第62話 れっきとした大人のレディなのだ
振り返るとそこにいたのは、盗賊団から助けた女の子……じゃない、冒険者のお姉さんだった。
「少年もこの街に来るつもりだったのだ? ……でも、何で吾輩より早く着いてるのだ? かなり急いだはずなのだ!」
どうやら途中で追い抜いてしまったらしい。
僕は〈歩行補助〉や〈快眠〉のお陰で、ほとんど休まず歩き続けられるからね。
「って、今はそんな場合ではないのだ! 早く合流しないと怒られるのだ! そこの受付嬢! 吾輩はアルテアなのだ! ローザたちはどこにいるか、伝言されているのだっ?」
彼女はアルテアというらしい。
でもそれより今、ローザという名前を口にしなかった……?
ビアンカさんが怒りを露わにした。
「まさか、あなたがアルテアさん? どう見ても子供じゃないの! こんな子供ばかりを連れて魔境に挑もうなんて、一体何を考えているのよ……っ!?」
「わ、吾輩は子供ではないのだ! こう見えて、れっきとした大人のレディなのだ!」
憤慨して言い返すアルテアさんだけれど、その様子も子供にしか見えない。
だけど冒険者カードを提示すると、
「え、Bランク冒険者っ? それに二十三歳……? その見た目でっ?」
「……どうせ吾輩は童顔なのだ」
童顔というレベルじゃないと思う。
背も僕よりずっと小さいし。
「し、失礼しました。人を見かけで判断するなんて……受付嬢失格だわ……向いていないのかも……他の子たちみたいに美人でもないし……」
謝罪するビアンカさん。
いや、そこまで落ち込まなくても。
「ライルさんも子供のように見えて、実はベテランの冒険者さんなのね」
「子供のように見えては余計です。あと、アルテアさんほどのギャップはないですよ」
僕も冒険者カードを掲示した。
「なるほど、十五歳のDランク冒険者ね……って、ほぼ駆け出しじゃないの! ここの魔境は推奨Cランク以上って言ったでしょ!?」
「やっぱり怒られた!?」
そこでアルテアさんがふと何かに気づいたように、
「ローザが魔境挑戦に向けてサポート要員を探してるって言ってたけど、もしかしてそれが少年なのだ?」
「えっ? じゃあ、アルテアさんのパーティって……リーゼさんのお姉さんの?」
「うむ、リーゼはローザの妹なのだ」
どうやら奇遇にもアルテアさんは、僕が合流しようとしているパーティの一員だったみたいだ。
「サポート要員……? それなら戦闘には参加しないだろうし、Dランク冒険者でも許されるのかしら……? だけど危険なことには変わりないし……冒険者ギルドとしてどう判断すべきか……」
ブツブツと呟くビアンカさんに、アルテアさんが訊いた。
「それでローザたちはどこにいるのだ?」
「あっ、はい、彼女たちならこの街の宿〝夢追い亭〟で待っているとのことです」
ローザさんたちがいるという〝夢追い亭〟は、冒険者ギルドから目と鼻の距離にあった。
ビアンカさんによると、宿の店主が、かつて魔境『無明の竪穴』の深部に挑戦したこともある凄腕の元冒険者らしい。
経験者から直接、魔境の話を聞けることから、冒険者たちに非常に人気の宿のようだ。
「……」
そんな宿の入り口前で、なぜか難しい顔でアルテアさんが立ち止まった。
「あれ? どうしたんですか、アルテアさん? 入らないんですか?」
「……吾輩は別行動していて、本当は約束の日までにこの街に着いているはずだったのだ。……それが知っての通り、あの盗賊団に捕まってしまって……一週間以上も遅れてしまったのだ」
まるで本当の子供のように涙目になり、ぶるぶると小さな身体を震わせるアルテアさん。
「ローザにどんな仕置きをされることかと考えたら……入りたくなくなってしまったのだ」
「仕置き……ローザさんって、もしかして怖い人なんですか?」
「怖いなんてものではないのだ! 吾輩は勝手に悪魔の化身だと思っているのだ!」
「人ですらなかった……」
と、そのときである。
どこからともなく縄のようなものが飛んできたかと思うと、それがアルテアさんの右足に絡みついた。
「悪魔の化身ですか、ふふふ……。それはそれは、随分と高く評価していただけたようですわねぇ、アルテア?」
柔和な笑みを浮かべながら現れたのは、優しそうな印象の女性だった。
どこかの貴族の令嬢といった雰囲気ながら、手には物々しいデザインの鞭を有しており、アルテアさんの足に絡みついているのはその先端だ。
「げぇっ!? ローザ!? 聞いていたのだ!?」
アルテアさんが頬を引き攣らせて叫ぶ。
「ちちち、違うのだ!? 今のは言葉の綾というかっ……決してローザのことを悪魔だなんて思ってはいないのだ!? あと、遅れて本当にごめんなさいなのだああああああっ!」
その場で素早く土下座を決め、必死に謝るアルテアさん。
「……一応、理由を聞かせてもらえますの?」
「隊商の護衛依頼を受けたら、油断して盗賊団に捕まってしまっていたのだ……」
「ふふふ、正直でよろしいですわ」
「お、怒らないのだ……?」
「ええ、もちろん……怒ってなどいませんわ?」
「といいつつ、鞭が引っ張られてるのはなぜなのだああああっ!?」
右足を鞭で釣られ、アルテアさんの小さな身体が逆さまの宙づりになった。
「あくまでこれはお仕置き……あなたの教育のためですの。決してあたくしが怒っているからではありませんわ」
「その割に青筋が立っているのだああああっ!?」
「悪魔の化身などと言われたことも、まったく全然これっぽっちも気にしていませんわ?」
「やっぱりどう考えても怒っているのだあああああああああああっ!?」
次の瞬間、ローザさんが手にする鞭の近くで、バチバチッと火花のようなものが弾けたかと思うと、アルテアさんが絶叫した。
「んぎゃあああああああああああああああっ!?」
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