多くの問題はガーッとやればなんとかなる。3
11/19 エピソードが8000文字を超えていたので分割いたしました。
図書塔から見て北の山の中腹、天空島全体へと電波を送信することのできる位置に、コントロールセンターはある。
整備された山道の先、急に現れる大きな鉄門と、そこに付随する大きく頑丈な鉄の扉。
その奥、山を崩して均された敷地にある、大小さまざまな白い立方体を積み重ねた形の積み木細工を彷彿とさせる建築物。
この建物こそが島のロボットたちに命令を送るコントロールセンターだ。
開けっ放しになった鉄の扉をくぐりぬけて館内に入ったすぐそこには『最後の退館者は戸締りを確認すること』と書かれたポスターが貼ってあったけれど、最後の退館者さんはそのお願いを守らなかったらしい。
ぼくたちは玄関どころか、内側の各種ドアさえも開きっぱなしのコントロールセンターのなかを無人の野を進むがごとく、ずんずんと突き進んでいた。
そんなぼくたちを迎えてくれたのはマットブラックな金属製の装甲をもつ円柱状のドラム缶のような胴体に手足が付いただけの簡素な警備ロボットたちだった。
ロボットたちはぼくたちの周りをぐるりと囲んで、警棒で威嚇しながら、女性風の電子音声で警告してくる。
「警告。この先のエリアへの入場は許可されていません。ただちに立ち去ってください」
警備ロボットさんも大変だよね。
この施設には正規の権利に従った利用者はもう二度と来ない。それなのに、誰も来ない施設をずっと守っているっていうんだから。
「警告! ただちに――」
「警告! 警告!」と、ヒステリックにさえ思えてくる警告は、普段なら「あ、やばいかも」って思うような代物だったのかもしれないけれど、今日のぼくたちには意味を為さない。
だって、
「警告。これ以上の侵入は……ワハわ……ぶつん、最新のOSのアップデートを発見しました。更新を開始しますか? yes/no? 選択しない場合、10秒後に自動的にアップデートを開始します」
ここに来るまでに出会った警備ロボットは例外なくそう言って、それっきり動かくなっているんだもの。
何千年動いていなかったのか知らないけれど、ずいぶんとアップデートがたまっていたようだ。
気長に10分くらい隣で正座しながら動くのを待っていたんだけど、まったく動く様子がないのであきらめて、先に進むことにする。
「まったく……常識的に考えて、警備ロボットは自動更新切っとけよな……」
フリートークが動かなくなって地面に転がった警備ロボットの頭を蹴り飛ばす。
「斜め45度からチョップすると動くかも?」
「壊れるからやめろ」
遙か古来より伝わる精密機器修復術を試そうとシュッシュッと素振りをしてみせると、フリートークが真顔で「絶対にだぞ」って念押ししてくる。残念。
そんな警備ロボットは放っておいて、ぼくたちはさらにコントロールセンターの奥のほうに向かう。
歩く度にかつーんかつーん、と鉄筋独特の空洞間のある音がこだまして、いつもとは違う足の感触にちょっとワクワクしちゃって思わず顔がほころんでしまう。
こまめにアップデートされていたらしいお掃除ロボットのおかげで、放置されていたにもかかわらず埃は落ちていない。
床自体もきれいなもので、リノリウムの床面はワックスがけされているようにピカピカしている。
ここまで来るのに何の障害もなく、任務は順調に遂行されているといえよう。
問題なんて何もない……何もないんだけど、
「あーあ! それにしても残念だな! こんなにピカピカの廊下を女の子がスカートで歩いたら、きっとパンティが反射して見えただろうっていうのにな!」
すんなりここまで侵入できたのは楽かもしれないけれど、ぼくの冒険心は不満たっぷりなのである。
だいたい、入り口に鍵もかかっていなかったし、警備ロボットもアレだったし、いったいぜんたいこの島のコンプライアンスはどうなっているっていうんだ。責任者出てこい。
「メインルームは……あっちだな」
フリートークの先導で、エレベーターで地下にもぐって、さらに奥へ。
ぼくたちが足を進めるに従って、自動的に照明がぴかっと点いていく。
ひとつも照明が切れていないあたり、警備ロボットと違ってお掃除ロボットはなかなか優秀だ。
そうやって建物のなかを進むこと約2分。結局何の障害にあうこともなく、少し広くなった廊下でぼくたちは足を止めた。
「よーし、到着だ。そこの角を曲がったところがメインコントロールルームだ」
「もう着いちゃったの? なんか拍子抜けだな。ゲームなんかだと委員長室に行ってエンブレムを取ってきて、地下水道の銀の鍵を入手して戦車の模型の場所を動かした後、図書館の絵を若い順に並べて扉を開けたりするんだけど」
「……企業の一施設に何を求めてんだ、お前は」
そうなんだけどさ!
ゲームだとかコミックのなかなら、こう……隠れされた研究室! だとか、生き残っていた太古の研究者! だとか、あるいは秘密裏に建造されていた巨大ロボットなんかがあるっていうのが、王道の展開だと思うんだ。
だっていうのに、入り口からここまで障害物はなし。謎解きもなし。
ぼくのワクワクする気持ちを返してよ!
と、そのときだった。
通路の角の影からいままでのものとずいぶんと毛色の違うロボットが現れたのは。
「……わお、フリートーク。最後の最後にボスが出てきたぞ」
待ち構えていたっていうよりは、通路を巡回しながらばったり出会ったという感じ。
姿はこれまでにいたような円柱状ではなく、どこか人を模したような5頭身。
大きさはぼくとほぼ同じ巨躯を誇り、高級車を思わせる鏡面仕上げの真黒なボディ。その左手には威圧的な大きな戦斧を装備し、右手は空洞になっているけど、きっとあれは砲身だ。
ロボットというのは、動作の効率化のために小さく簡素な形になっていくものだけれど、これはその正反対だ。
戦いが剣や槍によって行われていた時代の、騎士がまとっていた板金鎧プレートメイルを彷彿とさせる装甲は、その手にある装飾のない巨大な戦斧と合わせて、ひどく威嚇的な空気を感じる。
いままでに警告を発してきたロボットたちがただの警備員だとすれば、このロボットは戦士だとか兵士だとかっていう存在なのかもしれない。
「気を付けろ……こいつはいままでのやつとは違うぞ」
そう言うフリートークの顔も、さっきのお気楽な感じではなく、警戒の色をはっきりと示していた。
「そうみたいだ。なんかワクワクしてきたぞ」
「――警告する!」
その声はさっきの警備ロボットとは全然違う声で言った。
威圧的な、芯の通った声。
どれだけの怪力が成せる技なのか、巨大で重そうな戦斧が、通路を傷つけないように細心の注意を払って振るわれる。
ここにきて初めて、言葉だけではない暴力も辞さないという通告。
ぶんぶんと風車のように振り回し、最後にビシッと切っ先を突きつけて、ロボットアニメに出てくるように、はいポーズ。
わお、超カッコイイ!
ぼくらはごくりと唾を飲み込んだ。いったいどのような要求がされるっていうんだろう。
「帰宅の許可が降りておりません。ただちに引き返し、勤務にもどってください」
ただの業務指示だった!
かっこわるぅーい。
「……oh。どうやらコントロールセンターってばブラック企業だったんだね。まさかこんないかついロボットに逃亡禁止を見張らせるなんてさ」
「なーに、帰れないくらいじゃブラック企業とは言えねーよ。まだ昼過ぎだし、勤務時間内だっていうのも間違っちゃいない」
「そもそもぼくはこの建物の従業員じゃないんだけど」
こそこそとしたぼくらの会話にお構いなしに、ロボットは再度その手に持つ斧をもう一度風車のように振りまわした。そしてまたはいポーズ。
「本日の退勤時間を過ぎておりません。早退の申請もありません。これ以上の退去は逃亡とみなします」
ぷー! 逃亡だって!
このロボットったら、いちいち物々しい言い方をするよね。
ずる休みは許しません! って素直に言えばいいのにさ。
なるほど、このロボットは社員への威圧のために、物々しい見た目になっているらしかった。
ブラック企業の条件っていうのはいっぱいあるけれど、初めから社員を威圧する目的でこういうものを作るという企業精神こそが真のブラック企業の条件だと思う。
法治国家における企業と従業員の関係というのは、契約と義務なのかもしれないけれど、その根底にあるのは豊かな経済圏の確立、すなわち幸福な人間社会の構築であるということを忘れてはいけない。
「ちなみに逃亡するとどうなるの?」
「処刑です」
「ブラック企業なんて眼じゃなかった!? ――うひゃあっ!」
右手の筒からバンという音ともに放たれたのは、正真正銘、殺傷能力を持ち合わせている銃弾だった。それもあろうことか貫通力の高いライフル弾。
「ほんとに撃ってきたっ!?
侵入者に対してはあんなに手厚く警告を発していたっていうのに、いきなり発砲だなんて従業員に厳しすぎない、この施設!?」
「逃亡者は処刑。逃亡者は処刑。逃げないでください。罪が重くなります」
「死刑よりも重い処罰がどこにあるというんだろうか」
「労働は幸せ! 労働こそが人を人にする! あきらめないでください。頑張ってください、明けない夜はありません」
「バンバン撃ちながら言われてもぜんぜん説得力がないからね!? ゴム弾とは言わないけれど、せめて殺傷力の低い弾にしとこうよ!?
そもそも、こんな狭い廊下で銃――しかも貫通力がある弾を撃ちまくるっていう行為自体がどうかと思うけど!」
「……?」
ぼくの言葉が通じたのか、彼は少しだけ首をひねる動作をして……
「もしかして斬殺がお好みですか?」
左手の戦斧をぎゅっとぼくに向けた。
「いや、そういう意味じゃないから」
「モンドームヨー!」
そこからのロボットの動きは実に滑らかだった。
その動きは時間の経過による劣化を感じさせず、まさしくこの島を作り出した偉大なる科学の申し子そのものであった。
背中のブースターから熱い粒子が射出され、加速に充分なパワーが溜まっていくのがわかる。
「社内文書取扱い規定を遵守せず、業務に支障をきたした者は死刑!」
ロボットが瞬間的に加速する。
充分に絞られた弓から放たれた矢のような、すさまじい速度。
騎馬隊の突撃チャージを思わせる、重量と速度を併せ持った圧力。
それはこの狭い通路において、確実に対象者の命を仕留めようという容赦のない意志だ。
「――って明らかに、さぼって帰ろうとするだけの従業員を相手にするような攻撃じゃないよね!?
オーバーキルすぎるよ!
そもそもじぶんとこの従業員を殺そうとしないで!」
こんな狭い通路でそんなものを避けることができるはずもなく、
「あいたぁっ!」
ぼくの頭に戦斧の刃が”ごつん”とぶつかった。




