第35話 お前はすぐそうやって強がる
「じゃあせめて、お風呂に入った気分を味わっていただきますね」
お風呂の代わりと言っては何だけれど、全員に〈汚れ落とし〉と〈気分転換〉を使った。
「っ……な、なんて爽快感っ……」
「汗も汚れも疲れも吹き飛んだでござる!」
「がはははっ! お風呂などよりよっぽど気持ちがよいであるな!」
「……」
喜んでもらえたみたいだ。
「さっぱりできたところで、食事を用意しますね」
「「「……?」」」
首を傾げるリーゼさんたちの前で、僕は亜空間から食材や調理器具を取り出していく。
「まさか、ここで料理をするつもりですか?」
「はい。せっかくなので、温かいご飯を食べてもらった方がこれからの探索が捗るかなって」
まぁ料理と言っても、簡単なパスタだけど。
「ちょうどさっき、時短に使えそうな魔法を覚えたんですよ。〈食材切り〉!」
まな板の上に並べておいた肉や野菜が、一瞬で良い感じのサイズにカットされる。
うん、これは便利な魔法だ。
「焼く前に……〈加熱〉!」
さらに切った食材へ〈加熱〉を使う。
こうすることであらかじめ食材に熱が通るため、時短になるのだ。
そうして軽く油を引いたフライパンに入れ、〈火起こし〉でつけた火で、まずは肉を焼いていく。
同時に鍋も火にかけて、
「〈湯沸かし〉!」
〈湯沸かし〉を使えばすぐに沸騰するので、乾燥したパスタを入れて茹で始める。
焼き色が付いた肉をフライパンから取り出すと、今度は野菜を入れて炒める。
崩れやすいトマトは最後だ。
茹で終わったパスタをそのフライパンに加え、先ほどの肉も戻す。
ここまで何の調味料も使っていない。
でも大丈夫。
「〈味付け〉!」
最後に〈味付け〉を使えば、しっかり味が付与されるのだ。
もちろん薄くしたり濃くしたり、あるいは変化を付けたりといった微調整も可能である。
今回は塩と胡椒、それにハーブとニンニクの効いた味付けにしてみた。
あくまで魔法による味付けなので、後からニンニクの臭いが残らないのが嬉しい。
「はい、お待たせしました! 名付けて、野菜とお肉の彩りパスタです!」
「「「は、早い……っ! そして美味しそう……っ!」」」
あっという間に完成した料理に驚くリーゼさんたち。
それぞれの皿に取り分けてあげると、恐る恐る口に運んでいく。
「お、美味しいです……っ!?」
「美味でござるな! ただ肉と野菜を焼いて、パスタに絡めただけとは思えぬ味でござる!?」
「がはははっ! おかわりをいただけぬか!」
「……もう食べたのか」
割と多めに作ったつもりだったのに、瞬く間に平らげてしまった。
ゴルドンさんが一瞬で三人分くらい食べたけれど、リーゼさんとユズリハさんも二人分は食べただろうか。
おかわりをしなかったのはピンファさんだけだ。
というか、する前には料理が無くなっていた……。
「さすがCランク冒険者……胃袋も凄い……。つ、次からはもっとたくさん作るようにしますね」
安全地帯で休息を終えた僕たちは、ダンジョンの攻略を再開した。
強力な魔物が増えてくる中、階層を踏破し、やがて地下20階にまで辿り着く。
「ついに地下20階ですね……。まさか、いきなり5階層分も記録を更新できるとは思ってもいませんでしたよ」
「がはははっ! そもそも今回は少年が加わって、様子見で上層辺りを探索するだけの予定だったのだがな!」
「ま、まぁ、ライル殿は、拙者の次に活躍していると言っても過言ではないでござるな!」
「……ユズリハ、どう考えてもお前より役立っている」
みんなが僕のことを褒めてくれるけれど、下層に進むほど動物系の魔物が増えてきたせいで、戦闘で活躍しづらくなってきていた。
防御力が高くて、魔力弾もあまり通じないし……。
「グルアアアアアアッ!」
「っ、アームグリズリーです!」
身体より大きな腕を持つ熊の魔物が、僕たちの前に立ちはだかった。
こいつの豪腕の一撃は、まともに喰らったらゴルドンさんでも一溜りもないほどの威力がある。
それでも、さすがは将来を嘱望されるCランク冒険者たち。
アームグリズリーの豪腕を搔い潜りながら、その巨体に確実にダメージを与えていくと、
「はあああああああっ!」
最後はリーゼさんの槍の刺突が、アームグリズリーの喉首を貫き、トドメを刺した。
巨躯が豪快に倒れ込む。
「……ふぅ。やはり地下20階ともなると、魔物の強さも上層とは段違いですね」
「でござるな。強敵との連戦が続くと、体力的にもハードでござる。も、もちろん、まだまだ余裕でござるけど!」
「……ユズリハ、お前はすぐそうやって強がる」
みんな疲れてきているようだ。
それに少なからずダメージを受け、身体のあちこちが痛むようで、
「一度、治癒魔法を使いましょう。できればポーションは温存しておきたいですし」
治療薬のポーションは希少で高価なので、ダンジョン探索中に受けたダメージなどは可能な限り治癒魔法で治すのがセオリーらしい。
やっぱりリーゼさんは白魔法も使える聖騎士のようだ。
「あ、でも、小さな傷であれば僕の魔法でいけるかもしれません!」
「そんな魔法があるのですか?」
「はい。ちょっとやってみますね。まずはリーゼさんから……〈痛み止め〉!」
すると見る見るうちに、リーゼさんの傷が消えていった。
「〈痛み止め〉って、痛みを和らげるだけではないのですか……?」
「いえ、今みたいに小さな怪我くらいなら治せますよ」
痛みの原因そのものを取り除いてくれるのだ。
「……それはもう、ほとんど治癒魔法ではないですか」
そうして僕は、全員に〈痛み止め〉を使った。
「ちなみにライル君、ここまで魔法を連発し続けていますけど、魔力は大丈夫なのですか?」
「はい、まだまだ全然余裕ですよ。少しずつ回復もしてますし、十分の一も減ってないです」
「「「十分の一!?」」」
「生活魔法ですから消費量が少ないんですよ」
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