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第73話 球技大会⑦ —頂上決戦—

 バスケの準決勝が終わり、しばらくして男子ドッジボール決勝の時間がやってきた。


「蓮、ここまで来たら優勝しようぜ!」

「おう」


 蒼空が無邪気に笑いながら拳を差し出す。

 蓮も拳をぶつけ、互いに気合を入れた。


 初球という大役を果たすのは、その蒼空だ。

 振りかぶり、勢いよく放たれたボールは一直線に相手の足元を狙い、見事にヒットした。


青柳(あおやぎ)君、さすが!」

「豪速球!」


 結菜を筆頭に、観客席から大きな歓声が上がった。


 蒼空は「蓮でもまず間違いなく盛り上がるけどな」と言っていたが、こうはならないだろう。

 蓮と蒼空に実力差がほとんどない以上、やはり大事なところは華のある者に活躍してもらうのがいい。


 幸先の良いスタートを切った蓮たちだったが、すぐに苦戦を強いられた。

 決勝まで勝ち上がってきただけあり、相手の実力は高い。

 さらに、元々外野——いわゆる元外の田辺、渡辺、山下の三人が、当てられて外野に行った者たちにほとんどボールを渡さないのも問題だった。


 彼らは「ボール取んのとかだりぃし」などと元外を希望していたが、いざ試合が始まると功を立てたくなったのか、相手の実力者ばかりを狙うようになった。


 彼らも決して下手ではなかったが、決勝まで上がってくる相手のエース級を落とすには力不足だった。

 ことごとくキャッチされ、そのせいで誰も内野に戻れず、せっかく外野にボールを回しても、すぐに相手ボールになるというのが続いていた。


 蓮や蒼空を中心に、元外の三人以外にボールを回していたが、全員がある程度平等に投げることはできても、最初に外野に行くのは運動の苦手な生徒が多く、ヒット率は低めだった。

 一方の相手チームは、徹底的に得意な者にどんどんボールを預けるスタンスのため、その差は広がる一方だった。


「蓮——」


 蒼空が声をひそめて話しかけてくる。


「みんなにボール回すのも大事だけどさ……今の状況って、下手なやつらからしたら逆にプレッシャーじゃね?」

「まあ、確かにな」


 実際、嬉々としてボールを投げている者は少ないように見える。


「だろ? それに蓮、この試合まだ一球もちゃんと投げてないだろ。多少は自分で当てに行っても誰も文句言わねえし、ギャラリーもご不満みたいだぞ?」


 蒼空が苦笑しつつ、チラリと観客席に目を向ける。

 蓮もつられて視線を向けると——


「黒鉄、もっと自分で当てろよ!」

「うん、そのほうが効率いいと思う」


 亜美(あみ)莉央(りお)の会話が耳に入った。

 その少し横では、一見すると無表情に、しかしよく見れば確実に不機嫌そうに腕を組んでいる凛々華の姿があった。


(……バスケのときも、早川中心にしたのが不満だったっぽいし、今の状況も気に食わないんだろうな)


 凛々華は、英一や田辺たちに好意的な印象を抱いていない。

 そいつらに活躍させるくらいなら自分でやれ、というのもあるのだろう。


「……わかった」


 蓮は相手のボールをキャッチし、外野に投げると見せかけて素早く投じた。

 ボールは低い弾道で相手の足元に直撃した。


「うまっ!」

「外野にパスするふりして当てたぜ!」

「その前に青柳君と話してたの、今のプレイの相談してたのかな⁉︎」

「やっぱりあの二人だよね!」


 ギャラリーの歓声が響く。


 その後、相手のボールが(いつき)を狙う。


「わわっ!」


 それまでうまく逃げ回っていた樹は必死に避けようとするが、わずかに弾いてしまう。

 しかし、蓮がすかさず走り込みながら回収した。


 左足を軸に回転しつつ、その勢いを利用して投げたボールは、見事に命中した。


「何今の⁉︎」

桐ヶ谷(きりがや)君を助けたよ!」

「すごい瞬発力だな!」

「その後も回転しながら投げやがったぜ!」

「体幹すげえ⁉︎」

「格好いい……!」


 蓮の二発で流れを引き戻すことには成功したが、総合力とスタンスの違いでじわじわ差は広がっていく。


「元外、入って!」


 蒼空の指示で、田辺、渡辺、山下のテニス部三人組が内野に入ってくる。

 最初のプレーで田辺が狙われたが、彼は見事キャッチしてみせた。


「おおっ!」


 どよめきが起こった。

 田辺は得意げに鼻を膨らませ、「よっしゃ!」と気合の入った声を出した。

 そして果敢にも相手のエースを狙いにいくが、余裕を持ってキャッチされて当て返され、十数秒で外野に逆戻りとなった。


「ヘイ! 絶対当て返す!」


 外野にいきながら、田辺は手を挙げてパスを要求した。


(いや、自分は外野にパスしないくせに要求するなよ)


 蓮はため息を吐くのを我慢しつつ、他のあまりボールに触れていないクラスメイトにパスをした。


 その後、相手は蓮と蒼空を避けるように攻撃をしてきた。

 渡辺は当てられたが、すぐに山下がボールを回収した。


「田辺!」


 山下はお約束のように、田辺にパスを出した。


「よしっ、渡辺!」


 田辺と渡辺は、多少パスがずれても、ひたすら二人でボールを回し続けた。

 何往復かパス交換を行なった後に、田辺は近くにいた相手に当てて内野に戻って来た。


 その後、田辺は山下が当てられたボールを回収すると、蒼空の「外野にパスしろ!」という声を無視して自分で当てに行った。

 しかし、再び当て返され、またしても十数秒で外野送りとなった。


「負けてる状況で外野にパスしないで、逆に当てられるとかあり得なくない?」

「せめてうまいやつに預ければいいのにね」

「それなー」


 亜美と莉央がわざとらしく、大声で言葉を交わす。


「っ……!」


 田辺が悔しそうな表情を見せるが、構ってる暇はない。

 相手も元外はすでに入っているとはいえ、五人も残っているのに対して、内野は蓮と蒼空の二人だけの危機的状況だった。


 そこからなんとか粘って、二対二まで持ち込んだが、外野のパスでミスが発生して、ボールは予期せぬタイミングで相手陣地に転がった。

 相手のエースが素早い反応で拾って、近くにいた蓮を狙った。


(これは……無理だな)


 蓮は避けるのもキャッチするのも難しいと判断して、弾いてその場でボールをバウンドさせた。


「うわぁ、ついに黒鉄もやられた!」

「でもあいつ、ボールは陣地に残したぞ!」

「今の、わざとだよね⁉︎」

「頭脳的!」


 ギャラリーが湧く中、蓮は蒼空からのパスをもらって、素早く振りかぶった。

 相手がキャッチをしようとして取りこぼし、すぐに内野に復帰した。

 再び周囲が盛り上がる。


「ナイス!」

「一瞬じゃん!」

「これで二対一だ!」


 その後、境界線ギリギリのところで相手ボールになってしまい、回収しようとしていた蒼空が当てられて一対一になった。

 蓮はボールを回収して蒼空に預けるが、相手は間一髪のところで避けてみせた。


「おっとっと」


 蒼空の豪速球をもたつきつつも回収したのは、田辺だ。

 時間がかかったことに焦ったのか、乱れたフォームで投げられたボールは斜めに飛んでいった。

 ——その先にいたのは、相手の外野だった。


「おい!」

「何やってんだよ!」

「その角度じゃそうなるってわかるでしょ!」

「なんで斜めで投げんの⁉︎」


 ギャラリーも熱くなっているのか罵声も飛ぶ中、蓮は想定外のタイミングでの攻撃を、足を広げて飛ぶことで回避した。

 ボールは風を切り、股の下を抜けていった。


「おおっ、飛んだ!」

「すげえ!」

「一回戦の(ひいらぎ)さんみたい!」

「確かに!」

「あの二人、仲良いし真似したんじゃない⁉︎」

「ありそう!」


 ギャラリーが盛り上がる中、蓮は揺さぶられながらも決めにきた一球をしっかりとキャッチした。


(蒼空は——)


 蓮が蒼空の姿を探してパスしようとすると、


「蓮、いけ!」


 当の本人の蒼空から、そんな声がかかった。


「黒鉄君、いけぇ!」

「やっちゃえ!」

「いけるよ!」


 心愛(ここあ)夏海(なつみ)亜里沙(ありさ)の応援を皮切りに、ギャラリーからも「一対一だ!」「頂上決戦!」と煽る声が続々と上がった。

 相手を見ると、やる気満々の表情だ。さすがの蓮も、闘志の炎がふつふつと燃え上がった。


 蓮の投げたボールを、相手は胸で抱えるようにキャッチすると、すかさず投げ返してきた。

 避けることはできたが——、


(逃げてても相手ボールのままだし、この空気感的に避ける場面じゃねえな)


 蓮は軽くジャンプしてボールをキャッチし、そのままステップを踏んで相手との距離を詰め、大きく振りかぶった。

 これを取られたらしょうがない——。

 そんなことを思いながら、全力で投げる。先程よりも、やや低めに。


「——あっ」


 しゃがみ込んだ相手の腕の中から、ポロッとボールがこぼれ落ちた。

 その瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った。


 一瞬の静寂の後、観客席から爆発的な歓声が巻き起こった。


「よっしゃあ!」

「ドッジボール、優勝だ!」

「運動神経お化けコンビ、強すぎる!」


 心愛、夏海、亜里沙、亜美、莉央が、一目散に蓮に駆け寄ってくる。


「黒鉄君、すごかったよ〜!」

「最後の一対一、めっちゃ燃えた!」

「ね! まさに頂上決戦だったねー!」


 心愛と夏海、亜里沙が次々と感想を述べる。


「黒鉄、マジで格好良かったよ!」

「うん、すごかった」


 亜美はバシバシと、莉央は控えめに、それぞれ左右から二の腕を叩いてくる。


「みんな、ありがとな」


 蓮がお礼を言っていると、遅れて凛々華がゆったりと近づいてきた。


「まあ、その……おめでとう」

「おう、サンキュー」


 凛々華がこの調子なのはいつものことなので、蓮は何も気に留めなかったが、


「えー、柊。ちょっとテンション低くない?」

「こういうときはしっかり盛り上がるべきだと思うけど」


 亜美と莉央が、苦言とも取れる言葉を発した。

 空気が一瞬張り詰めるが、


「ま、私たちもこの後頑張らないとだしね〜。この勢いを借りて頑張ろう!」


 心愛が明るい声で拳を突き上げ、すぐに雰囲気は和らいだ。


「黒鉄君もまだバレーとバスケあるもんね!」

「大忙しだねぇ、運動神経お化けコンビは」


 夏海と亜里沙もすぐに心愛に乗っかり、話題は自然とその他の決勝戦についてのものに移行していった。

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皆様からの反響がとても励みになるので、是非是非よろしくお願いします!

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