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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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嵐の前 2

 街に繰り出したぼくを待っていたのは、驚くほどの活気だった。想像の遥か上をいく人数と、賑やかさ。


 まず目にはいったのは、大道芸人さんたちを囲む人だかり。

 腕相撲や、ジャグリング、レッドスネークカモンや人間打ち上げ花火。そしてそれを見物する数多(あまた)の人々。

 もっと魔法をぱーっと見せる感じなのかな、と思っていたんだけど、こういう光景は魔法という技術があっても変わらないらしい。


 単純であるけれど、大道芸人さんの努力の結晶が、見ていて楽しくて、たまにおヒネリを渡しながら、通りを行く。


 そしてその一角に。


「さあさ、お立ち会い。御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと見ていきなさい。これから始まりますのは空前絶後の大魔法! ()ぐのはいつでも()げるけれど、今日を逃せば二度と見られないわよ!」


 大魔法!!!

 そうそう! いや、別に人間ジャグリングが悪いとは言わないけど、やっぱりせっかく亜人さん文明に触れ合っているんだから、ぼくが求めているのはそういうマジカルなやつなんだよね!

 どんな人がやってるんだろう、なんて覗くと、


「って、ギギさん?」


 それは昨日会ったシルバーブロンドの魔法使いの女性だった。

 昨日は「普通にこんな服着る人いるんだ……」って思うような服装だったけれど、こういう場所だととても馴染んだ感じ。


「さて、お立合い。わたしがここに取り出したる液体はズダコンの油。『ははーん、ズダコンね。ズダコンの油ならうちでも揚げ物に使ってるわ』なんて言う人もいるかもしれないけど、これは人間文明の秘術、錬金術から生み出された奇跡の油。そんじょそこらのズダコンの油とは火力が違うの。どれくらい違うって?」


 彼女は、おもむろに袋を取り出し、中の液体を口に含んで……


「ならば見るがいい! ふはは! 地獄の狂炎。ヘルファイアあああああああああ!!」


 なんとびっくり、口から炎!

 すごいな! さすが大まほ……


「結局ただの大道芸!?」


 しかも面白人間方面の!

 美人がやってるって意味だと、ある意味見ものではあるけれどさ!?


「誰よ!? 大道芸なんて言ったのは!」


 ギギさんはめざとくぼくを見つけると、つかつかとやってくる。


「ちょっと、あなた! 聞こえたわよ! 誰が大道芸ですって!? ――って、あら、フルーフじゃないの。師匠はどうしたの? ははーん、なるほど。このわたしの強大すぎる大魔法が見たくてひとりで来ちゃったのね」


「大魔法っていうか、ただの大道芸だったよね?」


「ふふん、強力な魔力をもつとはいえ、しょせん使い魔、浅はかね。ぜんぜん大道芸じゃないわよ。ほら、これを見なさい」


 突きつけられたのはその足元にあった箱だった。

 黒い布を張り付けた、もしもプレ貨が投入されたなら目立つだろうなっていう箱。

 たぶん、おヒネリを入れるための箱。


「おヒネリがまだ1プレカも入っていないから、大道芸じゃないわ。セーフよ、セーフ!」


「アウトだよ! おヒネリ求めてる時点でアウトだよ! だいたい、治安維持のために雇われたって言ってたよね!?」


「今日は担当の日じゃないからいいの! それに、さっきのは暴れたらこの炎で焼き尽くしてやるっていう警告だから! れっきとした治安維持活動だからセーフ!」


「判定がガバガバすぎる! 誰がどう見てもアウトだから!」


「ふっ。その意見は貴重なお客様の声として覚えてはおくわ。……そんなことより。はいっ!」


「え?」


 出されたのはパーにした右手。お人形のような綺麗な白いお手て。

 求められたのはなんだろう?

 お手かな? それともおかわり? はっ、まさか……チンチン!?

 おおっとぉ!! 犬に命令する際の『チンチン』は「鎮座する」からきているとされているので、決して卑猥な言葉ではございません!!!

 

 ――というわけで、


「はい」


 ぽむっとぼくの手を乗せてあげる。


「違うわよ! あなた、わたしの大魔法を見てたんでしょう! だったらお代よ、お代。ギブ・ミー・プレカ!」


「押し売りにもほどがあるよ!?」


「何よ、ケチくさいわね」


 彼女は拗ねたように言うと、ふと何かを思いついたようにひひ、と笑った。


「じゃあ、代わりに、師匠のこと教えなさいよ」


「師匠って……ミラのこと?」


「そう、ミラっていうのね。そうそう、その子のこと」


「そうだなぁ、ちっちゃいよね」


 よく考えるとぼくってばあんまりミラのこと知らないよね。

 捨て猫を拾ったくらいの感覚っていうのかな? いまがよければそれでいいじゃん、的な?

 ぼくの言葉にギギさんは不満であったらしい。ぷーっとほほを膨らませた。


「そんなこと、見ればわかるじゃないの。もっと……こう、内面的な?」


「すぐ怒るし、拗ねるし、器もちっちゃい!」


「だから! そういうことじゃなくて!」


「あと、おっぱいはすごくちっちゃい――あいたぁっ! なんでぶつのさ!?」


「師匠に代わって成敗してあげたのよ!」


 まったくもう! ギギさんってば乱暴者だな!


「だいたい、どうして師匠なんて欲しいのさ? ギギさんってばすでに優秀な魔法使いなんでしょ?」


 彼女はふふん、と「わたしには夢があるのよ」と胸を張った。


「夢?」


「魔法とは、すなわち世界の理の探究。絶対者の知識を得ようと努めた先人たちは、数学的・論理的な方法で物理的世界の現象の背後にある真理を探究しようとする、いわば亜人文明における科学者であり、すなわち知識の継承こそが魔法の探究において――」


「本音は?」


「有名になって、めっちゃちやほやされたい」


「うん、正直でよろしい」


「――はっ!? さすが師匠の使い魔ね……誘導尋問だなんてなかなかやるじゃないの」


「ギギさんってばとっても地味にポンコツだよね」


「誰がポンコツよ!? ええい、首のあたりをわしゃわしゃしてやる!」


「あんただよ! ええい、図星を突かれたからって喉のあたりの毛をつかまないで!」


 ああん! このままじゃ、せっかくの祭りがこの人のお世話で終わっちゃう!

 なので、ぼくはぴゅーっと逃げることにした。


「さよならパイパイ、また会う日まで!」


「あ、ちょっと! 待ちなさーい!」


 ぼくはギギさんを振り払って、でも彼女はぼくのあとを追いかけてくる。

 大道芸はどうしたの!?


 そんなわけで、祭りの朝は鬼ごっこから始まった。

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