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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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全裸でGO! 6

「……リュネさん?」


「……」


 声をかけてきた男性は、悪い人ではなさそうだったけれど、リュネさんの挙動不審さに、ぼくたちは揃って「どなたさま?」ってリュネさんを見た。

 リュネさんはというと、相変わらずおかしな感じ。表情をうかがってみると、ちょっと目がうるんで顔が赤い。


「……おーい、リュネさーん」


 顔の前で手を振っても、声をかけても、反応はなし。完全に思考停止状態。

 さっきまであんなにオレオレしていたっていうのに、まるで別人のよう。

 

「うーん、頭を斜め45度からびしっと叩いてみると治るかな?」


「絶対にやめてください」


 いつの間に起きてたんだろうね。ミラが強い口調で引き止める。

 ちょっとだけ眠って疲れが取れたのか、ぼくが「どうしてもダメ?」と聞くと、「どうしても、です」との力強い返答。


 もしかして、手加減が苦手って思われているのかな? だとすれば大変心外である。ここはひとつ、人間文明の威厳を見せねばならんのではなかろうか!


 そう思って、フリーズしているリュネさんにそーっと近づき、叩こうとした直前、リュネさんはカクカクと動き出した。


「ごきげんよう、ペールエールさん。本日もいい天気ですわね?」


「ほんとに誰だあんたっ!? はわわ、どうしよう。リュネさんが壊れた!」


「うっせえバカ! さっき、お淑やかに戻ってって言ったのはあんただろ! ――じゃない、あなたでしょう!?」


「限度があるよ!? だいたい、ちょっとだけ言葉づかいを直しても、胸倉つかんで脅してたら意味ないから!」


「胸胸うっせー。このおっぱい野郎!」


「胸倉とおっぱいってどう考えても違う場所だよね!? ――だからといってぼくのおっぱいを揉まないで! きゃーえっち!」


 ぎゃーぎゃー、わーわー。

 再度勃発したもみあい。


「はは、相変わらずだな」


 そんな不毛なやり取りを止めたのは、ははは、とさわやかな笑みを浮かべた男性――ペールエールさんだった。

 ぼくらの(いさか)いを見なかったようにさらりとスルーするあたり、彼はなかなかの胆力の持ち主である。


「そ、そうか。うん。そうだ……じゃない。そうですわね」


 リュネさんってば、いったいぜんたいどうしたんだろうね?

 ミラとフリートークに視線で尋ねると、彼らは含蓄深くうなずいた。


「恋、だな」


「恋、ですね」


 ……鯉? 来い? 濃い? 恋! リュネさんが!?


「ええ! それってリュネさんがペールエールさんを好きってことぉっ!?」


「な、な、な、なに抜かしてんだ、てめえ!?」


「はは、そんなこと言うと殴られるよ?」


「現在進行形で殴られてるんだけどっ!?」


 ぼくの喉をわしゃわしゃしていつもの調子が戻ってきたのか、リュネさんは、一度大きく咳払い。

 ごほん。


「あー。とにかく……。紹介するぜ。こいつはペールエール。ガーライルの弟だ」


「弟ぉっ!? うっそー、似てない!!」


 だってこの人ってば渋いんだもの。

 物腰も落ち着いているし、むしろペールエールさんのほうが兄って言われても信じられるくらい。

 というかガーライルさんの年齢って20半ばくらいと思っていたけれど、もしかして30どころか40近い?

 ぼくが驚いていると、ペールエールさんのほうは朗らかに笑った。


「よく言われるよ。私は結構似てると思っているんだけどね。みなさんは兄の知り合いかな?」


「ガーライルの乗っていた船がグールに襲われてな。それを助けたのがこのひとたちだ。

 ああ、お前の兄貴は無事だから安心しろ。船の荷物の清算をしてる」


「そうか。それはぜひとも礼をしなければならないな。いや、まずはありがとうの感謝の言葉だな」


 ペールエールさんはぼくたちに握手を求め、ぼくたちも互いに自己紹介しながらそれに応える。

 船の修復の主任だと名乗った彼の手は、ごつごつとした探究者の手だった。



「それはそうと」


 ぼくとミラが自己紹介をしたところでペールエールさんは、ずずいっと近づいてきて、首の隙間から覗いていたフリートークをめざとく見つけると、まじまじと見つめた。

 

「ぶしつけですまないが、さっき、宇宙船について詳しく語っていたのは、そのデバイスかな?」


「デバイス? ああ、フリートークのこと? そだよ。まったくこのデバイスときたら、宇宙船を見るとはしゃいじゃって」


 ぼくはフリートークを着ぐるみのなかから取り出すと、首のあたりを持って、ぶらーんと目の前に吊り下げた。

 

「SAW系列のデバイスかと思ったが……違うな。触ってみても?」


「どうぞどうぞ」


「触るだけで何がわかるっていうんだか」


 ぼくがフリートークを手渡すと、フリートークは深々とため息をついた。

 受け取ったペールエールさんのほうはというと、技術者らしい細かい気配りでひっくり返したり、口をあけてみたりしはじめる。その表情ときたら真面目そのもので、リュネさんが惚れるのも納得しちゃうな、ってくらいカッコイイ。

 もてあそばれるフリートークもやれやれ面倒くせえ、っていう表情だけど、なすがままにされていた。


「ひっぱってみても?」


「どうぞどうぞ」


「まったく、つねって何がわかるっていうんだか」


 フリートークの頑丈さを見切ったんだろうか。ぼくがふたつ返事で返すと、今度は尻尾と頭を持ってギューッと引っ張る。

 引っ張られたフリートークのほうも、別に痛覚があるわけでもないし、人の腕力でどうにかなるものでもないので余裕の表情。


「くわえてみても?」


「どうぞどうぞ、って、え? くわえ……?」


「ぱくっ」


「もがー!!!!」


 なんということでしょう。

 布できゅっきゅっと拭いたと思ったら、なんとペールエールさんはキス……と思いきや、大きな口を開けて、その頭をぱくっと!

 

「それ、ぼくの持ちネタだから!!!」


「前のアレはネタでやってたのですか」


 ミラが白い目で見てくるけれど、いまはそんなことどうでもよろしい。

 ぼくがあわわ、となっていると、リュネさんが小声で尋ねてくる。


「何をそんなに慌ててるんだ? もしかして、あのトカゲの材質には毒性があるとか?」


 いやいや、そんな細かいことじゃなくて!


「フリートークのファーストキッスが奪われちゃったんだよ!? しかもディープキス!

 ぐぬぬ、まさかトカゲロボットに先を越されるなんて! 亜人さんってば守備範囲が広すぎるよ!?」

 

「そういう問題かよ」


 あきれたようなリュネさんの嘆息をよそに、ペールエールさんのほうは意に介した様子もなく、しばらく口をもごもごと動かすと、やがて「ぺっ」とフリートークを解放した。


「味からすると、材質はコグニムが多めかな? だが、それにしては感触が分厚い。伝導率も少し高め、と。なるほど。興味深い」


「きゅー……」


 ペールエールさんは考え事をしながら、唾液まみれになったフリートークを近くの水道であらって布で拭いて返してくれる。

 

「ありがとう。とてもいいデバイスだ。

 こんな完全な形で人間文明の対話型デバイスが残っているのは珍しいんだ。

 もしかして冒険で手に入れたものかい? だとすれば、今度ぜひこのデバイスを手に入れたときの話なんかも聞きたいものだね」


 フリートークのほうはというと、きゅーっと目を回していた。モーレツなキスだったから仕方ないね。


「あはは。フリートークってばこの街にきてからひどい目にあってばっかりだよね」


「誰のせいだと思ってんだ、この野郎」


「む。まるでぼくのせいみたいな言い方はやめてくれたまえ」


「どっからどう見てもお前さんのせいだよ」


「なんと」


 なんということだろう! ぼくのせいでフリートークがひどい目にあってるなんて!

 胸が痛んじゃうね。おっぱい的な意味じゃなく。



「――ま、それはそうとして」


 閑話休題。

 とにもかくにも、この場の主役は宇宙船なのである。

 

 なので、ぼくはキラキラした目でペールエールさんを見た。

 だって、せっかくこんなところに来たんだから、中を見学したいなーって思うのは自然の摂理だよね。


 着ぐるみの奥からの、ぼくの視線に気づいたのか、ペールエールさんは首を傾げ、ほほ笑んだ。


「君は実にいい目をするな。素晴らしい研究者になることができる、そういう目をしている」


「そうかな?」


 それはそれで嬉しい答えだけど、ぼくが求めているのはもっと違うことなのである。もう一度、船の中を見せてよ、って首を傾げる。

 ここで口に出さないのがつつましい人間文明の()り方なのだ。


「ああ、本当にいい目をしている」


「ほんとにそう?」「そうさ」「そうなのかー」「その通り!」「そったらな!」「そいやっ!」

 

 暖簾に腕押し。糠に釘。

 ぐぬぬ。ペチカならすぐに見せてくれたのにね。ペールエールさんってばなかなか手強い。


「……お前らなんでそんなに仲いいんだ?」


 ぼくたちのやり取りを、ジト目になったフリートークが止める。

 

 なんでって?

 ぼくとペールエールさんは互いに「うん」とうなずくと、両の手を組み合い、


「「友情!」」


 ハートの形で露骨な友達アピール!


「さっき会ったばっかりなのに何言ってんだお前ら……」


「不潔なのです」


「犬に蹴られて死ね」


 ぼくたちの友情に対する嫉妬の目が心地いいね。


 確かに、さっき出会ったばっかりなんだけどさ。こう……一目見たときから、びびびっとくる感じ?

 

「もしかして、こういうのが運命的な出会いっていうのかな? 自然な流れすぎて気づかなかったけど」


欠片(かけら)も自然じゃねーよ」


「類は友を呼ぶというが……」


「わたしが同類であるような言い方はやめてください」


 こういうのってロボットや女性陣にはわかんない感覚なのかもね。

 三者三様のツッコミに、ぼくとペールエールさんは顔を見合わせて笑った。


「はは。ともかく、せっかくきてくれたんだ。ぜひともぼくたちの努力の結晶――この船をじっくり見ていってほしい」


「あれ、さっき意地悪した割にはずいぶんと乗り気?」


「実のところを言うとね、私の方も船を自慢したくて仕方なかったのさ。

 それに、わざわざリュネが付き添いできたんだ。もともとそのつもりなんだろう?」


 「まあな」とリュネさんが返事を返し、ペールエールさんがバスガイドよろしく先導してくれて、ぼくたちは船内に入ろうとして、


「あいた」


 入り口の天井に頭をぶつけて、ころりんと転んだ。


「その着ぐるみにはちょっと小さかったかな。脱ぐのを手伝うよ」


 起き上がるのを手伝ってくれたペールエールさんが、着ぐるみの頭を掴んで。


 すぽっと。


「あ」


 着ぐるみの下、ぼくの素顔と目があった。


「おや、これはびっくりだな」


 でも、それだけだった。

 彼はギギさんとは違って、ことさら騒ぎ立てることなどなかった。


「驚かないの?」


「驚いているとも。中の人が思ったよりもかっこよかったってことにね。

 さらに言うと高身長で、毛の艶もいい。うらやましいね。

 人間文明の時代に褒めそやされた3Kとは、君のような人を言うのだろう」


「絶対に違うと思う」


 褒められちゃったけど、納得できるような、できないような、そんなむずがゆさ。

 なんでだろね? ぼくは首を傾げて、そして違和感の理由にたどり着く。だって中の人なんて言われても、


「そもそも人じゃないし?」


 亜人さんが人を名乗るのは納得できる。だって彼らは人の形をしていて、人間さんの後継者を名乗っているんだもの。

 でもぼくはただの農作業用ユニットで、見た目は大きなシロクマだ。どこにも人の要素なんてない。


 ぼくが頭にたくさんのクエスチョンを浮かべていると、ペールエールさんは「私は教会の司祭ではないからあんまり立派なことは言えないが」と前置きして、


「欲をもつものを生物と呼び、高い知性によって克己するものを人と呼ぶ。

 こんな状況において、まず私を気遣うことのできる君を、人以外のなんと呼ぶことができるんだろう」


「……よくわかんない」


 はは、っとペールエールさんは「それに何より」と楽しそうに笑った。


「私たちはもう友人だろう?」


 ぼくははっとしてしまった。

 思わず手を組んで、にこやかな笑顔!


「「友情!」」


 腕組みでハートを作って、露骨な友達アピール!!!

 不思議だね。さっきの疑問なんて、こうやってると笑い飛ばせる程度の小さなことのように思えちゃう。


「不潔なのです」


「もうお前ら、好きにやってろ」


「脳まで腐って死ね」


 嫉妬の目がとっても気持ちいい!

 リュネさんからはちょっと殺気を感じるけど!


「よし。じゃあ、とりあえず見学ついでにあそこに置いてあるパーツをもってきてくれないか。

 重くてね。人手が足りなくて困ってたところだったんだ。

 ぼくたち友達だろ?」


「友達になったらなんだか扱いが雑になった!?」


 でも、持っていっちゃう! 我ながらチョロいとは思うけどね。


 よっこいしょぉ! と指示された分厚い木箱を担ぎ上げると、ずしっとした重みがかかる。なるほど、これは確かに普通の人間なら10人がかりでもきついかも。

 ぼくが簡単に持ち上げるのを見て、ペールエールさんはぴゅーっと口笛を吹く。


「すごいな。思っていた以上に力持ちなんだな、フルーフは」


「ふふ、もっと褒めてくれたまえよ。ペールエールさん」


 ぼくってばほんとにチョロいね。

 だって、ちょっと褒められただけでピロピロと好感度が上がっていくんだもの。

 具体的に言うと、放っておいても攻略できちゃう恋愛ゲームのヒロインくらい!

 

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