第6話 何でそこで下着を選ぶ
大きなバスタブにたっぷりとお湯が沸いた。
立ち昇る湯気に気づいて、他のパーティの冒険者たちが不思議そうにこっちを見てくる。
「こんなに早く沸かせられるもんなのか……?」
「はい、これくらいのバスタブならすぐですよ」
驚くゲインさんに、僕は頷く。
「おれが聞いた範囲だと、生活魔法で風呂に湯を張ろうとしたら、この三分の一くらいのサイズでも二十分はかかるって話だったけどな……つまり、このバスタブだと一時間だ」
「はは、お湯を張るだけで一時間もかかったら燃費が悪すぎですよ。その間に冷めちゃいそうです」
首を傾げているギルさんの言葉に、僕は笑う。
「うん、ちょうどいいお湯だわ! あなた、最高ね! じゃあ早速、入らせてもらうわ!」
バスタブの周囲を布で覆って見えなくしてから、中でメーテアさんが服を脱ぎ出す。
衣擦れの音が聞こえてくる中、ギルさんがごくりと唾液を呑み込む。
「これは奇麗にしておいてちょうだい」
そこへ布の向こうから、脱いだ衣服が放り投げられてきた。
もちろん下着も一緒だ。
ギルさんがこっそり耳打ちしてきた。
「……汚れを落とす前に少しおれに貸してくれないか?」
「おい、ギル、オレの女の下着をどうするつもりだ?」
「ひっ、じょ、冗談! ただの冗談だって!」
どうやらゲインさんに聞こえていたらしい。
「えっと、すぐに汚れを落としますね」
「ちょっと! 汚れなんて言わないでもらえる?」
「あ、すいません」
怒られてしまった。
女性に対しては失礼な言葉だったみたいだ。
メーテアさんに聞こえないよう、小さな声で魔法を発動する。
「〈汚れ落とし〉」
キラキラキラキラッ!!
「はい、キレイになりました」
「もう終わったのか!?」
「マジか。けど、本当にキレイになったのかよ?」
ギルさんが半信半疑でメーテアさんの下着を手に取り、確認しようとする。
「おいこら何でそこで下着を選ぶ」
「はっ!? い、今のはマジで間違えただけだっ!」
メーテアさんがお風呂に入っている間に、僕たちはテントを設置していく。
テントは二張りあって、どうやら二組に分かれて寝るらしい。
「じゃあ、食事の準備もしますね」
「「食事の準備?」」
「はい。といっても、せいぜい鍋に食材を入れて煮込むくらいですけど」
〈水生成〉で水を満たした鍋を、〈火起こし〉で発生させた火にかける。
そして水が沸騰すると、〈小物収納〉で持ってきていた食材をナイフで適当に切って中に入れていく。
あとは調味料で味付けしつつ、食材が煮込むのを待つだけだ。
「……ごくり。だ、ダンジョンの中で料理をするなんて、考えたこともなかったぜ」
「ああ、基本は保存食だからな……」
そうこうしていると、バスローブに身を包んだメーテアさんがお風呂から上がってきた。
「ふぅ、いいお湯だったわ。これでぐっすり仮眠できそうね。でもその前にお腹が空いたわ。って、なんだかいい匂いがするわね?」
「ライルが料理をしてやがるんだ」
「えっ、料理までできるの!?」
「はは、そんな大層なものじゃないですよ。そろそろよさそうですね」
僕は謙遜というか事実を述べつつ、スープをお皿に取り分けていった。
「う、美味いっ! ダンジョンで温かい食い物なんて初めて食べたぜ」
「赤魔法使いがいるパーティが、豪快に肉を丸焼きにして喰ってるって話は聞いたことあったけどよ……まぁ、たまに焼き過ぎて黒焦げにしちまうらしいが」
「保存食ばかりじゃ美容によくないと思ってたのよ!」
大絶賛されてしまう。
「まさか生活魔法使いがこんなに役立つなんてよ」
「おれが噂に聞いてた生活魔法使いとは、ちょっと違う感じもするが……」
「見習いだっていうから期待してなかったけど、掘り出し物だったわね」
食事をしながらそんなことを言い合っているゲインさんたちを余所に、僕はシルアに声をかけた。
「さあ、僕たちも食べよう」
「……」
彼女はほんの僅かに頷いた。
だけどスープを取りにくる際、少しメーテアさんに近づいたときだった。
「ちょっとあんた、あんまりあたしに近づかないでよ。せっかくお風呂に入って綺麗になったのに、汚くなるでしょうが」
「っ……」
メーテアさんが辛辣な言葉を浴びせたのだ。
「はっ、確かにお前、かなり汗臭ぇな。風呂に入ったらどうだ」
「やめてよ。あれはあたしのお風呂なんだから。獣臭くなっちゃうじゃない。あんな簡易なやつでも割と高かったのよ」
さらに投げかけられる悪口に、ここまでずっと無言で無表情だったシルアも、伏せた顔がさすがに悔しそうに見えた。
「えっと、よかったら〈汚れ落とし〉を使ってあげるけど……」
「……」
恐る恐る声をかけたけど、無視されてしまう。
あ、もしかして、汚れって言っちゃったのが不味かったのかな……?
うーん……嫌われてしまったかもしれない。
二張りのテントは、片方をゲインさんとメーテアさんが、そしてもう一つをギルさんと僕が使うことになった。
「ちっ、何が悲しくて男と一緒に寝なくちゃなんねーんだよ」
「えっと、シルアはいつもテントの外なんですか……?」
「いや、前はおれと一緒のテントだったんだがよ、ついムラムラして襲いかけたら思い切りぶん殴られてなァ。それ以来、警戒してずっと外で寝てるぜ。心配しなくても、おれは獣臭いやつなんて御免だってのによォ。あのときは我ながらどうかしてたぜ。まぁ、ムラムラしちまった原因は分かってるがな。お隣のテントで二人がおっぱじめやがったんだ、くくくっ」
肩をすくめながら、悪びれる様子もなくそんなことを言うギルさん。
「……そうですか」
「あ? おいおい、そんな目でおれを見んなって。それとも何だ? お前もしかして、あんな獣娘がタイプなのかよ? おれみたいに殴られたくなけりゃ、襲ったりするんじゃねーぞ」
「しません」
「そもそもゲインの所有物だからな、勝手に傷を付けたら怒られるぜ? もちろんおれはそのあとゲインからも殴られたけどな、くはははっ!」
まだ何か言っている彼を余所に、僕はさっさと横になって目を瞑るのだった。
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