第79話 何も起きないはずもなく
「そろって落ちてしまったのだあああああああっ!? どどど、どうするのだああああああああああああっ!?」
仲間の二人が巨大アルマジロに吹き飛ばされ、その勢いで竪穴に落下してしまい、アルテラは絶叫した。
「ははは、早く助けに行くのだっ!」
慌てながらも崖に近い斜面を下りていこうとした彼女の身体を、鞭が拘束した。
無論それはローザの鞭だ。
「何をするのだ!?」
「それはこちらの台詞ですわ。まさか、直接この斜面を下りて彼らを助けにいくつもりですの?」
「そのつもりなのだ!」
「パーティのリーダーとして、それは許しませんの」
「なぜなのだ!? もしかして二人を見殺しにするつもりなのだ!?」
激怒し、ローザに食ってかかるアルテア。
タティアナが冷静に横から口を出す。
「仕方ないでしょ。このまま二人を追いかけても死人が増えるだけよ」
「タティまで!? なんて薄情なのだっ! 二人がそのつもりなら、それでいいのだ! 吾輩だけでも二人を助けにぎゃああああっ!」
いきなり全身に電撃を喰らい、アルテアは悲鳴を上げた。
「な、何、を……がくっ」
そしてそのまま気を失ってしまう。
「……悪く思わないでほしいですわ」
ローザはため息交じりに呟く。
「もちろん助けに行きたいのはやまやまですけど、深さ一万メートルと言われている竪穴の底まで救助に向かうのは現実的ではありませんの。それに……仮に二人が生きていたとしたら、きっとライルくんの生活魔法でギアの街に戻ってくるはずですわ。今あたくしたちにできるのは、それに賭けてギアの街に帰還することだけですの」
彼女はアルテアの小さな身体を担ぎ上げると、タティアナと共にギアの街を目指して歩き出した。
◇ ◇ ◇
気づけば僕とカーミラさんは、ギアの街で手に入れた家の前に立っていた。
「あ、危ないところでしたね……」
「……助かった……?」
そろって安堵の息を吐く。
ただ、穴底から何千メートルも離れた安全な街に戻ってきたというのに、あの巨大カエルに睨まれた恐怖は簡単には抜けず、しばらくはまともに身体を動かすことができなかった。
ようやく落ち着いてきたところで、ふらつく足取りで家の中へ。
「しばらくここで休みましょう……多分、ローザさんたちはこの街に戻ってくるはずです」
穴底に落ちた僕たちを救助するのは現実的ではない。
僕が〈帰宅〉という生活魔法を使えることは知っているし、もし生きているならギアの街に帰還していると判断するはずだ。
「わ、若い男の子と……二人きり……何も起きないはずもなく……ハァハァ」
「いえ想像されてるようなことは何も起きないと思います。……あ、でも……家の中、何にもないですね……」
こじんまりした平屋なのだけれど、中は随分と広く感じられた。
というのも家具も調度品も何も置いていないせいだ。
「前の持ち主が全部持って行っちゃったのかな……? 壊れてたとしても、ものさえあれば〈修繕〉でどうにかなったんだけど……」
ふとそこで魔境の探索中に習得した生活魔法のことを思い出す。
「もしかしたらこれが使えるかも? えっと、トレントの木材に、コカトリスの羽毛、それからミノタウロスの皮を用意して……〈日曜大工〉!」
休日に趣味で木工作業を行うこと。
それが日曜大工だけれど、この〈日曜大工〉は必要な材料さえそろえておけば、簡単なクラフトを自動で行ってくれる便利な生活魔法らしかった。
気づけばそこに立派なソファが完成していた。
腰かけてみると、柔らかいのにしっかりとした弾力があって、座り心地抜群だった。
成人男性の身長並みの幅があるので、ベッドとしても使えそうだ。
「これをもう一台作ろう。〈日曜大工〉!」
ちなみに作った家具を移動させたいときは、〈重さ軽減〉を使えばいい。
僕一人では到底持ち上げられない重さのソファでも、簡単に好きな場所に配置することができる。
さらにクッションや毛布も作って、
「じゃあ僕はちょっとこのソファで休ませてもらいますね。カーミラさんもそっちのソファを使っていいので適当に休んでください」
魔力もかなり消耗していて、もはや疲労はピークだ。
ソファの上に寝転ぶと、〈快眠〉も使っていないのに一瞬で意識が遠のいていった。
ウーウーウーウー。
「っ?」
目が覚めたのは耳障りな音のせいだった。
ソファの上で身を起こすと、もう一台のソファではカーミラさんが眠っていた。
こんな音が鳴っているのによく安らかな表情で寝続けられるなと思ったけれど、どうやらこの音は僕にしか聞こえていないらしい。
「もしかして〈防犯〉の……?」
生活魔法〈防犯〉。
これをあらかじめ建物にかけておけば、犯罪者などが無理やり侵入しようとしたときに、警告音で教えてくれるのだ。
念のためフェリオネアにあるシルアの家と、アーゼルの家に使っておいたのだけれど、どうやら反応があったのは後者の方らしい。
「領主様から貰った立派な家だし、金目のものがたくさんあるとでも思ったのかな?」
生憎と中には備え付けの最低限の家具と調度品があるだけだ。
「ともかく行ってみよう。〈即帰宅〉」
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