89 大丈夫?
「美歌さん……シュウは、本当に……本当に大丈夫なんですか?」
声に出した途端、胸の奥に溜まっていた不安がそのまま震えとなって漏れ出した。
美歌さんは、眠り続けるシュウを静かに見つめながら、
落ち着いた声で私に向き直った。
「大丈夫よ、ひなちゃん。心配しなくていいの」
その言い方は、まるで“未来をすでに知っている人”のようで、
私の焦りをすっと吸い取ってしまうような力があった。
「このまま、しっかり眠らせてあげましょう。
きっと今のシュウくんは、自分に何が起きていたのかも、
どうしてこんな姿になっていたのかも、
まだ全部理解できていないはずよ。」
淡々としているのに、どこか温かいその声音に、私は耳を傾けずにはいられなかった。
「憑依されている間、身体はほとんど休めていなかったの。
だから、今になってその疲れが一気に押し寄せてるのね。
これは自然な反応よ。むしろ、正しい状態に戻り始めている証拠」
そう言いながら、美歌さんは眠っているシュウの額に軽く目をやり、
その呼吸の深さを確認するように一度静かに頷いた。
「目を覚ました時は、きっともう……
いつものシュウくんになっているから。
安心していいわ、ひなちゃん。」
その一言は、胸の奥の固い石がすっと溶けていくような力を持っていた。
気づけば私は大きく息を吐いていて、
隣に立つ店長も同じタイミングで肩の力を抜いた。
「……よかった……」
ついこぼれたその言葉は、店長の口から漏れた安堵の息と重なった。
眠るシュウの穏やかな呼吸と、
美歌さんの確信を帯びた言葉が部屋いっぱいに広がり、
私と店長は心の底からほっとしていた――。




