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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
27/47

全裸でGO! 1

ひとつ前のエピソードにて、一時的に下書き状態のものが投稿されていました。申し訳ございません。

2017/11/04 11:26 修正しております。

「あっまぁーい!」


 にゅるんと、もったりとしたあんこが口の中で唾液と混ざり合ってにょろろんと複雑な味を残して溶けると、ガツンとした甘みが脳みそを直撃する。

 しつこい甘さがいつまでも口の中に残って、もちゃもちゃと口のなかを粘つかせる。

 天空島に残されていた非常用の缶詰を食べたことがあるけど、それとはぜんぜん違う、ずいぶんと濃い甘さ。


「――おい」


 これは亜人さんと人間の好みの差なのかな?

 それとも屋外で食べるものだから、濃い味になっているのかな?

 隣で同じようにおまんじゅうをほおばっているミラの表情を見ると、至福の表情で眼を細めているのでやっぱり好みの差なのかもしれない。


☆★


 あのあと、浮遊有船(ふゆゆせん)というのは思っていたよりも貴重な代物だったらしく、面倒な処理が待ち受けていた。

 遭難届け。事故証明。行方不明になった人々の身分の照会(戸籍は整備されていないらしい)に、持ち主が死んだ積み荷の拾得、贈与や相続の手続き。

 そういった面倒事はすべてガーライルさんに押し付けて、ぼくとミラはリュネさんに連れられて街を案内してもらっていた。


 街の中は人でごった返していて、いたるところに露店が出ている。明日から祭りだっていうけれど、今日の時点でお祭り騒ぎでぼくの心も大はしゃぎ!

 着ぐるみのなかを見事に脱臭してくれたフリートークは「……しばらく、しゃべりかけんな」とちょっと不機嫌だったけど!


 ともあれ、そんなフリートークは置いておいて、ぼくたちは街のメインストリートを北上していた。


 あっちを向くと、金や銀、宝石やガラスでいっぱいのアクセサリーショップ。そっちのほうには香ばしいの焼き立てパン屋さんに、あまーい匂いを充満させるおまんじゅう屋さん。向こうのほうにはジューシーな獣脂の煙を漂わせる焼き鳥屋さん。

 ぼくはさっき買ったおまんじゅうをすべて食べきると、次のターゲットを探す。

 むむむ! この醤油の香ばしい匂いは……。よーっし、焼き鳥に決めた! そして仕上げはデザートのかき氷だ!


「――おい」


 まだ予算は残っていたかな?

 ごそごそ、着ぐるみのなかのポケットからお財布を取り出してみると、そこには500という文字と不思議な模様が描かれた2枚の半透明の樹脂製のプレート。

 これこそが亜人さんたちの主要通貨であるプレート貨幣――通称プレ貨。

 琥珀を思わせるオレンジ色の不思議なプレートは、プラスチックのような弾力があって、曲げてみるとぐにゃぐにゃと曲がりながら虹色に日光を反射する。

 発行元はガッデンヘイヴ。単位はプレカ。単位と通貨の通称が紛らわしいけれど、わかりやすいっちゃわかりやすい。

 最高学府出身者の初任給が年間400万プレカというらしいので、だいたい1円=1プレカ強くらいなのかな?

 信用通貨ということで、この貨幣の材質そのものにはそれほど価値はないらしい。


 さっきオルドモルトさんにお小遣いとしてもらったのが5000プレカであるので、もう4000プレカも使ったことになる。

 だからと言って、残りがたったの1000プレカだけ、なんていうのはつまんない考え。焼き鳥とかき氷はそれぞれひとつ200プレカなので、なんと5つも買えてしまうのだ!


 ありがとう焼き鳥! ありがとうかき氷!

 ぼくは感謝の気持ちで着ぐるみのポケットから残りのプレ貨を取り出そうとして――


「おい――って、さっきから呼んでんだろ。無視するんじゃねえ。この野郎」


「ぐえー!」


 わしゃー! と着ぐるみの上からぼくの喉が大胆につかまれた。

 その手の主はリュネさん。

 リュネさんはマスコットの弱点を網羅しているかのように、着ぐるみの生地の薄い部分である喉元を手慣れた様子で確実に攻撃してくる。


 いやん、みんなが見てる。

 衆人環視のなかでカツアゲが行われている様子を思い浮かべてほしい。

 その大胆さときたら、1990年代の日本でよく観測された不良行為そのものである。


「やめて! 喉元をわしゃわしゃするのはやめて! さっきの、ちょっとお淑やかだった君に戻ってほしい!」


「うっせえ! おっぱいが揉みたいとか公言する変態にビビッてたまるか!」


「逆に、女の子としてはそこはもうちょっと危機感を持ったほうがいいんじゃないかな!?」


 だいたい、ぼくはおっぱいが揉みたいだけの紳士であって、変態じゃないし!

 ぼくとリュネさんのもみあいはしばらく続いた。


 おっと、もみあいって言ってもおっぱいを揉みあったわけじゃないよ?

 だいたい、ぼくが一方的な蹂躙にあっただけで、もみあいっていう表現は正しくないし、そもそもリュネさんのおっぱいってば着ぐるみのずんぐりした手で揉めるほど大きくもないし!

 って言ったら、リュネさんから蹴りが飛んできた。大変遺憾である。


 やがて、リュネさんの体力が尽きたのか、ぜーぜー、と荒い息をついて暴力は止んだ。彼女は髪をかきあげながら、息を整える。


「……あんたさ。正体隠す気あんのかよ? まんじゅう買い食いしたり、そこらで出会った女の子と写真とったり、困ってるおばーちゃんを背負って孫の家まで連れてってやったりしてよ」


 ? リュネさんってば、おかしいこと聞くよね。

 言い訳をしておくと、女の子と写真を撮ったのは、この街のマスコット人形の着ぐるみを着ていたから、向こうが声をかけてきたからっていう理由。

 おばあちゃんを助けたのも、街のマスコットに(ふん)するならば、困った人を助けるのは当然の義務だよねって思ったんだ。

 

 それに、正直に言っちゃうと、バレて大騒ぎになるようだったら、次の街へレッツゴーすればいいだけなんだし。

 でも、それよりなにより。


「あんまりないかな。

 ぼくが着ぐるみを着ているのは隠れているわけじゃなくて、ぼくはあなたたちに危害を加えにきたわけじゃないよ、っていう意思表示なんだ。

 だって、あなたたち亜人さんが人間さんたちから受け継いだ知性は、友好的な相手を一方的に排除するような野蛮なものではないでしょう?」


「……ずいぶんと亜人を買いかぶってるんだな、あんたは」


「そりゃそうだよ。あなたたちはこんなに素敵な街を創り出すだけの知恵があって、明るく笑顔な文化を構築できる知性があるんだもの」


 例えば露店の泥棒に対する警戒度ひとつとっても、泥棒なんていないんだろうな! っていう美しい倫理観を備えているのが見てわかる。

 グールや魔獣なんていう、すぐ隣に脅威があるような状態であるのに、街のひとたち決してはいまという悲観もせずに精一杯生きていて、それはとてもすごいことだと思う。


「……あー、もう。わけわかんねえこと言いやがって」


 リュネさんはわしゃわしゃと自分の髪を掻くと、「あんたの考えはよくわかったよ。だけどな」と言って、ため息をついた。


「いまはダメだ。明日から3日間、祭りがあるんだ。

 ニンゲン祭って知ってるか? この街の最大の祭事で、特別な日なんだ。

 あんただって、そういうのに水を差したくはないだろ? だからあんまり目立つな」


 そういうことならしょうがない。

 ぼくだって無用な面倒を起こしたいわけじゃないし、せっかくみんなが楽しみにしているものを台無しにする気もない。


「そだね。りょーかい」


 うなずいて、ぼくたちはリュネさんの案内におとなしくついていく。

 そのルートは観光にありがちな感じ。


 まず案内されたのはランドマーク大聖堂。

 とても大きくて白くて立派で、たくさんの敬虔な人々でいっぱいだった。

 ファンタジーにあるような、”中世ヨーロッパ風”の建物だけれど、よく見るともともとは人間文明時代の鉄筋コンクリートを加工したものだっていうことがわかる。

 あの時代のコンクリートには自動修復機能があるはずなので、無造作に加工してしまうと大変なことになってしまうはずなんだけど、建物は崩れる様子もなく、まるでこれがもともとの姿だと言わんばかりにそびえたっている。

 すごいなー、って見てると大司教のおじいさんが出てきて、ぼくにあいさつしてくれて、ちょっとお話をした。とてもいい人だった。

 ちなみに神像はどう見てもアニメの萌えキャラだった。亜人さんたちは、ちょっと人間文明のサブカルチャーに毒されすぎだと思う。


 次に案内されたのは、プライオリアのピンクの花畑を一望できる丘。

 丘から見る、一面ピンク色の光景はとても素敵で、カップルでいっぱいだったってことを除けばとても素晴らしいものだった。リア充爆発しろ。

 プライオリアの花はこの世界で流通している傷薬の主原料であるらしく、煮詰めた原液を出荷しているのだという。

 遠くに見える煙突をもつ赤いレンガの建物がその加工場らしく、そちらの方向からは凝縮されたプライオリアの甘い匂いが漂ってきていた。

 

 ――そして、街の外れ、一番外側にある街壁と川の境目の街道を移動してるときのこと、


「なんだろ、あれ?」


 ぼくたちがちょっとした事件に出会ったのはそんなときだった。


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