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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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全裸でGO! 2

「あんなに遠いところの様子がよく見えるな」


 遠くに見える人だかりは、慌てたようにバタバタと動いていて、明らかに何らかの事件性を思わせるものだった。

 リュネさんは眉をしかめて確認しようとしたけれど、遠すぎてちょっと見えなかったらしい。

 でも、ちょっと首をかしげながらも答えてくれる。


「たぶん……魔獣だな」


「魔獣? 街のなかに?」


 でも、確かによく見ると5頭のイノシシのような獣が馬車を襲っているように見える。

 大きさもちょうどイノシシくらいで、突進力もイノシシくらい。牙もイノシシで、蹄もイノシシかな?

 ほとんどイノシシだけど、ちょっと違うのはそのイノシシが鎧のような金属の光沢のある毛皮をもっているってこと。

 馬が後ろ脚で蹴って反撃するけれど、弾力のあるその毛皮はダメージを受けた様子はなかった。

 

「川べりではよくある光景だ。グールは水を嫌ってやってこないが、魔獣が泳いでくることはあるからな」


「もう! 落ち着いてないで、早く助けてあげないと! ――ぐえー……」


「目立つなって言ってんだろ。それにあれくらいの魔獣なら問題ねーよ。警備隊の連中がそこまできてる。ほら見ろ」


 助けに行こうとするぼくの首根っこを掴んだリュネさんは、言いながら向こうのほうを指差した。

 そっちのほうからやってきたのは警備隊の制服をきた人たちが10人ほど。

 5人が4頭のイノシシをけん制しながら、一番大きなイノシシを孤立させると、残りの5人が包囲する。そして、銃型ワンドから一斉に雷の魔法を撃ちだした。

 一斉射撃を食らったイノシシは地面に倒れて、それを見た他のイノシシたちは形勢不利を悟って川を渡って逃げて行く。その川面に向かって警告のように、ビシビシと雷が放たれるけれど、特に脱落者もなく、残ったイノシシさんたちは川の向こうへと逃げて行った。


 細かい様子は見えなくとも、だいたいの様子を見てとったリュネさんが安堵のため息をついた。

 そして「ま、いつものことさ」と言いながら、観光案内のために歩みを再開する。進行方向は(くだん)の襲撃事件が起きた方向。


「このあたりはよく魔獣が侵入してくるからな。川を渡ってくるのが見えたら、すぐに警備隊の連中が駆けつけてくるのさ」


 歩みながらリュネさんはぼくらの疑問を解消するために、説明をしてくれる。さすが観光ガイドを任されるだけのことはあって、その辺りの心配りは素晴らしい。


「でも、馬がケガしてるよ?」


 襲われていた馬車を牽引していた馬は、足から血を流して弱々しく横たわっている。もしも20世紀の競走馬であればこのまま安楽死コースだろうなっていうくらいのケガ。


 この世界において、労働馬がどの程度の価値なのかはわからないけれど、使い捨てにできるほどに物資が豊富とに思えないんだけど……。


「そっちのほうも問題ない。まあ見てろって。ほら、魔法使いがくるのが見えるだろ」


 リュネさんの言うとおりに、警備隊の人たちと入れ替わるように、ててて、と走ってきたのは黒いマントに身を包んだシルバーブロンドの女性だった。

 まるで人形のように美しい顔をしていて、できる大人の女性の風格がある。


 その背中には小さな白い羽。察するに翼人(ピンフェット)という種族。

 ペチカノートいわく、『基本的に頭はいい。でも、三歩歩くと都合の悪いことだけはだいたい忘れてる。翼は退化していて空を飛ぶことはできない。でも魔法と併用すれば死なない程度の滑空は可。服装の趣味が独特で、基本的にヘタレ』とのこと。

 ……亜人さんたちってヘタレ多すぎない?


 彼女が手に持っているのは銃型ワンドじゃなくて、ファンタジー小説の魔法使いが持っていそうな大きな木製の杖。

 黒いマントって言っても、ゴスロリっていうやつ? すごい派手な黒さで、人間文明時代だったらコスチュームプレイって呼ばれるような恰好。

  ペチカノートには”独特の趣味”って書いてるけれど、翼人(ピンフェット)の人たちって、みんなそういう格好をしているのかな?

 年齢はたぶんペチカよりも年上で、気の強そうって言うよりは畏れを知らなさそう。ひとつ間違えればナルシストにもなりそうな、動物に例えるならイワトビペンギンみたいな雰囲気がうかがえた。


 ぼくが遠くから見ていると、彼女は馬車の持ち主と二言三言、言葉を交わして馬の方へとその大きな杖を向けた


「我、大いなる愛に願う。このものを癒やし給え」


 そして杖で何度かツンツンと患部を突つくたびに、抉れた傷口から肉が盛り上がって治癒されていく。

 そして、ぼくたちが歩いて近づく頃には、馬はすっかり治って立ち上がって歩いていた。



「はい。これでもう大丈夫。でも傷の回復に体力を使ったからしばらく安静にさせてあげなさい。――あなたも、今日は荷物運びなんてしちゃ駄目よ?」


 ぼくたちが見ている前で、彼女は馬車の主に念押しして、馬の方にもメッと言わんばかりに頭を撫でる。

 馬の方はといえば、言葉を理解しているのかいないのか、小躍りするようにあたりを跳ねて、健康さをアピール。その馬体にはどこに傷があったのかすっかりわからなくなっていた。

 ガーライルさんは人間文明の傷薬をすごいって言ってたけど、魔法のほうがすごくない!?


「すごい! あれも魔法なの?」


「ふーん。あなた、なかなか見る目があるじゃないの」


 ぼくはリュネさんに尋ねたんだけど、女性にもちょっとはしゃいだその言葉が聞こえてしまったらしい。彼女はめざとくぼくを見つけてずずいっと近寄ってきた。

 あわわ、顔が近い!


 お人形のように整った顔の綺麗な人だから、ぼくはどぎまぎしてしまう。

 亜人さんたちって基本的に距離感が近いよね。女性耐性の低いぼくにはちょっと難易度が高い。ルナティックとは言わないけれど、ベリーハードくらい!


 そうやってぼくがドギマギしていると、彼女は見事なドヤ顔で、手をあてて胸を張った。


「ふふん。わかる人にはわかるのよねぇ、ただの治癒魔法からも卓越した才能が溢れかえっているのが。そうだ、ねえねえ! あなたサインいる!? なんと、いまならこの大魔法使いギレギミール様の直筆サインが1万プレカで――あいたっ」


 怒涛の押し売りをしようとする女性――ギギさんを止めたのはリュネさんだった。げんこつをその頭を軽くゴツンと叩いて黙らせる。抗議の声を上げようとするギギさんだったけれど、その言葉が発せられる前にリュネさんは大げさにため息をついて遮った。


「久しぶりだな、ギギ。一年ぶりか?」


 ちょっと涙目になったギギさんは、頭を押さえながら、


「痛いじゃないの!? あなたは……えーっと……」


 名前が出てこないようだったけれど、「リュネだ、リュネ」と呆れるように言われると、ぽんと手を打った。


「そう、リュネ。ええ、ええ、久しぶりね。明日からお祭りで人がたくさん来るでしょう? あなたのお父さんにね、治安維持と治癒術のために呼び出されたのよ」


 ぼくはリュネさんにアイコンタクトで「彼女は何者?」って尋ねた。


「こいつらはな、渡り鳥って呼ばれる連中さ。特定の場所に定住せず、浮遊有船(ふゆゆせん)に乗って各地を依頼を受けながら放浪するから渡り鳥って呼ばれている。要は根無し草のロクデナシだ。別称で冒険者とも言うけどな」


「なーんだ。ただのロクデナシか。カッコイイって思って損した」


「ちょっとぉ!? 手の平返し早すぎない!?」


 ぼくたちが説明を受けて納得してるっていうのに、ギギさんってばとっても不服そう。

 ぐぬぬと悔しそうに歯を食いしばって、人形のような綺麗な顔が台無しである。――いや、その前のドヤ顔から台無しではあったんだけど。


 ギギさんは一度深呼吸をして、「まあ、いいわ」と再度ふふん、と胸を張った。


「……ならば、このわたしがどれくらいすごいか教えてあげる。

 なんとわたしは治癒魔法が使えて……えーっと、そう! 治癒魔法が使えるの! あと美しくてモテモテ!」


「でも、おっぱいはちっちゃいよね」


「スレンダーと言いなさい。ぶん殴るわよ」


「殴ってから言わないで!」


 なんて残念な人なんだろう!

 いや、よくよく考えてみると亜人さんたちって基本的に残念ではあるんだけど!


 ぼくはリュネさんにアイコンタクトで助けを求めた。

 ――親友なら、この人どうにかしてよ!

 ――親友どころか友達でもねーよ、ただの知り合いだ。バカ。

 

 わーお……亜人さん世界の友情ってばなんて(はかな)くて残酷(ざんこく)なんだろう。素敵な人たちだと思っていたぼくの感動を返してほしい。


 ぼくがそんなことを考えていると、


「――あら、あなたってよく見ると」


 ギギさんはキョロキョロとあたりを見回してぼくの顔――正しくは着ぐるみの顔を両手で包み込んだ。


「え、何を?」


「えい!」


 かぽ、ぼすん。

 一瞬だけキグルミの顔を持ち上げてすぐに降ろす。


「……」


「……」


 沈黙が辺りを支配する。

 もちろん中身は丸見えだったはずで……あわわ、どうしよう?

 うん。とりあえず「いないいないばー!」って感じに可愛さアピールしておこう!


「えーと……もきゅ?」


「……」


「……ふ」


 しばしの静寂のあと、ギギさんはにっこり微笑んだ。

 もしも、その笑顔がぼくに向けられたならぼくはもっとドギマギしてしまったんだろうけれど、残念ながらギギさんが笑顔を向けた先はなぜか――ミラ。

 って? あれ? なんでミラに? 顔を見られたのはぼくのはずなのに?


「……あの、なぜわたしのほうを?」

 

 いきなりターゲッティングされて、ミラのほうもしどろもどろ。


「とうっ」


 そんなミラに対して、ギギさんはとても宙高く跳んだ。

 退化したはずの翼で、空まで届けと跳んだ。

 ペチカノートには、翼人(ピンフェット)は滑空しかできないって書いていたけど。それはたぶん嘘だ。

 ペチカは言った。魔法とは人の心の力だと。飛びたいと願えばきっと飛べるのだ。でも――

 

 ぼくたちが唖然と見守るなか、彼女はかなり上空まで達して――そして落ちた。

 かつての人類であれば死亡する可能性のある高さから、落ちた!


「……危ないっ!」


 でも、そんな心配は杞憂だった。

 ギギさんは体を回転させながら、つま先・すねの外側・ももの外側・背中・肩の5点に着地の衝撃を分散させ、見事に着地を決めた。

 その姿は――


「弟子にしてください!」


「……ちょっと何を言ってるのか理解できないのです」


 なんとも見事なジャパニーズドゲザであった。

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