日モームさんを連れてくるしかないか。

 うーん、そうするとちょっとめんどくさいなぁ」


「まったくだぜ。

 あーあ、お前さんがほんとにRPGの主人公様ならこういうとき、選ばれたなんちゃらとかで、勝手に扉のほうから開くもんなんだけどな」


 む。


 なんてわざとらしいため息なんだろう!

 最後の最後に面倒だな、って気持ちはわかるよ? でもさ、もっと他の言い方があるんじゃないかな。


 このあんぽんたん! って怒りたくなったけれど、そこはぐっと我慢。

 なぜならぼくは人間文明の生み出した知性の後継者なのだから、ぼくの持つべき武器は理不尽な感情の暴走ではなく、言葉という理性の結晶なのだ。


「いいかい? 世の中のことがらっていうのは、みんな意味があるんだ。

 この開かない扉だってそう。

 きっとこれは思うがままにならない若人の限界のメタファーで青春のコンティンジェンシープランなわけ。そう、いわゆるグロースハックのレゾンデートルであって、シュリンクされたイシューをどのようなスキームでソリューションしていくのか、ヴィルトゥオーゾの萌芽をぼくにアフォードしてくれてるんだ。

 ジャストアイデアなんだけどね!」


 このあいだ、自己啓発本を読んだぼくには隙なんてなかった。理論という武器を標準装備したぼくはまさに知性の砦の守護者なのだ。


 ぼくはふふん、と得意げに笑ってフリートークを見た。

 ぐうの音も出まい。


「ティンコぷらぷら? ティッシュでシュッシュ? そもそも、ぜんぜんいわゆってねーし。頭のネジがウィンウィンしてんじゃねーの?」


 こっぱみじんこ!


 女の子には口では勝てないって言うけれど、ぼくの言葉はトカゲにすら敵わないらしい。付け焼刃の張りぼてでできた知性の砦はあっという間に崩壊して、何も言い返せなくなってしまう。


 ぐぬぬ。


 ぼくが歯ぎしりしていると「へっ」とフリートークが勝ち誇った目でぼくを見る。


 ぐぬぬぬ!

 こうなると、なんとしてでも開けたくなってきたぞ!


 どうやったら開けることができるかな?

 扉はジェラルミン製で頑丈だ。鍵は生体認証オンリーでピッキング不可。外から壁を破壊しようにもここは地下。


 普通なら詰みってやつだ。

 でも、ぼくは問題を解決するための方法をピーンとひらめいた。

 ぼくは賢いのでピーンとひらめいたのだ!


 ぼくはぴゅーっとこちらもわざとらしく口笛を吹いた。イメージはニヒルな西部劇の主人公のつもりだったけれど、音は掠れてそんなにかっこよくは鳴らなかった。


「フリートーク。こういうときはさ、鍵を探すのが王道ってやつなんじゃないかな?」


「あん? 生体認証だっつってんだろ? モームの腕でも切断して持ってこようってのか?」


 ――みなさんはマスターキーと言うものをご存じだろうか。

 異なったいくつもの錠を開けてしまうという、あのマスターキーである。


「あれれー。こんなところに鍵があるぞ」


 そして、ぼくの手には”偶然”マスターキーがあった。これぞ主人公らしいご都合主義ってやつだね。

 いや、これこそがぼくが主人公である証なのだ。


「お前まさか……」


 ぼくはすぅっと息を整えて、マスターキーを構えた。


「扉よ開け、エイサアァァァァァップ!!」


 フリートークが口をつぐむのを横目に、ぼくはその”マスターキー”を扉に向けて振り下ろした。

 金属と金属がぶつかるすさまじい音が静謐だった空間を引き裂き、ぼくはその手ごたえに解錠に成功したことを確信した。


「よし、開いたぞ!」


 ぼくはフリートークに向かって得意げに笑ってやった。

 金属製の扉はひしゃげて無惨にも大きな裂け目が開き、その奥にはたくさんのモニターが見えた。


 ――マスターキー。


 すなわち非常時にドアをぶち破るための斧である。

補足:

エイサップ(ASAP)・・・できるだけ速く

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