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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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全裸でGO! 5

 荷物を届けたぼくたちはおじさんと別れて、海沿いから大きな橋を渡り、埋立地に建てられた工業地帯へ訪れていた。


 橋ひとつだけで陸地と繋がっているこの埋立地は、有事の際の避難地に指定されているんだ、とリュネさんは教えてくれた。


 工場地帯のメインストリートは人間文明の工業地帯のものを再利用しているらしく、とても広い。行きかう荷馬車や車両は結構多いけれど、かつて、この道を通っていた大型トラックに比べれば小さいし、数も少ない。

 キャパシティ的には、まだまだ全然余裕って感じ。

 

 工場地帯にも何らかの観光地があるのか、ぼくたち以外にもちらほらと観光客っぽいひとがいるのがちょっと驚きかも。

 とはいえ、太陽が傾き始める時刻に差し掛かり、そういった人たちは帰路、つまり、ぼくたちとは逆方向に歩いているのだけど。


「ふぁあ……」


「疲れたか?」


「いえ、大丈夫です」


 少し疲れたようにあくびをしたミラを、リュネさんが気遣う。

 今日は結構歩いたから、ちっちゃい子にはつらかったのかも。ぼくは「無茶しちゃいけないよ」って、有無を言わせずミラを背負ってあげる。

 背負うと、とたんに疲れがでたのか、まるで軟体動物のように力の抜けた重みが背中にかかった。


 着ぐるみの上からでも伝わる、小さくて華奢な体格。やっぱりこの()ってば、負けず嫌いすぎる。

 リュネさんにもそれは伝わったらしい。少しだけ苦笑した。

 

「さて、次が今日最後の案内先だ。ほら、そろそろ見えてきたぞ。あそこに見えるだろ」


「あそこ? うーん、と。あれは……船?」


 リュネさんの指さしたのはひとつの工場。いや、工廠(こうしょう)といったほうが近いかもしれない。

 いまぼくたちがいるのは小高い丘の上なので、その全体図がよく見える。

 街に隣接した港とは違い、小型のコンテナ船が停泊している。無骨な鋼鉄やコンクリート造り丸出しの設備は工業的な要素が色濃く、レトロさと力強さを感じるそんな光景。

 そして、リュネさんの指さす方向、ひときわ大きな工廠。屋根や壁はあるけれど、大きな大きな扉が開け放たれていて、ここからだとその中に船が鎮座しているのが見えた。


「おいおい、マジかよ。あれは……」


 珍しいことにフリートークが驚きの声をあげる。

 これまで着ぐるみのなかに隠れていたっていうのに、首の継ぎ目のあたりから這い出してその目をきゅっきゅっと細める。


 船と言っても港に停泊していたどの船とも全然違う。大きさは昨日乗った船よりも一回り大きい。

 船体は金属を思わせる青みがかった虹彩をもつ材質でできていて、ファンタジーというよりはどこか科学的な素養を思わせる。

 だけどもっとも特徴的なのはその形だ。

 流線型で、飛行船――いや、どちらかといえば小さな翼の生えた潜水艦というほうが近いだろうか。


「なかなかすごいだろ?」


 リュネさんが得意げに笑い、フリートークもうなずく。


「ああ。まさかあんなもんがまだ残っているとはな。

 三丸重工製 鮪型(シビがた)宇宙船。骨董品だぜ、こいつは。

 フルーフ。これはな、かつての人間文明が宇宙を支配しようとした時代の、夢の残滓(ざんし)だ」


「宇宙船!? 超かっこ――」


 いいって言いかけてぼくは違和感を感じた。


「わんもあせい?」


「三丸重工製 鮪型(シビがた)宇宙船。人類文明の宇宙生命工学の最高傑作さ。

 要は(マグロ)だ、宇宙マグロ。まさか地上にでてあんなもんが拝めるとはな。 やべえ、オレってば、ちょっと感動してる」


「フリートークってたまに変なところで感動するよね。にしても……マグロ?」


 こんなにはしゃぐフリートークを見るのって初めてかも。


 よくよく見ると確かにそのフォルムはマグロそのものであった。

 翼のように見えていたのはヒレだったらしい。言われてみればほんとに流線型のお魚さん。青みがかったおなかはとっても脂がのっていておいしそうに見える。

 頭の方を見ると、真珠のような不思議なパーツがついてるけれど、あれが目なのかな? 宇宙船っていうけれど、いざ宇宙空間で漂流しちゃったときにDHAやEPAには困らなさそうで大変よろしい。


「あの宇宙船って生物なの? でも2000年経ってる割には腐ってないけど」


「正しくは人工生物の集合体だな。

 宇宙っていうのは何にもないように見えて、結構危険なんだ。

 隕石はもちろんだが、小さな石ですら高速で飛んでくれば危険だし、到着した星で想定外の事態に遭遇するかもしれない。

 そういったことに対応するために、短いスパンでライフサイクルを繰り返す生物を外壁に使うことによって、修復と最適化をするようにしているんだ。

 どうだ、面白いだろ?」


 たぶん、面白いって思ってるのはフリートークだけだと思う。


 ぼくが小声で尋ねると、我が意を得たりと食いついて、したり顔。さっきまでの街の中の様子なんかはまったく興味なさそうだったっていうのにね。


 ミラとリュネさんの表情を伺うと、やっぱりこっちは興味なさげなそんな顔。

 人間文明では『女の子には科学のロマンは分からない』って言ったらしいけれど、それは亜人さんたちも同じよう。特にミラの方は「さっさと行きましょうよ」って顔をしていた。


 ……でも、だからといって珍しくこんな上機嫌なフリートークに水を差すことなんてできるだろうか。

 フリートークはぼくのためのサポートユニットだけど、だからこそ、たまには彼をねぎらってあげるべきではなかろうか。

 だから、ぼくは断腸の思いでご機嫌を取った。


「うん。とっても面白い! もっと詳しく!」


「おうとも!」


 フリートークはご機嫌になった。


「あれは、いわゆるフロミロスク群体ってやつだ。

 金属で作った骨格に対して、その表皮部分として万能細胞ともいえる人工生物でコロニーを形成させているんだ。そこにAIが統制を行うことで役割の分担をおこない、擬似的な大型生物として行動できるようになっているわけだな。

 しかも、だぞ。この生命体は金属を消化し、再構築することもできるんだ。例えば衝撃でひん曲がった骨格を見つけると、ひん曲がった部分を食べさせちまって、本来の骨格の形にコロニーを形成させ、集団自殺させることで修復をおこなうこともできるんだ。どうだ、すげーだろ?」


「うんうん。すごいすごい。もっと詳しく」


「おうとも! 任せとけ!」


 ぜんっぜんわかんなかったけど、ぼくはさらにご機嫌を取った。フリートークはさらにご機嫌になった。


「つまり、これによってラジカルラムジュート換水法による超超高圧縮エネルギーの取得に成功し、宇宙空間における超光速移動を可能にしたわけだな。さらにはエーテルプレリリスク現象による酸素と二酸化炭素の分離、さらにはその副産物として得られた化学肥料によって、宇宙空間での永続的な生活を実現し、のちにブロスロンド博士が提唱したリリック理論におけるアーキテクチャーとしてのユニバーサルアニティを実現し――」


 フリートークってこういう話をするのが好きなのかな?

 ぼくは「うん、すごいね。すごい」って相槌を打つマシーンに成り果てて、ミラはぼくの背中で空を見て飛ぶ鳥の数を数えていた。


 そんなぼくらをよそに、フリートークの独演はしばらく続き、やがてミラがうたた寝を始めたあたりで、


「――というわけでこの船はすげえんだ!」 


 と締めくくられた。


 ……結局どうすごいんだろう?

 それがどれくらいすごいのかわからなかったけれど、とりあえずぼくは「すごい、すごい。うん、すごいよね」って同意しておくことにする。


 前に女性誌が『女性は共感されると喜ぶ』って書いていて、実際ペチカなんかはその通りだったわけだけど、トカゲロボットも一緒だね。チョロイ。


 そんなこんなをしている間に、ぼくたちは(くだん)の工廠の手前までたどり着いていた。


 さすがにここまで近づくと、工廠の壁や段差が邪魔で宇宙船は見えなくなってしまっている。

 工廠の前には広場があり、あの宇宙船を見に来た人たちなのかな? まだまばらに観光客がいた。


 だとすれば彼らのいるほうに向かえばいいのかな?

 ぼくは人が集まっているほうへ向かおうとして――


「まて、オレたちはこっちだ」


 リュネさんに着ぐるみの上から的確に首元をつかまれた。ぐえー。

 このひとってば、ぼくの首をつかむことに手慣れてきてない!?


 こっち、と引きずり込まれたのは、工廠の裏側に続く脇道。

 このあたりも明日のお祭りの会場の一部なのか、いつもはいかめしい無骨さがある建物の裏にもテントだとかが建ち並び、いろいろな機材が組み上げられていた。

 通用口の警備員さんとリュネさんは何やらやりとりを交わし、そのまま工廠のなかへ。


 ここまでくれば、リュネさんが何を見せようかっていうのは、ぼくにだって大体の想像がついてくる。

 一番うれしそうにしているのはもちろんフリートークで、逆に一番つまんなさそう……というか、ミラはもはや、背中でぐっすりと幸せそうに眠っていた。


「さて、想像はついていただろうが、あんたらに見せたいものはこれだ」


 ばーん、と通用口から続く通路のドアを開けるとそこには――

 

「すごい! 大きい!」


 宇宙船がその姿を、ぼくたちの前に現していた。

 美しい銀と青の金属的ともいえるコントラストは艶めかしく、そのヒレは空気どころか真空すらも切り裂いてどこまで進みそうなほどに鋭い。

 尾に至っては宇宙という海をゆく王者の風格すら湛えている。

 

「見れば見るほど、おいしそうだよね」

 

 そう、その姿はまさしく、脂の乗ったおいしそうなお魚さんである。


 でも、かつての人間さんたちがこの船に宇宙開発の夢を託したのだと思うと、ちょっと羨ましい。

 だって、ぼくは農業用のユニットっていう、日常の労働を軽減するための存在だから。


 言ってしまえば、トラックとフォーミュラマシンの差っていうのかな?

 もちろん、直接的に人間さんの生活に貢献してるのはトラックのほうっていうのはわかってるけれど、それでもやっぱりこう……憧れみたいのは隠しきれない。


「……」


 見上げると、宇宙船と目があった気がした。

 お魚さんらしい何の感情も見えないその目。いったい何を思っているんだろう?

 

 ぼくが彼の立場なら――きっと、『うらやましい』と言っているかもしれない。

 だって、こんな工廠のなかで本来の力を発揮するどころか、身動きすらできないんだもの。

 ぼくなら羨ましいって思っちゃうだろうな。

 他人の芝は青く見えるっていうけれど、自分の芝だって充分に青い。そのことに気づいてもなお、羨ましいって思うのはどうしてだろね?


「こいつはどの程度の修復されてるんだ?」


 ぼくがそんなことを考えていると、フリートークがリュネさんに尋ねた。


「そうだな。えーと……前に聞いた話だと8割だとか聞いた気がする」


 たぶん、リュネさんはなんとなく答えただけなんだろうと思う。そもそも部外者っぽいし。

 でも、宇宙船を見てはしゃいでいるフリートークにはその答えでは足りなかったらしい。


「うん?

 何をもって8割って言ってんだ? 8割ってことは性能試験は終わってるのか?」


「…………は?」


「せっかくこんなものが(のこ)ってるんだ。下手に飛ばして壊されるのも癪だからな。人間文明の遺産よしみで、オレが確認してやろう。うん。そうだ。そうしよう。

 工程表と試験概要は? ああ、試験が終わってるならエビデンスも確認したいところだな。おっと、単体テストからのエビデンスも全部確認するから」


 わーお。フリートークってばブラック企業の課長さんみたーい。それにしても、このトカゲロボット。やる気満々である。


 対するリュネさんは、しばらく頭の上にクエスチョンマークをたくさん浮かべていたけど、深く考えるのはあきらめたらしい。力強くうなずいた


「あー、その……うん。たぶんもうすぐだいじょーぶ。よゆーだし!」


「全然、大丈夫じゃねーよ」


「――修復自体はもうほとんど終わっているよ。でも、いまの技術力だと動かせるだけのエネルギーが足りなくてね。――もっとも、動いたとしてもとてもじゃないけれど宇宙は……無理だろうけどね」


 考えることをやめたリュネさんの言葉を引き継いで、ぼくたちの背後からしゃべりかけてきたのは一人の壮年の男性だった。

 

 シェパードのような耳を持つ犬人(バウループ)の男性で、整えられた口髭がとってもダンディ。

 同じ犬人(バウループ)のガーライルさんと比べてちょっと上品な感じ?

 作業服っぽいのに、着こなしがとってもかっこよくて、どこかの社長って言われても信じちゃう。

 ゴールデンレトリバーのような優しい深い緑色の瞳が、余裕のある物腰とあいまってカリスマ性の高さを思わせる。


「お、おう……久しぶりだな」


 その男性の姿を見て、リュネさんは喉の奥から絞り出すような、か細く呻くように挨拶をする。

 まるでおびえているような――って、リュネさんがおびえる? まさかだよね。


「やあ、リュネ。久しぶり。警備隊の君が案内してるだなんて、特別なお客さんかい?」


 そんなリュネさんの様子に気づいてか、その男性は愛想よくぼくたちに手をあげて、にこやかに挨拶をしてきた。


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