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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
23/47

あるいは少女の頑固なプライド 4

 港へと近づくにつれて、行きかう船の密度は増していき、本職の操舵士ではないガーライルさんは悪戦苦闘していた。

 とはいえ、船の先に大きく掲げた赤い旗――トラブル発生の合図――を見た周囲の船が航路を譲ってくれているので、ぶつかったりはしなかったけど。


 そうして悪戦苦闘しながら沿岸で遅々として波に揺られていると、小さなボートが近寄ってくるのが見えた。

 乗っているのは青い制服を着た精悍な男性たちで、いかにも海の男って感じで筋肉がたくましい。


「あれは?」


「プライオリア警備隊のボートじゃーん」


「警備隊? オレはてっきり軍隊だと思ったんだが」


 フリートークの言うとおり、警備隊にしてはずいぶんと重装備。

 おそろいの青色を基調とした制服には、防弾チョッキのような身を守るためのプレートが入っているようだった。肩にはおそろいの銃型ワンドをかついでいて、そして何よりも肉体そのものが歴戦の戦士そのもの。


「軍隊なんてザルクトル経済同盟の本拠地だとかガッデンヘイヴくらいにしかいないじゃん?

 プライオリアはザルクトル経済同盟が造成した街だけど、さすがに軍隊を送り込むほどの規模じゃないじゃーん」


 ?

 わかんない単語ばっかり!

 というか、ぼくが気になったのはむしろ、


「ガッデンヘイヴって結構大きい企業なの?」


 ってことだった。

 ガッデンヘイヴってペチカが入社するって言ってたところだよね?


「大きいも何も……ガッデンヘイヴは亜人世界最大の資産規模を誇る企業じゃん?

 ザルクトル経済同盟には世界の7割の企業が加盟してるけど、それでもガッデンヘイヴのほうが3倍くらい資産が大きい感じ?」


「oh……」


 っていうことはペチカってばもしかしてエリートサラリーマンってこと?


 ぼくの脳裏に「そうなんよ! なんよ!」と言ってるペチカの姿が思い出され、ぼくは首を横に振った。

 うん、ないない。ありえないな!

 だいたい、ガーディアンって言ってたし、響きからして警備員とかそれくらいかもしれないし!


「――特にガッデンヘイヴのガーディアンって呼ばれる人たちは、亜人の勢力圏を守る、守護神みたいなものじゃーん。亜人はみんな、ガーディアンさんたちのほうに足を向けて眠れないじゃん!」


「なんよぉっ!?」

 

 は、はわわ。そんなにすごかっただなんて。次に会ったときはペチカ”さん”って呼んだほうがいいのかな?


 それから、ガーライルさんはこれから入港しようとしているプライオリアの街について説明してくれた。

 ザルクトル経済同盟に加入しているいくつかの企業と、宗教勢力が共同出資してできた街であること。

 ガーライルさんの所属するフィッツメーラ商会はザルクトル経済同盟の加盟企業の子会社であること。


「ふーん、案外思ってたよりも経済構造は残っているのかね? ……おっと、警備隊が近づいてきたな」


 ひとしきり聞き終わってフリートークが満足そうにうなずいたあたりで、ちょうどボートがすぐそこに。


「じゃあ、ガーライルさん。あとは手はず通りに」


「うん、アニキ。大船に乗ったつもりで任せるじゃん!」


 警備隊の人たちの乗ったボートはみるみるうちに近づいてきて、ぼくとミラ、フリートークは物陰に身をひそめた。

 ボートから移ってきたのはいずれも屈強な、様々な種族の7人の男性。

 彼らはスルスルと甲板に乗り込むと、軽くガーライルさんと現状の確認をし、そのうちの5人はリーダーと思われる人の指示の元、船の各所に散らばっていった。

 残ったのはリーダーらしき白髪の混じり始めた老齢に差し掛かった男性と、それよりはいくぶんも若い、これまたがっしりとした背の高い男性。

 体格は2人ともガーライルさんよりも一回り大きくて、頭に角がある。彼らがペチカノートに書いてた鬼人(ユニー)っていう種族なのかな?


 いわく「角が生えてて大きかったらだいたい鬼人。力持ちで小さいことは気にしない人が多い。でもずずいっと踏み込んでみるとヘタレ多し」と記載されていた。


 そのうちの背の低いほう、赤黒く日焼けをしたリーダーらしきおじさんが、一通り指示を出し終えたあと、改めてガーライルさんに声をかける。


「どうしたんだ? へったくそな運転で。なんか問題でも発生したのか? 幼児でももうちょっとマシな運転をするぞ?」


 へたくそと言われて、ぐさぁ! っとガーライルさんが傷ついた表情を浮かべる。


「ひどい言いぐさじゃーん、オルドモルト。操舵技術はあんたから直接教わったっていうのに!」


「ん……おお! 誰かと思えばガーライルじゃねーか。ってことはこいつはフィッツメーラ商会の船か?

 だったら操舵士はそこそこ腕がたつはずだろ? なんでお前が運転してんだ?」


 オルドモルトと呼ばれた男性はガハハと笑って、ガーライルさんの背中をバンバンと叩いた。

 ひと回り大きな体格のオルドモルトさんに背中を叩かれたガーライルさんはよたよたとよろめいてしまう。確かに細かいことを気にしてなさそうな感じである。


「……低空加速のときにグールに乗り込まれたじゃんよ」


「そうか……そいつは運が悪かったな。……だが、こう言うと不謹慎かもしれねーが、お前だけでも無事で嬉しいぜ」


 ガーライルさんの悲しげな言葉に、オルドモルトさんは犠牲になった船員たちの冥福を祈ったあと、力強く親愛の情を示すようにガーライルさんを抱きしめた。


(低空加速?)


 ぼくは隠れながらこそこそとミラに聞いた。


(わたしもよく知らないのですが、浮遊有船(ふゆゆせん)は高度を高くすると魔力の不足で速度が落ちてしまうので、危険だけれど速度を上げるために高度を落とすことがあると聞きます)


(ミラは物知りだな!)


 ぼくとミラがこそこそと話している間にも、ガーライルさんとオルドモルトさんは話を進めていく。


「しかしそうすると、誰かがグールを追い払ったってことになるが……ガーライル、お前の腕は知っているが、かといって船員が全滅するほどの数のグールは相手にできないだろう?」


 よしよし、この質問が出てくるところまでは予定通り。

 ガーライルさんはその問いに対して、ちょっと恥ずかしそうに1本指で耳の後ろを掻いた。

 そして我が意を得たり、と力強くうなずく。


「それは、アニキが助けてくれたじゃん!」


「はあ? アニキ?」


 ガーライルさんが”ぼくたち”に視線で合図をし、ぼくは『任せろ!』って視線で返して、勢いよく躍り出た。


「はい。アニキなのです」


 ばばーん! って効果音がつくイメージで!

 オルドモルトさんは”ぼくたち”を見ると、少し目を丸くして、何かをあきらめたような目をして空を見上げた。


「……ずいぶんでけーお嬢ちゃんだな?」


 でっかいことはいいことだ!

 いまのぼくたちの状況を簡単に説明すると、ミラを肩車して上から貫頭衣のように白い布をスポッと被った状態。

 つまり、見た目は何も怪しくない、ただの大きな女の子ってわけ。


 でも、ちょっといぶかしんでるこの反応もまだまだ予想の範疇。

 ぼくは頭上のミラをツンツンと突ついて言葉をうながす。


「わたしは筋肉肥大肥大病なのです」


 そう、すべてを謎の奇病のせいだってことにしてしまえば説明はつつがなく終了ってわけ!


 さすがぼくの考えた作戦。完璧だな。

 ふふん、と得意げになって布に開けた穴から様子をうかがう。


「…………」


 予想に反して、じとーっとした目。

 あれ? あんまり納得してない感じ? おかしいな?


(よーし、ミラ。ワンモアセイ!)


 ぼくがもう一度ツンツンと突ついてうながすと、ミラは一度、大きくため息をついてから、疲れたように口を開いた。


「筋肉肥大肥大病なのです……

 第三種アミノ酸の異常によって、筋肉が肥大してしまって止まらないのです。

 脳みそも筋肉になってしまうので大変なことになってしまう病気なのです」


 ナイスアドリブ!

 ミラってばアミノ酸を知ってるなんてちょっと賢いね。

 一時はどうなるかと思ったけれど、これでオルドモルトさんも納得するはず――


「お嬢ちゃんは……強いんだな。いろんな意味で」


 なんでちょっと目を逸らして言うのさ!


「……はい」


 どうしてミラもそんなしみじみとうなずいちゃってるの!?


「さらに言うと、兄貴は雷狼(フュレム)の雷を食らってもぴんぴんしてるじゃん!」


「なるほど、そいつは怪しくねえや!」


 ガーライルさんの言葉を聞くに至って、オルドモルトさんはついに完全にぷいっと目を逸らした。


 なんでさ!?


エピソードが10000字を超えてしまったので、いったんここで切らせていただきます。本日中にもう一話投稿予定となります。

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