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100 一瞬のなごみ


ゴソゴソ……


重く沈んだ空気の中で、テーブルにもたれかかっていたシュウが、不意に体を大きく揺らしながら頭を上げた。


その動きに合わせて、

椅子が軋む音がコツン、コツンと小さく響き、


「ふわぁ〜……」


まるで深い眠りから覚めたばかりのような、重たいあくびが漏れた。


シュウはぼんやりと目をこすりながら、呟いた。


「……あれ? 俺、寝てたのか?」


一瞬の静寂。


その問いかけに対して、

ひなと店長それに美歌は思わず顔を見合わせ、小さく笑い声をあげた。


店長は安心したように息を吐き、

「よかった、生き返ったな」と軽く肩を叩き、

ひなも、緊張で固まっていた身体を少し緩めるように微笑んだ。


美歌さんは静かに目を細め、「もぉ大丈夫」と囁くように頷いた。


私はその瞬間……

部屋の空気が

救われたような、

それでいてどこか、

“まだ終わっていない”ことを匂わせるような、


複雑な安堵と緊張の入り混じったものに包まれていた。


私は、場の緊張をほぐしたくて、

わざと明るく声を張った。


「シュウ、何時間寝るの? もうバイト終わりの時間だよ〜?」


軽く茶化すように言うと、

シュウはビクッと肩を跳ねさせ、

一瞬で眠気が吹き飛んだように目を大きく開いた。


「えっ……えぇ!? やばっ!」


慌てて周りを見回し、

そこでようやく自分がテーブルの上に倒れるように寝ていたことに気づいたらしい。


顔を真っ赤にして、

深々と頭を下げながら店長へ叫ぶように言った。


「店長、すみません! 本当に……いつ寝たのか全然覚えてなくて……

え、なんでだ? 俺……そんなに疲れてたのかな……?」


困惑と焦りが混ざり合い、

自分でも理解できていない様子で額に手を当てる。


その姿を見て、

ひなと店長は微笑んで

美歌さんは静かにその様子を優しく見守っていた


店長が、どこか安心したように目を細めて

テーブル席からゆっくり起き上がったシュウに向かって笑った。


「気持ちよさそうに寝てたなぁ。

 見てるこっちが気持ちよくなるくらい、ぐっすりだったぞ。」


その言葉に、シュウは一瞬きょとんとした後、

照れくさそうに後頭部をかいた。


「え……そんなに? 本当に……?」


まだ頭がぼんやりしているのか、

視線がふらつき、呼吸もどこかゆっくりで、

完全に“寝ぼけの余韻”に浸っているのが誰の目にもわかった。


まぶたは半分落ちかけ、

身体の力も抜けきっていて、

まるで夢の世界から戻りきれていない子どものようだった。


ひなも、店長も、美歌さんも

その“気の抜けたシュウ”を見て思わず笑ってしまった。


その柔らかい空気の中で、

ただひとつだけ――

ひなの胸の奥では、

ついさっきまで漂っていた異様な気配の記憶だけが、

頭から離れなかった。

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