54 繋がり
美歌さんが店を出ていったあと、
ドアのベルの音がまだ耳の奥に残っているような気がした。
そのまま俺は、ふぅっと息をついてから、
カウンターに戻って作業をしていたひなの方へ近づいた。
「なんかさぁ……美歌さんって、不思議な人だなぁ〜」
そうつぶやくと、ひなは顔を上げて、
ふっと微笑みながら小さくうなずいた。
「うん、やっぱり霊媒師か、超能力者かもよ。
だって、目が合った瞬間、心の中まで読まれてる気がしたもん」
その言葉に思わず笑いそうになって、
俺たちは目を合わせた。
でも、同時に“吹き出すわけにはいかない”空気も感じて、
二人して慌てて口元を手で塞いだ。
そんな中、タイミングを見計らったように、
店長が後ろから近づいてきた。
「おい、なんだ? 二人して何コソコソ笑ってるんだ?」
その低めの声に、俺とひなは思わずピシッと姿勢を正した。
「い、いえ! 別になんでもないですから!」
ひなが即座に答える。
少し早口で、でもどこか照れたような声だった。
店長は眉をひとつ上げて、
「ふぅん……そうか?」と怪訝そうに俺を見た。
その視線を受けた瞬間、
ふと昨日の夜――美歌さんが言っていた事
を思い出した。
胸の奥がざわつき、
俺は思わず口を開いていた。
「あの……店長。後で、ちょっとお話があるんですけど」
「ん? 俺にか?」
「はい。あの、少しだけでいいんで」
店長は腕を組みながら一瞬考えて、
「……あぁ、落ち着いたらでいいか?」
「はい。いつでも大丈夫です。お願いします」
俺がそう答えると、
店長は「ふぅん……」と少し考えるような表情をしてから、
「じゃあ、あとでな」と言って、
興味ありげにこちらを見つつも、キッチンの方へ戻っていった。
その背中を見送りながら、
俺は少しだけ息を吐いた。
すると、すぐ隣からひなの声が飛んできた。
「ねぇ、なに? なんの話なの?」
俺が少し迷いながら答えると、
「美歌さんに、昨日……言われたことがあってさ。
店長にも話しておいた方がいいのかなって」
「えっ、うそ!?」
ひなが目を大きくして、
次の瞬間、顔を赤らめながら両手で頬を押さえた。
「やだぁ〜、恥ずかしいよ! なにそれ!」
ひなの反応があまりに素直すぎて、
俺は思わず吹き出してしまった。
けれど――その笑いの裏で、
胸のどこかがざわざわしていた。
昨日の美歌さんの言葉も、今日の連絡してって言ったことも
もしかしたら全部、何か繋がっているんじゃないか――”
そんな考えが、ほんの一瞬だけ頭をよぎった。




