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A国から逃げ隊  作者: 瓜
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真夏の軍隊

 ──梔子橋地区・オフィス街


 目も眩むような、真夏の空だ。

 しかし、何故だか、恐ろしい程に寒い。


「〜〜〜〜〜〜〜!!」


 背後から、何事かを大声でがなり立てられる。

 よく聞き取れないが、多分、「とっとと歩け」とか、そんなところだろう。


 今、私達の前後は、軍服を着た数人の男性によって、がっちりと固められている。彼らは何れも、異邦の人間だ。

 手には小銃を持ち、抜け目なく周囲に気を配っている。こんな大人数で何を警戒しているのかは知らないが、少しでも妙な動きを見せたら、確実に撃たれるだろう。

 その位、彼らは殺気立っているのだ。


 我ら一行の向かっていく先には、決して派手ではない、しかし堅固な印象のビルが見える。

 私達は、彼らによって、その建物へと引き立てられていく最中だった。

 恐らく、彼らの本拠地か、私達のような人間を閉じ込めておく場所だと思われる。


「………………………。」


 私は、表情にすら抗議の意を表さず、軍人らに従って行進する。

 俯いた頬に貼りつく髪の毛が、少し鬱陶しかった。


 そもそも、何故こんな事になったのか。

 正直な事を言えば、根本的な原因は全く分からない。

 何故、彼ら──恐らくB国の軍人が、廃墟と化したクチナシシティに駐留しているのか。

 何故、見るからに無力な市民である私達を、捕らえようとしたのか──武器を以って此方を駆り立ててくる様子からして、まさか「保護」ではないだろう。

 そういった情報が、私達には、著しく欠けていた。


 ただ、もっと表面的な原因を考えるとすれば、私達は余りに彼らの母国語が下手だった、というのがあるだろう。

 彼らが此方に近づき、何かを問いかけてきた時、私もさきも、B国語できちんと弁解する事が出来ず、何とか二、三下手なジェスチャーをしただけだったのだ。

 その姿は、彼らの目にはかなり不審に映った筈だ。

 まあ、だからと言って、滔々と身の上を話す事が出来れば解放されたかというと、それも疑問である。

 結局、彼らと遭ってしまった時点で、捕らえられる事は必然だったのだろう。こんな風に駆り立てられる事は、なかったかも知れないが。


「〜〜、〜〜〜」


 相変わらず、彼らの言っている事は分からない。スラングが多いというのも一つの理由だと思われる。


 段々と、件の建物が迫ってくる。

 これから、私達はどうなるのだろうか。どれ位の期間、拘束されるのだろうか。

 長くなるのか?

 この際私はいいにしても、さきを何時までも拘束される訳にはいかない。

 いや、寧ろ、このまま彼らのところに居た方が、ソース不明瞭な天原港の話を信じて行くよりも、安全なのだろうか?

 安全か否かはこれから分かるのか、分かった時には手遅れなのか。思考がぐるぐると頭を巡る。

 シャツの袖と包帯が傷口を覆い隠しているというのもあって、まだ私が感染者であるという事は、気づかれていないらしい。


 バレたらどうなる?

 最悪の待遇を受ける羽目になるのだろうか。それとも、治療を受けられたりするのだろうか。尤も、そんなうまい話があるとも思えないけれど。

 何にせよ、今暴れたところで勝ち目はない。ここは大人しく付いていくのが得策だろう。


 しかし、もしさきに何かしらの害が及ぶのだとしたら──

 その時は、例え勝ち目がなくとも、戦うしかない。

 …私は、さきの生存のために戦ってきたのだ。今更それに反する行動は出来ない。


 建物が、黒々とした口を開けて、我ら一行を呑み込む。

 中は、厭に冷んやりとしていた。


 *

 私達は、廊下を引き立てられて歩く。

 建物の内装は、規則的に部屋が並んでいるため少し学校に似ているが、もっと威圧感がある。窓がないのだ。それに、微かに消毒液の匂いがする。何となく、無気味な所だ。


 隣に居るたまは、無表情で、地面だけを見つめて歩いている。

 私はといえば、周りを囲む軍人達に咎められない程度に、辺りを見回して歩いてきた。


 コツ、コツ。

 冷え込んだ廊下に、人数分の靴音が響く。

 この建物に入ってから、軍人達はすっかりと黙りこくっている。かと思えば、二言三言、囁くようにして言葉を交わす。

 声音からして、片方は何かを問うているようだ。それに対して、相方が諌めるような口調で返している。


 私達は、クチナシシティに入ってほんの2、30分程で捕らえられた。

 裏路地を選んで歩いていたところを、一人の兵士に見つかったのだ。

 彼は、私達を見るや否や、無線で何事かを叫び、それから一瞬の内に、私達は囲まれていた。

 そしてそのまま、今に至るという訳だ。ついでに言えば、その時に荷物も全て奪われてしまった。


 それにしても、奇妙な事である。

 たかだか二人の少女に、何故、5人もの大男──しかも軍人が付いているのか。随分と大袈裟じゃないか?


 第一、何でこんな所に軍人がいるんだ?

 此処を拠点に、ゾンビを鎮圧しに来たという感じでもなさそうだ。

 少人数ずつで街中に散開していた事から言って、何か──私達のような人間を探していたのかも知れない。何故かは分からないけれど。


 それに、此処まで歩いてきて、全くゾンビに遭遇していないというのも、おかしな話だ。

 確かに、梔子橋郊外でも、ゾンビの数は極端に少なかった。

 しかし、クチナシシティは世界有数の人口過密地だぞ?

 流石にこれだけの大都市ともなれば、多少はゾンビが居なければ不自然である。例え、パンデミック直後に生存者は逃げ、ある程度のゾンビは散逸したにしろ、だ。


 クチナシシティの死者達は、一体何処に行ってしまったのだろうか?


 既に殺されたのか?

 まあ、此処には軍が駐留しているようだから、それは有り得るかも知れないが。


 しかし、どうやって?

 今こうして人間が生きていられるのだから、中性子爆弾なんかではないだろう。

 じゃあ、空から機銃掃射でもしたのか?それともドローン?戦闘マシーン?

 手段はどうあれ、殺したならば何故、ゾンビの遺骸がないんだ?片付けたのか?何のために?衛生上の問題か?やはり腑に落ちない。


 そもそも、この街は余りに「死の臭い」が薄いように思える。臭いは、此処に近づくまでの間に一度強まったが、再び弱くなったのだ。

 彼らは殺されておらず、今も何処かに居るのではないか?

 突拍子もない話だが、この街だけ何らかの方法でパンデミックを逃れただとか、そんな事すらあるのかも知れない。


 まあ、これに関しては、何を考えようとも所詮憶測に過ぎないのだ。

 原因が判ればそれに越した事はないが、判らないなら、今、起こっている現象だけで、これからの身の振り方を考えなくてはならない。


 それでいくと、目下最大の問題は、私達を取り囲む、この敵対心剥き出しの軍人達だ。


 …どうしようもないじゃん!


 そうこうする間にも、私達は、建物の奥へ奥へと連れて行かれる。


 外の熱気も、紺碧の空も何処へやら。

 どんどん周囲は冷え込み、空気は澱み、雰囲気は薄暗くなっていく。


 そうして最終的に私達がぶち込まれたのは、まるで監獄のような部屋だった。

何でこんな展開になっていたのか分からない。

気がついたらこうなってた。どうしよう。

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