56 告白
ひなが帰ってからというもの、店内は急に静かになった。
夕方のピークも過ぎ、カップの音が響くたびに、
どこか間延びした時間がゆっくりと流れていく。
カウンターには俺と店長だけ。
外の薄暗い光がガラス越しに差し込んで、
テーブルの影が少し長く伸びていた。
「……そろそろ呼ばれるかなぁ」
俺はグラスを拭きながら、心の中でつぶやいた。
さっき「あとで話がある」と言ってしまった手前、
自分から切り出すのも変な気がして、タイミングを計っていた。
そんな時、店長がふいに口を開いた。
「シュウくん、さっきの話って何だったの?」
その声に、胸がドクンと鳴った。
「あ、えっと……」
俺は手にしていた布巾をそっと置き、
ゆっくりと店長の方へ歩み寄った。
「実は……」
言葉が喉の奥で少しつっかえる。
(どう言えばいいんだろう……)
と考えたが、結局、考えていた“上手い言い方”なんて全部吹き飛んでしまって、
気がつくと、思いっきりストレートに口にしていた。
「ひなちゃんと……付き合ってます。
店長にはちゃんと報告しておこうと思って……」
言い終えた瞬間、空気が一瞬止まった気がした。
店長がどんな顔をしているか怖くて、
視線を合わせられなかった。
けれど――
「やっぱりなぁ〜」
と、店長はにやりと笑いながら言った。
「前からそう思ってたよ。2人、なんか空気違うなって。
仲良いのに変に意識してる感じだったもんな」
その言葉を聞いた瞬間、顔が一気に熱くなった。
「そ、そうですか? バレてないと思ってたんですけど……」
頬のあたりがじんじんする。
恥ずかしさをごまかすように、思わず笑ってしまった。
「大人を甘くみるなよ」
店長はニヤリとしながら、カップを磨き続けている。
「なんでもわかるよ。若いっていいねぇ、ハァハァハァ」
その軽口に、俺も思わず苦笑した。
「もう、やめてくださいよ……」
でも、そんな店長の顔はどこか嬉しそうで、
まるで自分の家族の話を聞いた時みたいに、
穏やかで温かい表情をしていた。
俺はそんな空気に、少しだけ安心して、
ふっと肩の力が抜けた。
――たぶん、ひなに報告したら笑うだろうな。




