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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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全裸でGO! 3

 いきなりのダイナミックジャンピング土下座にぼくたちが唖然としていると、ギギさんは服の埃を払いながら立ち上がった。

 そして口に軽く指を当ててクスリと妖艶に笑みを浮かべた。

 いや、妖艶とは言っても直前行動のせいか、あんまりドキドキはしなかったんだけど。

 彼女はぼくらの視線を釘付けにすると、ビシぃっと指を突きつけた。その先にはミラ!


「わたしの目はフシアナじゃないわ。

 世の中に魔法使い数ありというけれど、魔獣を使役できたのは歴史上でも片手で数える程度。しかもこれほど強大な魔獣を使役するなんて……あなた、さては伝説の勇者ニュルンケルでしょう!」


「なに言ってんだろうね。このひと」


「フシアナすぎて言葉も出ねえよ」


「わかりました。この人はアホです」


「いまさらわかったのか。ひとめ見りゃわかるだろ」


 ぼくたちはうんうんとうなずきあった。さっきまで不貞腐れてたフリートークすら、隠れているってことを忘れて会話に参加してくる。心がひとつになるって素晴らしいことだよね。


「よーし、意見が一致したところで、プライオリアの観光案内再開すっぞ!」


「おう」「賛成なのです」「意義なーし」


「なんでよぉ!? いい? わたしの推理を聞きなさーい!」


 ぼくたちは和やかに立ち去ろうとしたんだけれど、ギギさんがぼくの首をつかんで止める。ぐえー。


「推理だと?」


 そう言うリュネさんの表情は『あ、こいつめんどくせ』って顔。

 そんな表情に気付いているのかいないのか、ギギさんはぴんとひとさし指を立てた。


「いい? 魔獣を使役する魔法っていうのは超超高等魔法で、現代の使い手っていうとあの有名な赤の魔女しかいないわけ。そしてあなたは赤の魔女じゃない」

 

 ぼくはリュネさんと顔を見合わせた。

 ――赤の魔女って知ってる?

 ――おう、知らねえ。


 こんなにもリュネさんと心が通じ合うなんて!

 さっきまで思いもしなかったよね。でも、素敵なことのはずなのに腑に落ちないね。不思議だね。


 それにしても、魔獣を使役できる人がいるなんて。

 だったら、ミラがぼくを使役してるってことにすれば、ぼくが亜人さんたちのなかに溶け込むのって簡単なのかな?

 でも、その魔法が使える人は一人しかいないって言ってるから、面倒事に巻き込まれそう? うーん……いったん保留。


「この業界では! 有名なの! とにかく!

 いままで赤の魔女がどこで使役魔法を習得したかがずっと謎だったんだけれど、あなたが勇者っていうなら全部解決するのよ。そう、あなたが赤の魔女の師匠で、伝説の勇者!

 ……勇者っていうには、ぱっと見、根暗で貧相なお子様だけど、世を忍ぶ姿っていうなら納得ね」


「超絶に失礼で過大評価なのです! ぜんぜん違います!」


「じゃあ、誰にも制御されてない魔獣が街中をうろついているってことになるじゃない。だとしたらこれは大変なことよ。とても恐ろしいことが起こるわ」


「具体的には?」


「あまりの恐怖で泣き叫ぶわ、わたしが! そうね、ふふ……漏らすか漏らさないかは神のみぞ知る、というところかしら」


(だい)の大人が情けないこと口走ってんじゃねーよ!」


「――ちょっと相談タイムをください」


 ミラがタイム!っと腕でT字のジェスチャーを作って、ぼくたちは顔を付き合わせた。

 

★☆


「面倒だから使い魔ってことにしとこうぜ。そんで弟子入りは断りゃあいいじゃん」と、フリートーク。


「オレもこのトカゲに賛成。あいつ、今日はオレの部屋に泊まる心積もりだろうからな。小便臭くなったのを部屋に入れたくない」と、これはリュネさん。二人ともとっても大人な意見。


 彼らは自分の意見を述べると、どうする? ぼくとミラを見た。

 確かに、ここをしのぐのはそれが一番手っ取り早い方法かもしれない。

 でも、


「ぼくは嫌だな」


「そうですね。わたしもそう思います」


 ぼくたちの返答に、2人はそろって意外そうな表情を浮かべた。


「だって、それって嘘をつくってことでしょ? 必要な嘘ならいいんだけど、これはそうじゃないと思うんだ」


「そうですね。わたしもフルーフさんに賛成です。それにここで放置して、後から勘違いで変なことに巻き込まれるようなことは御免です」


「でも、相手はあいつだぞ……?」


「大丈夫です。わたしがちゃんと答えますから」


「ええ!? ミラが!?」


 コミョニケーション障害をこじらせたようなミラが自発的に!?

 男子三日会わざれば刮目して見よ、というけれど、ミラってばそれよりも早い速度で変化してる!?

 

「おい、小娘。本当に大丈夫か? 相手が……相手だぞ?」


「大丈夫です。任せてください」


 あのフリートークすら心底心配そうに尋ねるけれど、ミラは力強くうなずいた。そこには迷いとかそういうものは見えない。自分のちからで解決する、というどこか悲壮感にも似た鉄の意思が見えた。

 だったら言うことはなにもないね。


「うん。じゃあ、ミラがそこまで言うなら!」


 ここはミラの自主性を尊重すべきところなのだ。

 美少女ゲームで言うところの必須イベント。ミラの人生のトゥルーエンドを迎えるために必要な試練なのだ。

 一番の当事者なんだから、ギギさんも素直に聞いてくれるかもしれないしね。

 それに、ミラは変に大人びたところがあるので、もしかするとちゃんと断れるのかもしれないし、失敗してもぼくたちがフォローすればいい!


 そうと決まれば相談終了!


 ミラがこそっと「フルーフさんに任せておくと絶っっ対に変なことになるので」って言ったのが聞こえたけれど、それはきっと気のせい気のせい。


「結論が出たのね」


「はい。出ました」


 ぼくたちが揃ってギギさんのほうへ振り替えると、彼女はふふんと自信ありげに胸を張り、ミラはそれに応えるように、うん、と重々しくうなずく。

 

 そんな彼女らのやりとりにぼくらはハラハラしてしまう。

 校舎裏で(おこな)われる告白を、影から見守る親友の心持ちってこんな感じ?

 そんなぼくらの気持ちを知ってかしらずか、ミラはキッと敢然とギギさんに立ち向かった。

 告白もそうなんだけど、こういうときは相手の感情を逆なでしないような変化球が必要だ。直球で返しちゃうと相手がへこんじゃうかもしれないし、逆ギレされると大変だ。

 さて、ミラはどれくらいオブラートに包んで、慎んだお断りを――


「厳正なる選考の結果、残念ながら今回は採用を見送りました。

 選考結果に関する問い合わせには一切お答えできません。

 一日も早く貴方様のご希望される師匠にめぐり会えますように一層のご活躍をお祈りいたします。

 なお、繰り返し述べますがわたしは勇者ではありません」


 ど真ん中の直球ストレートぉっ!

 寂寞(せきばく)とした時代のメールのやり取りならともかく、さすがに顔を突き合わせながら、その答えはまずいんじゃないかな!

 よく考えてみたら、ちょっと大人びているって言ってもミラってばお子様だからね。仕方ないね。

 「あわわ」ってぼくたちは次に来るであろう反応に慌てふためいたけれど、ギギさんは「そう」とケロっとした様子でうなずいた。


「さすが、伝説の勇者といったところね。

 たった1回のお願いで弟子入りできるなんて思ってないわ。覚悟なさい、わたしはあきらめないから」


「「「あきらめてください」」」


 ギギさんは、そんなぼくたちの合唱をさらりと流し、「次の仕事がわたしを呼んでるわ。グッバイ」と無駄にかっこよく指を立てて、彼女は仕事の出来る女性の風格で去って行った。

 ほんと、中身とのギャップがひどい人だ。

 見た目だけなら、とってもカッコよくてキレイな人なのにね……。


 その姿を見送って、リュネさんが大きくため息をつく。


「……悪いな、黙ってたら優秀な魔法使いなんだが」


「根暗で貧相と言われました……」


「下手に騒ぎにならなかったのはよかったけれど、何も解決してない気が……」


 なんか疲れたなぁって思ったけれど、それはみんなも同じようだった。

 でも、そんななか、「あの」とぼくたちに声をかける人がいた。


「疲れているところすまないが、荷車を道の脇に移動させるのを手伝ってくれないか。どうやら車軸も折れたらしくてな、動かん」


 振り返ると、イノシシ襲われていた馬車の持ち主のおじさんが困った顔で、本当に申し訳なさそうにしていた。


 見ると、荷物満載の荷車が道路のど真ん中を占拠している。

 たまたま通りがかった通行人たちと何人かで押そうとしているようだったけど、びくともしていないようだった。


 ぼくたちを代表してリュネさんがおじさんと話し始める。


「道の脇に移動させるのはいいが、そのあとどうすんだ? こんな状態じゃどうにもならんだろう」


「うーむ。確かに配達の指定の時間に間に合わないかもしれないな。でも、だからといってこのままにしとくわけにもいかんだろう。ほら、あっちから、どんどん貨物がきている」


「そりゃ、そうだけどよ……」


 遥か後方を見るとお祭りの準備であろう荷物を積んだ馬車や自動車がこちらに向かってきていて、確かにこのままじゃ大変な渋滞に……。

 ぼくの腕力ならば荷車を持ち上げて運ぶことなんてお茶の子さいさい。特に外せないような用事があるわけでもない。

 だからここで手伝うのは当たり前のことだ。

 ――普段のぼくならね。

 でもぼくはここで動く訳にはいかない。なぜならさっき、リュネさんに『あんまり目立つな』って言われちゃったし……。


 でもおじさんってばすごく困ってるわけで……。

 ――と、そんな逡巡(しゅんじゅん)するぼくの袖をひっぱるものがあった。


「あの……手伝ってあげられないのでしょうか」


 ミラが、何かを訴えるような目でぼくを見た。


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