3日目・朝
クチナシシティへの繋ぎなので、短いです。
そして進まない。
東の空から光が溢れ出し、廃墟となった街を琥珀色に染め上げる。
色の抜けた曙が立ち去って、朝が来たのだ。
「ん、もう朝か……」
私は、何時の間にか燃え尽きていた蝋燭を片づけて立ち上がり、大きく伸びをする。
まだ夜が明けたばかりだが、既に、真夏の熱気の気配がしていた。
結局あの後、私は一度さきと見張りを交代したが、中々寝つけず、再び見張り役となった。
そしてそのまま、今に至るという訳だ。
「見張り、殆ど要らなかったな」
私は小声でぼやく。
そう、驚くべき事に、私が見張りをしている間、このコンビニに近づいてきたのは、あの少女だけだったのだ。
さきも、ゾンビは殆ど現れなかったと言っていた。まあ、ゾンビの数が想定より遥かに少ないと判断したからこそ、さきに見張りを代わったというのはあるが。
梔子橋近郊だというのに、何故こんなにもゾンビの数が少ないのか。
幾ら人通りの少ない場所を選んだとはいえ、クチナシシティは、人口80万人の巨大都市ではなかったのか?
私は訝りつつ、黒く聳える高層ビル群を見つめた。
勿論、少なければ少ないに越した事はないのだが、余りに少な過ぎると、幸運よりも不自然さの方を強く感じ取ってしまう。
それに、クチナシシティに近づく程に、嫌な予感というか、胸騒ぎのようなものが強くなっていた。
「無事に通れるといいけど……」
私は街に一瞥を呉れつつ、荒れたコンビニへと入っていった。
「おはよう」
「んー。おはよう」
店内に入ると、さきは既に起き出していた。
彼女は、入り口近くに並べられた棚で、着替えのTシャツを物色しているようだ。
「着替えるの?私もそうしようかな」
「ああ。その服、血塗れだし、そうした方がいいよ」
さきにそう言われ、改めて、自分の着ているシャツを見る。
…確かに血塗れだ。それに、右腕の傷口に生地が貼りついていて、良くない。
私達は、それぞれ自分のサイズのTシャツを選び、汗拭きシートで身体を拭ってから、着替える。それから、傷周りに包帯を巻く。
それだけで、随分すっきりしたように感じる。
思えば、もう二日も同じシャツを着ていたのか。
私は苦笑いしつつ、それまで着ていたシャツを畳んで、ビニール袋の隙間に捩じ込む。
誰も見ていないとはいえ、本来肌着用であるコンビニのTシャツしか持たないというのは、少々抵抗があったのだ。何処かで洗えれば、それがいい。
別に嵩張るものでもないし、これ位は持って行っても問題ないだろう。
着替えが終わると、私達はバックヤードに行き、随分と数の減ったパンを食べた。
「今日の昼くらいから、パックのご飯も食べるか」
「うん。二日も続くと、流石にパンにも飽きてくるしね」
「ああ。…まあ、しょうがない事なんだけどな」
そんな他愛のない会話と共に、朝食の時間は過ぎていく。
それなりのカロリーがあるとはいえ、パンは、兎にも角にも胃に溜まらない。
ここ暫く、常に満たされない感のあった私にとって、昼から米が食べられるというのは、細やかな朗報でもあった。
「随分、機嫌がいいね」
さきに、そんな風に言われる位には。
そうして朝食を終えた後、荷物の最終確認をして、私達は出発する。
今や日は昇り切り、鋭角的な姿をしたビル群は、太陽光を反射しながら自身の存在を主張し始めていた。
空の色はまだ淡いが、このまま晴れが続けば、紺碧に変わっていくだろう。
まるで青春映画のような晴天だ。
だというのに、こんなにも不安なのは何故だろう?
それも、雨の前の入道雲のように、不安感が少しずつ大きくなっていくのを感じる。
私は、着替えたばかりのTシャツの生地を握り締める。生地は薄く、少し心許なかった。
しかし、私達はクチナシシティへと歩いていく。
結局、この先に何が待ち受けていようと、私達は先に進むしかないのだから。




