第54話 絶対に逃すわけにはいかないな
僕たちは地下5階の探索を続けていた。
何度もニワトリスの討伐に成功する中、廊下の曲がり角から顔を出しながら新たな個体を確認する。
「またいたぜ、ニワトリス」
「でも何かちょっと色が違わない?」
「ほ、ほんとですね? 黄色っぽいっていうか……金色っぽいような……?」
「え? もしかして、ゴルドリスじゃない?」
「「「ゴルドリス?」」」
僕が口にした名前に、三人そろって首を傾げた。
「ゴルドリスはニワトリスの希少亜種で、全身が金色のニワトリスだよ。その肉は黄金色に輝いていて、ニワトリスの肉の何十倍も美味しいって言われてる」
実家の書庫にあった魔物辞典に載っていたのだ。
世界中の美食家が喉から手が出るほど欲しがる希少食材なので、売れば数年は遊んで暮らせるほどの金額が手に入るとか。
「そ、そいつは絶対に逃すわけにはいかないな……っ!」
「……静かに。あたしが矢で仕留めてみせるわ」
壁に半身を隠しつつ、クーヴァがゴルドリスを狙う。
まだこちらには気づいていないようで、コケコケと喉を鳴らしながら暢気に徘徊している。
ゴルドリスがこちらにお尻を向け、みんなが息を呑む中、クーヴァが渾身の一矢を放った。
真っすぐゴルドリスの背中へと吸い込まれていく。
「ッ!」
「なっ……躱されたわ!?」
だけど直撃の寸前、気配を察したのか、ゴルドリスが素早く横に跳んで矢を回避してしまった。
すかさずアルクが飛び出して躍りかかったけれど、ゴルドリスは逃げ出した。
「逃がすか! 追いかけるぞ!」
「〈歩行補助〉」
「な、何だ、急に足が速く……? 何にせよ、これなら追いつけるぜっ!」
そのままだと確実に逃げられてしまうため、僕は〈歩行補助〉を使う。
歩行をサポートするための生活魔法だけれど、こんなふうに走るのを速くすることもできるのだ。
とはいえ、ゴルドリスはかなり俊敏だった。
全速力で追いかけているというのに、なかなか追いつくことができない。
それでも先頭を走るアルクとの距離は徐々に詰まってきている。
「う、うぅ……みんな、速すぎですっ……」
「大丈夫? うーん、ちょっと距離が開き過ぎちゃってるね」
一方で足の遅いコレッタが、少しずつ遅れ始めてきた。
ヒーラーの彼女を一人にするわけにいかず、僕はペースを緩めて彼女に合流する。
「アルク! コレッタたちが遅れてるわ!」
「もうちょっとで追いつくところなんだよ!」
意地でもゴルドリスを仕留めようとするアルク。
そのときいきなりゴルドリスが横道へと飛び込んだ。
「こっちかっ! っ……見ろ! 行き止まりだぜ!」
アルクが歓喜の声を上げる。
どうやらゴリドリスが逃げ込んだのは袋小路だったらしい。
遅れて横道に入った僕が見たのは、逃げ道を失ったゴルドリスだ。
ついに追い詰めることができ、舌なめずりしながらアルクが近づいていく。
「待って、アルク! 何か嫌な予感がするわ! 罠かもしれない!」
「えっ!?」
狩人の直感か、違和感を覚えたクーヴァが叫ぶ。
その直後だった。
アルクの足元で大きな魔力が動いたのは。
「な、何だ、これは!?」
「魔法陣!?」
「ま、まさか、魔法トラップですか……っ!?」
魔力によって描かれる幾何学的な紋様――魔法陣が出現していた。
ダンジョンのトラップの中には、こうした魔法系のものも少なくない。
踏むと攻撃魔法が飛んできてダメージを受けたり、何らかの状態異常を受けたりと、凶悪なものも存在する。
ただ、こうした駆け出し向けのダンジョンではかなり珍しいはず。
しかも厄介なことに、魔法系のトラップは狩人であるクーヴァには見つけ辛い性質のものなのだ。
「……〈注意報〉!」
僕は慌てて生活魔法を発動する。
この階層なら危険も少ないだろうと、効果が切れた状態のままにしてしまっていたのである。
すでにトラップの発動は止められないけれど、今ならまだ事前にその中身を知り、対処できるかもしれない。
「っ……転移トラップ!?」
次の瞬間だった。
袋小路全体を包むような光が弾けたかと思うと、気持ちの悪い浮遊感に襲われる。
やがて光が収まったとき、僕たちは先ほどの袋小路とは違う場所に立っていた。
かなり開けた空間だ。
「コケコケコケッ!」
「あっ、逃げていきやがる!?」
「ちょっと、アルク! 追いかけてる場合じゃないわ! まずは状況を把握しなくちゃ!」
ゴルドリスが余裕綽々で逃走していくのを余所に、僕たちは周囲を見回した。
人工的な遺跡の中であることは変わらない。
ただ、地下5階までと比べると明らかに光が少なくて薄暗く、全体的に天井が高くて廊下も広かった。
「どう考えても、もっと深い階層にまで飛ばされてるわね……」
「まさか、あんな浅い階層に転移トラップがあったなんてよ……くそっ、おれがもっと注意していれば……」
「あ、あの魔物、あえてあたしたちを誘い込んだんでしょうか……? だとしたら、凄く賢い魔物ですね……」
順調と思われていた初探索で、いきなりダンジョンに牙を剥かれ、狼狽えるアルクたち。
さらに追い打ちをかけるように、一体の魔物がこちらに近づきつつあった。
「魔物よ……っ!」
「コケコケコケッ!」
「って、何だ、ニワトリスかよ。まだこいつが出るってことは、そんなに深いところじゃなさそうだな」
「で、でも、なんかちょっと、普通のニワトリスとは違うような……? こっちに気づいても、逃げずに向かってきてますし……」
「ちっ、また亜種かよ」
「ていうか……かなり大きくないかしら……?」
怪訝そうにするアルクたちに、僕は〈注意報〉が教えてくれた情報を伝えるのだった。
「あいつはニワトリスの亜種じゃないよ。たぶんニワトリスの上位種で、厄介な石化毒を持つ魔物、コカトリスだ」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





