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57 ぬくもり


夜の店内には、静かなBGMと食器を片付ける音だけが響いていた。

外はすでに暗く、窓ガラス越しに映る街灯の光が、

薄く揺れてテーブルの影を照らしている。


俺はカウンターの中で、いつも通り最後の片付けをしていた。

ひなが帰ってからの時間は、やっぱりどこか寂しい。

だけど、少しぼんやりと彼女の笑顔を思い出しながら、

ひとつひとつ丁寧に片付けを進めていた。


その時、奥の方から店長の声が響いた。


「シュウくん、もう上がっていいよー。

 今夜は暇だし、もう閉めるから。」


その声に振り向くと、店長はエプロンを外しながら

にっこり笑っていた。


「あ、でも店長、まだ少し残ってるし……」


そう言いかけた俺に、店長は手をひらひらと振って遮った。

「いいって。どうせ明日も朝からだろ?

 ひなちゃんと仲良くな。」


その言葉に、思わず顔が赤くなるのを感じた。

「も、もう……やめてくださいよ、店長。

 恥ずかしいですって。」


「ハハハッ」

店長はおかしそうに笑いながら、

奥のキッチンから何かを取り出してきた。


「ほら、これ持っていけ」

そう言って手渡されたのは、

まだ湯気の立つパスタの入ったテイクアウト容器だった。


「晩ごはん、これにしな。

 働いたあとはちゃんと食べろよ。」


俺は思わず目を丸くした。

「え、いいんですか? 店長の手作りですよね、これ」


「当たり前だろ、うちの味忘れられたら困るんだからな」

照れくさそうに笑いながら、店長は背中を向けてレジの片付けを続けた。


胸の奥がじんわりと温かくなった。

「ありがとうございます、店長。

 本当に……助かります。」


「おう、気にすんな。

 若いもんは恋も仕事も全力でやんなきゃな。

 じゃあ、また明日な。おつかれ!」


「はい、店長、お疲れさまでした!」


ドアを開けると、夜風がひんやりと頬を撫でた。

手にしたパスタの温もりが、

なんだか今日一日を優しく包んでくれているように感じた。


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