第46話 なんて女たらしなの
「お帰り、ライル。やっぱり私と暮らす気になったようね」
「いや、えっと……ちょっと諸事情があって」
〈即帰宅〉を使うと、フェリオネアにあるシルアの家に飛んでしまった。
気配を察して三階の窓から顔を出した白銀の髪の少女に、僕は苦笑気味に応じる。
「新しく覚えた生活魔法を試しに使ってみたら、アーゼルから一瞬でここに来ちゃったんだ。多分シルアに鍵を貰ったから、この家が自宅ってことになっちゃってるんだと思う」
「アーゼルから一瞬で? そんなのもう転移魔法じゃない」
「そうだね……家にしか行けないやつだけど」
「十分すぎるわよ」
そう言って笑ってから、シルアは口を少し尖らせた。
「それより、てっきり考え直して戻ってきてくれたと思ったのに」
「う、うん、ごめんね。……この鍵はどうしよう?」
鍵を渡されたとき、次にまた会うときに返すという約束をしたのだ。
まさかこんなに早く再会することになるなんて思いもしなかった。
「もちろんまだ持っててちょうだい。失くさないようにね?」
「〈小物収納〉で亜空間に入れてるから大丈夫」
「行き先が家限定ならまたアーゼルに戻るのは大変でしょ? 一晩泊ってく?」
「えっと、実はアーゼルにも〈即帰宅〉が使えるんだ」
そう告げると、不意にシルアの目つきが剣呑になった。
「……まさか、ここ以外にも家があるってこと? この短期間で……見かけによらず、なんて女たらしなの……」
「ち、違うから! アーゼルの領主様から褒美で家を貰ったんだ!」
「褒美で家? ちょっと何言ってるか分からないから、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
アーゼルに戻って、見習い依頼をたくさんこなしたこと。
それで無事にFランクから正規冒険者のEランクに昇格できたこと。
リーゼさんたちCランク冒険者のパーティに加入し、ダンジョンに挑んだこと。
ボスを撃破して帰還すると、街にデスグラスパーというバッタの魔物の大群が迫っていたこと。
〈虫よけ〉と〈害虫駆除〉の生活魔法を駆使し、どうにか最小限の被害で街を守ったこと。
……シルアと別れてから起こった出来事を、僕はざっくりと彼女に説明したのだった。
「ねぇ、私と別れてから半月も経ってないんだけど? いくらなんでもイベントが濃密すぎないかしら? しかもグラトニーレギオンなんて……」
グラトニーレギオンは、かつて彼女の故郷であるここフェリオネアをも襲った魔物災害だ。
フェリオネアは壊滅状態になり、住んでいた獣人たちは各地に四散、当時まだ幼かったシルアも家族を失うなど、いくつもの惨劇を引き起こした。
「都市を救ったんだから、確かに家ぐらい余裕で貰えるわね。何なら釣り合わないくらいでしょ」
「僕にできたのはあくまでサポートだから。みんなが力を合わせて魔物災害に立ち向かったからこそ、街を守ることができたんだ」
「出た。ライルの謎のサポート理論。本気でそう思ってるから質が悪いわ」
「何で!?」
このまますぐに回れ右はさすがに失礼というか、シルアに怒られそう。
なので、〈帰宅〉の仕様について確かめるのに少し協力してもらうことになった。
「まずは誰かと一緒に使えるかどうか……それができたらすごいけど、さすがに求め過ぎかな……?」
「できると思うわ。根拠はあなたの生活魔法だから」
「それ何の根拠にもなってないけど」
シルアと手を繋いで、アーゼルの家に向かって〈帰宅〉を発動する。
気づけばアーゼルで領主様から貰った家の前に、二人そろって立っていた。
「っ……できた!」
「ほら、言った通りでしょ」
喜ぶ僕とは対照的に、シルアはさも当然といった顔をしている。
「それにしても大豪邸じゃない。しかも見たところ街の中心部の一等地だし」
「はは……こんなの貰ったところで、一人じゃ持て余しちゃうんだけどね……」
「だからって女を囲ったりしないでよ?」
「しないよ!」
さらに色々と試してみたところ、〈帰宅〉について以下のことが分かった。
一緒に移動するには、身体の一部が接触している必要がある。
一人での移動よりも要求される魔力量が大きくなる。ただし単純に倍というわけではなく、二人で一・二倍、三人で一・三倍といった程度。
人だけではなく、同じような要領で物も一緒に移動できるが、地面などとくっ付いている物は不可。また、大きい物ほど要求される魔力量が大きくなる。
「人数が増えても大丈夫みたいだね」
「おいおい、またとんでもねぇ魔法を覚えちまったな!?」
驚いているのは、都市の復興隊でリーダーをしていたゼファルさん。
黒い肌の青年で、三人以上でも一緒に移動できるか確かめるため、彼にも協力してもらったのだ。
「もしかしたらダンジョンに潜っていても、この生活魔法を使えば帰還できちゃうかもしれないね。だとしたらサポート要員として、もっとパーティに貢献できるかも!?」
「……だからサポートどころじゃない」
生憎とフェリオネアの近くにダンジョンはないため、これはアーゼルに戻ってから確認する必要があった。
「協力してくれてありがとう、シルア。それにゼファルさんも。また遊びに来るよ」
二人に礼を言って、僕は再びアーゼルの家へと飛ぶ。
するとリーゼさんたちの姿があった。
「リーゼさん! ちょうどよかった! 実は新しく覚えた生活魔法で確かめたいことがあって……今からダンジョンに行けたりしますか? もちろん、僕の身体の方はもう大丈夫です!」
「ライル君、実は伝えたいことがあって、私もあなたを探していたところでした」
「あ、そうなんですか?」
なぜか神妙な顔をしているリーゼさんに、僕は少し戸惑う。
リーゼさんだけじゃない。
パーティメンバーのゴルドンさん、ユズリハさん、そしてピンファさんもまた、どういうわけか険しい顔つきをしていた。
「ライル君……これは私たちメンバー全員で話し合った結論です。悪く思わないでください」
「え……?」
困惑する僕に、リーゼさんは予想さえしなかった一言を口にするのだった。
「残念ながら、あなたを正式にパーティの一員に迎え入れることはできません」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





