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69 味方


ひなは、ずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を、ついに口にしてしまった。

「……美歌さんって、言い方が悪いかもしれないですけど……いったい、何者なんですか?」


言った瞬間、自分でも少し勇気を出した気がした。

けれど、目の前の美歌は驚く様子もなく、むしろふっと穏やかに笑った。

その笑顔は、まるですべてを見通しているようで、でも少し茶目っ気もある。


「私はねぇ〜」

そう言って、カップの中のコーヒーを軽くかき混ぜながら、いたずらっぽく目を細めた。

「今は……内緒にしておこうかなぁ〜」


「えっ?」と、思わず声が漏れるひな。

けれど美歌は、何かを隠しているというよりも、“まだ言う時じゃない”という雰囲気で、優しく続けた。


「でもね、安心して。

私はあなたたちの味方だから。

だから、心配しないでいいのよ。」


その言葉に、ひなの胸の奥で何かがふっと軽くなった。

よくわからないけれど、この人になら——きっと信じても大丈夫。

そんな気持ちが自然に湧いてくる。


美歌は立ち上がり、椅子の背にかけていたコートを手に取ると、軽く笑った。

「じゃあ、そろそろ行くね。ひなちゃん、帰りは大丈夫?」


「はい。家、近いので大丈夫です。ありがとうございます。」

少し名残惜しそうに微笑みながら、ひなは立ち上がった。


「じゃあ、明日連絡してね。お店にも午後には行けると思うから。」


「はい、必ず電話します。

……美歌さん、シュウのこと、よろしくお願いします。」


その声には、ひなの中にある小さな不安と、大切な人を託すような真剣さが混ざっていた。

美歌は一瞬だけ優しい目をして、口元に微笑を浮かべた。


「えぇ、任せなさい!」


その力強くも柔らかな言葉に、ひなは自然と肩の力が抜けた。

“この人なら大丈夫だ”——そう心のどこかで確信している自分に気づきながら、

ひなは深く頭を下げた。


外に出ると、夜風が少し冷たくて、さっきまでの会話が夢のように感じた。

けれど胸の奥には、確かに温かい安心が残っていた。


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