第80話 そこにいるじゃねーか
「おいおいおい、アイツが何でこんな立派な家を所有してやがるんだよ?」
街の一等地にあったその大豪邸を前に、一人の青年が忌々しそうに吐き捨てた。
背が高く、端整な顔立ちをしているが、同時に自尊心の強そうな青年である。
「うちを追い出されてから何があった?」
「それがどうやらこの都市を救うような働きをしたらしく……この豪邸も、その褒美として領主から下賜されたとか……」
応じたのは彼の配下と思われる男。
「都市を救っただと? はっ、アイツに一体何ができるというんだ?」
青年は嘲るように問う。
「少々魔力が多いというだけの生活魔法使いだろう? 誰かと勘違いしてるんじゃないか?」
「い、いえ……確かに特徴は完全に一致しておりますし……ライル様に間違いないかと」
貴族然とした青年の名は、カルザー=エグゼール。
彼は魔法使いの名門として知られるエグゼール伯爵家の次男であり、ライルの兄にあたる人物だった。
「ちっ、気に喰わないな。いきなり家を追い出されて、てっきりどこかで野垂れ死んでくれてると思ってたのによ」
幼い頃から神童と呼ばれていた二つ下の弟ライルの存在は、彼にとってこの上なく疎ましいものだった。
『ライル様は本当に物覚えが速い。こちらが一しか教えていないのに、十も二十も理解されてしまう。まさに神童ですよ』
『それに比べてカルザー様は……意欲だけはあるのですが、いくら教えてもなかなか習得されず……』
『二人を見ていると、天才と凡才はこうまで違うのかと思ってしまいますね』
なぜなら事あるごとく弟と比較され、自分が劣っていることを否応なく思い知らされてきたからである。
過去を思い出して苛立ちながらも、カルザーはその豪邸の門扉を押した。
「……開いてる? アイツは中にいるのか」
そのまま広い庭に足を踏み入れるカルザー。
「警告。関係者以外の立ち入りを禁ず」
「ん? 何だ? おい、何か言ったか?」
「いいえ、何も……」
「……気のせいか」
真っすぐ建物のドアのところまでやってくると、声を張り上げた。
「おい、ライル! オレだ! いるんだろう!? 出てこい!」
返事はなかった。
舌打ちをしつつドアノブを引くが、どうやらこちらは鍵がかかっているようだった。
「手を煩わせやがって」
カルザーはいったんドアから距離を取ると、
「ぶち破ってやる」
魔力を爆発させた。
猛烈な魔力が渦を巻く中、彼はドア目がけて魔法を放つ。
「〈エアバースト〉」
凝縮された爆風が凄まじい勢いでドアを直撃する。
「な、なんという威力……カルザー様の得意とされる緑魔法は、決して攻撃力の高い魔法ではないというのに……」
後ろにいた配下が戦慄する中、爆風がドアをぶち破る――ことはなかった。
「防犯システム作動。攻撃を防御します」
そんな音が響いたかと思うと、カルザーの魔法が四散した。
「何だと!? オレの魔法が防がれた!? 一体どうなってやがる!?」
「警告。これ以上の攻撃には反撃を行います」
「っ……うるせぇ! これならどうだ! 〈トル――」
「警告に応じないと判断。捕縛します」
それはカルザーが魔法を放つよりも早かった。
バンッ!!
どこからともなく飛来した網が、カルザーの全身に勢いよく絡みついたのだ。
「がっ!?」
それはかなり重たい網で、カルザーは吹き飛ばされて地面を転がる。
そのせいで網がさらに複雑に身体に絡まってしまった。
「カルザー様!?」
「な、何だこれは!? くそっ……ぜんぜん外れない……っ!」
強引に網から抜け出そうとするが、なかなか上手くいかない。
ちょうどそのタイミングで、門扉から冒険者らしき集団が入ってきた。
「そういえば冒険者ギルド経由で姉上から連絡が来ていました。どうやら無事に姉上のパーティと合流できたようです」
「それはよかったでござる!」
「そして早速、魔境に向かうとのこと」
「がはははは! きっと今頃、サポート要員らしからぬその能力に驚いているところであろう!」
男二人女二人の四人組である。
そのうちの一人、シーフ風の男が真っ先に庭に転がるカルザーに気づいた。
「……待て。敷地内に誰かいる」
「がはははっ! もしかして少年の知り合いか!」
「そんなふうには見えないですが……」
「というか、一人、倒れているでござるよ?」
警戒しつつも近づいてくる四人組。
「なぜか網に絡まっていますね……」
「もしかしてそういうプレイが好きな変態でござるか……?」
「誰が変態だ!? オレは好きでこんな状態になっているわけじゃない!」
あらぬ疑いをかけられ、カルザーは慌てて否定してから、
「それより何者だ、お前たちは?」
「私はCランク冒険者のリーゼ。彼らは私の仲間たちです。……あなたは?」
「オレはカルザーだ。この屋敷の主に用があって来た」
「……なるほど。ではライル君のお知り合いということですか。ところで意図したものではないとしたら、なぜそんな状態に?」
「……やはりアイツの仲間か……アイツは今どこにいやがる?」
都合の悪い質問を無視して、カルザーは問い詰めるように訊く。
「生憎ともうこの街にはいませんが。もちろん当然この屋敷にも」
「何だと? くそっ、入れ違いになったか……」
しかしそのときだった。
門扉の前に忽然と一人の少年が姿を現したのは。
「いや、そこにいるじゃねーか……」
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