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ぼくはおっぱいがもみたい  作者: へのよ
1章:小さな勇者様
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誰か助けて!8

 ぼくの言葉を聞いて、ガーライルさんは天を仰いだ。


「……あんたは助けてって言われれば助けるっていうんじゃん?」


「ぼくの両手がふさがるまではね。

 だいたい、ガーライルさんだって無意識だったのかもしれないけれど、ぼくに『助けて』って言ったんだよ?」


 ぼくにはこの世界、亜人さんたちの世界において守るべきものは何も持ち合わせていない。


 だから気軽に人助けができる。

 それはこの世界に対して何も責任を負わないからだ。

 助けた相手が大量殺人鬼だったとしても、悪い悪い独裁者だったとしても、そんなのは知ったこっちゃない。

 ぼくがミラに見せた優しさっていうのは、あくまでもかつての人間が『あ、あの動物可愛い!』だとか『可哀相だからちょっと助けてあげなくちゃ』っていう野生動物に対して見せる気まぐれや憐憫であって、モームさんに対するような使命や義務ではないのだ。


 だから、できるだけ前向きに善処するけれど、両手がふさがっている状態で助けてを求められたとしても困っちゃう。


「信じられないじゃん」


 ぼくはそういう意味で言ったんだけど、ガーライルさんは違うように受け取ったようで大きく(かぶり)を振った。


「ガーライルさんよ。あんたはさっきから信じられないばっかだな。なにがそんなに信じられないのかね? オレからしてみると、あんたの態度のほうが信じられないぜ?」


「まあ、まあ。信じらんないからこそいいってこともあるじゃない?」


 例えば、どっきり番組って面白いよね。

 信じられないことに遭遇したときに見せる感情の発露が喜劇だとすれば、ぼくがこの世界に求めているのはまさしくそれだ。

 ちょっと呆気にとられたあとに、みんなが喜んで、わはーってした笑顔を浮かべる世界こそがぼくの望む世界なのだ。


「そう、ぼくは信じられないことを起こすことに喜びを感じるんだ。アっレルーヤっ!」


 ぼくがなんとか場を盛り上げようとしていると、ガーライルさんは顔を真っ赤にして、


「……き……」


 と、まるで卒業式の日に先輩に告白する可愛い妹系の後輩のように、ちょっとうつむき気味に言葉を絞り出した。


 でもその言葉はあまりにも小さくてぼくの耳には聞こえなくって、耳をすませてワンモアプリーズ。


「え?」


「あんたのこと……その、アニキって呼んでいいじゃん?」


 えええええええ!? なにこの展開。これってドッキリ!?

 カメラはどこ? ぼくはどう答えればいいの!?

 いったい今までの会話の中のどこに、そういうフラグが立つところがあったの!?


 ぼくが混乱していると、ガーライルさんは思い詰めた顔もう一度「アニキー」と言った。


「やめて!? 顔を赤らめないで!?

 だいたい、ぼくってまだ10歳なわけで、ガーライルさんのほうが全然年上だからね!!」


「そんなこと関係ないじゃん」


「大ありだよ! ほら、フリートークも何か言ってよ!」


 ぼくはフリートークに助けを求めた。

 サポートユニットである彼ならきっと説得してくれるに違いないって信じて。


「別にいいんじゃねーの? 悪いこと考えてるってわけでもねーし。

 お前、少年コミックとか好きだったろ? ならちょうどいいじゃん。これこそが美しき友情ってやつさ。友情・努力・勝利。王道だな」


「むむむ」


 友情。

 なんて心を揺さぶられる言葉なんだろう。

 こそばゆいような、でも頬がにやけてくるような魔法の言葉。

 よくよく考えてみると、ぼくには友達がいたことなんてないのだから、当然といえば当然かもしれない。


 おっと、ぼくがぼっちだったって意味じゃないからね?

 それにガーライルさんやミラを助けた目的は、街に入ることなのだから、その思惑とも一致するのでは?

 うん、そうだ。ちょっと自分を納得させるために無茶な論法を使った気がするけど。


 だからぼくはその手を取ることにした。

 アニキって呼ばれるのは勘弁してほしいけれど。


「よろしく、ガーライルさん。まずは友達から始めよう」


「……」


「ガーライルさん?」


 でも、ぼくの差し出した手が握られることはなかった。

 延ばされた手を、捨て犬のような目でしばらく見つめて、ぎゅっと目をつむった。

 あれ、もしかして握手って文化がないのかな? って思った瞬間だった。


「よろしくアニキ!」


 抱きつき!

 あ、これって絶対に犬だ。って思わず思ってしまうほどの見事な感情の表現。

 もしも、これが犬とクマの抱擁だったなら動画投稿サイトで、微笑ましい光景として大人気になるんだろうけど。


「やめて!? ぼくにそういう趣味はないからね!?」


「アニキー!」


 ガーライルさんの尻尾は、ちぎれんほどにぶんぶんと振り回されて、喜びを表していた。


 ・

 ・

 ・


 夜が更けて、みんなが眠りにつくのを見守って。


「――さて」


 よい子が眠った時間それすなわちお楽しみタイムの開始である。


「んー、どっか行くのか?」


 眠たそうにフリートークがぼくに問う。


「ちょっと夜風にあたりにね」


「そうかい」


 ってそれだけを言うと、フリートークはまたぐーっとスリープにはいる。そんなみんなを置いて、ぼくはまたホテルを出た。


 廃ホテルから出たぼくを待ち受けていたのは、虫の声すらなくなった真っ暗な世界。

 ぼくはその真っ暗闇のなかを鼻歌交じりに歩いていく。目的地はすぐそこだし、昼間に通った道なので、迷いなんて何もない。

 たった1人だけど、ちょっとぼくは上機嫌。


「ふんふんふーん」


 この世界は思ってたよりもヘビーだった。

 思っていたよりもグールの脅威で、魔獣の相手も大変そう。たぶん、生活が楽っていうわけでもなさそうだ。


「ふんふんふーん」


 ぼくの生きるパワーは明るくてほんわかぱっぱな妄想でできている。

 だからかな? この世界も少しくらいはそういう馬鹿げた馬鹿さでできているべきだと思うんだよね。


 道のさきはどこまでも続く深い真っ暗闇。だけど、もうすぐすれば太陽が出てくる。

 なにかするのなら、それからでもぜんぜん遅くはない。

 むしろ、待つべきだって普通は言うと思う。


「ふんふんふーん。ちょっと地上の冒険にわくわくしてきちゃったぞ」


 だから、ぼくにはそのちょっとの時間が待ちきれなかったんだ。

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