25 【公園】
部屋に戻り、ベッドに体を横たえた。
天井を見上げながら、ふと昼間の出来事が脳裏によみがえる。
――気をつけろよ。甘くみるなよ。
あの白髪の男性の言葉が、まるで耳元で囁かれるように蘇る。
なぜあの人は、あんなにも真剣な眼差しで、繰り返し俺に伝えようとしたのだろう。
「なんだったんだろう……」
心の中で呟く。あの妙な忠告は、もしかして――さっき部屋で感じたあの“いやな違和感”と関係があるのではないか。
引っ張られた裾の感触。
それは気のせいでも錯覚でもなく、今でもはっきりと腕や背中に残っているように思える。まるで誰かが未だに背後から手を伸ばし、掴もうとしているかのように。
胸の奥に広がる不安を振り払おうと目を閉じた。だが、闇の中に入れば入るほど、あの言葉が重く沈み込み、頭の中にこだまして離れない。
――甘くみるな。
その言葉に囚われながら、気がつけばまぶたが重くなっていた。
不安を抱えたまま、俺は静かに眠りへと落ちていった。
――あれ……。
気がつくと、俺はどこか見覚えのある小さな公園に立っていた。
懐かしいような気もするのに、どうしても場所が思い出せない。喉元まで出かかっているのに
ふと視線をやると、ブランコのそばに小さな男の子が立っていた。誰もいないはずの公園で、その子だけが楽しそうに遊んでいる。
その男の子と目が合った瞬間、男の子は小走りでこちらに近づいてきた。
「おにーちゃん、僕と一緒に遊んで……」
小さな声。けれど妙に耳に残る、切実な響きだった。
「僕ね、一緒に遊んでくれる友達がいないんだ。ずっとひとりで、さみしいんだよ。だからお願い……遊んで?」
その言葉に胸がざわつく。どこか違和感がある。子供らしい無邪気さというより、心の奥底にこびりついたような重たい孤独がそこにはあった。
思わず俺は口を開いた。
「ごめんね……おにーちゃん、これから用事があるから、今日は一緒に遊べないんだ。だから……今度でいいかな?」
子供はしばらく俺をじっと見つめてから、ふっと笑った。
「……うん。じゃあ今度ね。絶対だよ。約束だからね……」
その瞬間、少年の姿がゆっくり、スゥーッと霞のように消えていった。風も音もなく、本当に最初から存在しなかったかのように。
「はっ……!」
息を呑んで目を覚ます。そこはいつもの自分の部屋。
夢だった……のか?
けれど胸の鼓動は早く、まだ少年の声が耳に残っていた。
――絶対だよ。約束だからね。
ただの夢で終わる気がしない、不気味な余韻がそこにあった。




