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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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全裸でGO! 7

「ふーん、よくもまあ、あんたらの技術力でここまで修理できたもんだ。大したもんだ」


「100年かけてようやくここまできたんだ。褒められたものではないよ」


 フリートークがあたりをジロジロ見回して、ふーむと感嘆のため息をつき、ペールエールさんが肩をすくめる。


 船のなかはとても明るく、通路はそれなりには広い。

 壁を叩くと、木製のような密度の低そうな感触が返ってくる。

 フリートークに尋ねたら、宇宙船の密閉感を薄めるためにわざとそういう感触になっているとのこと。

 でも、そんなことより、ぼくを驚かせたのは、


「100年!?」


 ぼくが生まれて10年だから、その10倍も!?

 ペールエールさんのおじいさんの代からずっとずっと修復されてきたってことになる。

 驚いていると、ペールエールさんは壁をコンコンと叩いた。

 

「100年前に発掘されてから、莫大なコストと時間がつぎ込まれているんだ、こいつにはね。

 だっていうのに、この船ときたら宇宙どころか、空さえ飛ぶ気配がない。まったくもって人間様たちの偉大さには感服するよ」


 亜人さんたちの根気ってすごい。

 ぼくは10年間ずっと農作業ばっかりやってたけど、たったそれだけの時間で退屈だなー、って思っちゃったのにね。


「どうして、あきらめないの? ぼくだったら絶対にあきらめてると思うな」


 尋ねると、ペールエールさんは力強く「夢だよ」と答えてくれた。

 

「どういうこと?」


「グールが猛威を振るっている理由はいくつかあって、そのうちのひとつが戦力の分散なんだ。

 グールに対抗できるのはほんの一部の熟練の魔法使いだけなんだけど、彼らは防衛のために色んな街に分散して生活しているからね。

 そうすると、大規模なグールの襲撃があった場合、周囲の街から魔法使いを動員する必要があるわけだけど、遊有船(ふゆゆせん)では速度が遅く、街が蹂躙されきってから戦力が(つど)う、なんてことがよく起こるんだ」


 人手不足って大変だね。

 ペチカも村から出ていくことを反対されたらしいけれど、グールを倒すことができる魔法使いが貴重っていうなら納得かも?


「なるほどな。こいつの速度なら、あんなプカプカ浮かんでるやつよりもよっぽど速いな」


「そう。浮遊有船(ふゆゆせん)のように、風にたゆたうか弱い綿毛ではなく、グールを打ち倒すという鋼鉄の意志の象徴なのさ。

 この船の名はグランカティオという。

 いつか、大陸中を飛び回る勇者の剣になってほしいという夢の名前だ」


 さっきはリュネさんってば変な人が好きなんだなーって、趣味を疑っちゃったけど、夢を語るペールエールさんってばなんかカッコイイね。


「……まーた、そんな夢みたいなことばっかり言いやがって」


 ぼそっとリュネさんが言う。

 顔を紅潮させて説明するペールエールさんとは対照的に冷めた態度だったけれど、ちっちゃい声で「でも、そんなところがかっこいいんだよなー」って言ったのが聞こえた。


 甘酸っぱーい!

 間違いない。これはラブコメの香り。


 う、うらやましくなんてないんだからね!?

 だってリュネさんってば、そんなにおっぱいおっきくないし!

 って思ったら、「なんだとてめえ」ってわしゃーっと首の毛を引っ張られた。

 心と心で通じ合う。

 とっても美しいフレーズだけど、こんなところで必要のない奇跡を引き起こさないでほしい。


 そんなこんなで親睦を深めながら船の中を進み、


「ここが今回のパーツの組み込み場所だ。

 エンジン以外の修理はもうほとんど済んでいて、あとは出力さえでれば動くはずなんだ。空を飛ぶ程度にはね」


 案内されたのは、エンジンのコア部分だった。

 かつては人類文明の科学の粋が所狭しと詰め込まれていたはずの空間には、代わりに不思議な光沢の丸や四角のパーツがぎっしりと詰め込まれていた。

 ぱっと見た感じではどこが足りないかなんてわからないくらい整然と組み込まれている。


「なるほどな。これが動かない理由ってわけか」


 ぼくには何がどうなっているかなんてさっぱりだったんだけど、フリートークが唸って、ペールエールさんも首肯する。


「人間文明時代の動力や有機部品を再現することができなくてね、いま運んできてもらったような魔法科学の代物で代用している。

 だけど、出力が足りなくてね。

 フルーフは呆れるかな? かつて空の果て、蒼穹の向こう側さえ自由に飛んだ船をこんな風にしてしまって」


「そんなことはないよ。彼もきっと喜んでるよ」


「彼?」


「この船のAIがね。いまはちょっと居眠りしているけれど、目が覚めたならきっと喜ぶよ。

 ぼくなら、鬱屈とした埃のなかで朽ち果てるよりも、どこまでも無茶をして壊れるほうがうれしいな」


 運んできたパーツを指定の場所に置くと、その重量で船が揺れた。

 ぼくにはそれが船が少し嬉しそうにしてるように思えた。

 『もう少しで動くことができるぞ』ってね。


★☆


 ペールエールさんの船内案内が終わって、ぼくたちは工廠の表口に出た。

 表口は広場になっていて、あれがニュルンケルさんかな? って銅像や、ミニチュア宇宙船のオブジェクトやが設置されていた。

 たぶん観光客の人たちはここが目的だったんだろうけど、空はもうすっかり暗くなっていて、観光客の人々ももう見えない。

 

 そんな広場の一番目立つ場所、小さな祭壇みたいなものがあった。

 

 「あれって記念碑?」


 頂上にあるのは剣かな?

 まさに物語の中にでてくる伝説の剣のように、硬そうな岩に逆さ向きに突き刺さった剣が、夕焼けの中に黒い影を映し出していた。

 コミックなんかじゃよく見る状況で、あまりにも王道すぎて陳腐な情景だけど、いざ目の当たりにすると、少年の心がむくむくと鎌首をもたげてくる。


「あれを抜いたらもしかして勇者になっちゃったりして?」


 ぼくがワクワクしながら、ちょっと触ってみようかな、なんて思っているとペールエールさんが苦笑した。


「まさしくその通り。あれは聖剣ポロワントという。

 勇者ニュルンケルは、岩に突き刺さった剣を抜いたことを切っ掛けとして、アルゼパインと共に旅に出たとされているんだけど――」

 

「あれがその聖剣?」


「残念ながら、あれはレプリカだ。本物の聖剣は行方不明になっている。

 さらに言うと、突き刺さった部分は固定されていて、抜けるようにはなってはいないしね」


「なんだ、ただの街興(まちおこ)しオブジェクトかよ」


 フリートークがひひひって意地悪く笑うけど、ペールエールさんは優しく笑った。


「あの剣もグランカティオの一部なのさ。

 船が完成したとき、きっとその時代の最高の勇者に託されるだろう。そのときに、この剣は抜けるように入れ替えられるんだ。

 そして、それまでに剣を抜こうとした平和を望む者たちの――私たち亜人全ての夢を背負っていくっていう決意の証となるんだ」


 その言葉を聞いて、ぼくは「かっこいいな」って思ってしまった。

 いまはおもちゃのようなただの鉄塊だけれど、あの置物の剣には亜人さんたちの夢と希望がぎゅっと詰まっているのだ。

 100年間脈々と受け継がれてきた平和を勝ち取ろうという意思が、グランカティオであり、あの抜けない剣なのだ。


「あれ? でも片付けちゃうの?」

 

 工廠の従業員の人たちが布らしきものを持ってきて、祭壇を覆いはじめた。なんでかな? って、ぼくが尋ねると、リュネさんがその理由を教えてくれる。


「祭りの3日目に教会主催で盛大に儀式がおこなわれるからな。清掃や飾り付けのために、1日目や2日目はいったん非公開にするんだよ」


「だったらさ、その前にぼくも試してみていいかな?」


「さっきの聞いてたのかよ、抜くも何も固定されてるんだぞ?」


 リュネさんが呆れたように言うけど、ぼくは「うん」と頷いた。


「いま、ペールエールさんは亜人さんたちみんなの夢って言ったけど、ぼくも亜人さんたちがグールに勝利する日が来るのを願っているからさ。ぼくもその祈りに混ぜてほしいって思うんだ。

 駄目かな?」


「そういうことなら大歓迎さ」


 ぼくはペールエールさんにありがとうと言って、ミラやリュネさんと一緒に祭壇に登った。

 祭壇を覆う作業をしていた従業員さんたちが、その作業を一時的に中断して道を開けてくれる。

 階段は5段程度の小さな祭壇。その頂上には、墓石のような黒い光沢のある静かな石と、そこに突き刺さったあまり特徴のないシンプルな剣。

 

 いったいいままでどれくらいの人たちがこの剣に祈りを託したんだろう。

 そう思うと祈りにも自然と力が入ってしまうね。

 神妙な顔をして平和の祈りを込め――


「あれ、これって、二拝二拍手一拝? それとも拍手はしちゃいけないやつ?」


「寺でも神社でもねーよ」


「……わたしたち亜人がいつの日かグールに勝利する日がきますように」


 目を離している隙に、ミラが剣の柄を握って祈っていた。その目はどこまでも真剣で、グールという異質な存在がどれくらい脅威なのかを思知らせてくれる。

 最後に、剣を抜くように儀礼的にだけ力を込めて、ミラの祈りは終了した。


「フルーフさんもどうぞ」


 なるほどなるほど。こういう感じなのね。おーけぃおーけぃ、予習は完璧。パーフェクト。

 ぼくは剣の柄を握った。


「いつか亜人さんたちがグールに勝てますように。えい!」


 ばきすぽーん。


「……」


「……」


 抜けちゃった――――――!!!!


 なんということでしょう。

 固定されていたはずの剣先は千切れたようにネジ曲がり、とっても哀れな感じになっていた。


 はわわ、ど、どうしよう!?


 ぼくが助けを求めて振り返ると、


「絶対にやると思ったぜ」とため息をつきながらフリートーク。


「想像通りすぎます」と冷たい目線のミラ。


「ひどい! みんなしてぼくを信頼しなさすぎじゃない!?」


「自分の胸に当てて考えてみろよ」


「……おっぱい的な意味で? ――ああっ! ジョーク! ジョークだから! だからリュネさん、喉をワシャワシャするのはやめて!?」


 くそっ! 亜人さんたちの世界ってばなんて理不尽なんだろう!

 ちょっと引っ張っただけで抜けちゃう聖剣のほうが絶対に悪いっていうのに!!!


 それはともかく、


「――よし、見なかったことにしよう」


 ずぽっ。


 もう一度石の中に突き刺すことにする。

 ペールエールさんや作業員さんたちのほうを恐る恐る見ると、彼らはそろって引きつった笑顔を浮かべていた。


「み、3日後の儀式までには固定しなおしておくから大丈夫さ。そんなことよりも私たちのために祈ってくれたことに感謝する」


 こんな状況でもダンディな笑みを絶やさないペールエールさんって大人だなーってぼくは思った。

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