第67話 球技大会① —陽キャの幼馴染とうなずき合った—
球技大会の開幕戦となる一年生の最初の試合は、バレーボールだった。
蓮たちのクラスが最初の試合に割り当てられていた。
「……よしっ」
蓮は押し切られる形で出場することになったものの、やるからには楽しもうと気合いを入れた。
「みんな頑張れ!」
「景気付け頼むぞー!」
「暴れろよ、運動神経お化けコンビ!」
観客席のクラスメイトからの応援の中には、蓮と蒼空に対するものも混じっていた。
(バスケならともかく、バレーじゃ俺はただの脇役だけどな)
蓮は苦笑した。
周囲を見回すと、凛々華の姿が目に入る。その隣には心愛をはじめ、亜美、莉央、夏海、亜里沙の姿もあった。
最近の凛々華は、クラス内で以前よりも柔らかい表情を見せることが増え、心愛以外の面々と一緒にいることも多くなった。
特に、夏海と亜里沙とは、彼女たちの謝罪以降、自然と行動をともにするようになっている。
普段は亜美と莉央と一緒にいる心愛もたまにそこに混じっていて、蓮たちの次に行われる女子バレーでも、凛々華、心愛、夏海、亜里沙の四人はチームメイトで、昼休みに一緒に練習したりもしていた。
「——蓮!」
呼ばれて振り返ると、蒼空が楽しみで仕方ないといった笑顔で拳を突き出していた。
「やってやろーぜ!」
「おう!」
蓮も拳をぶつけ、ニヤリと笑った。
「ナイス、内藤!」
「やっぱりバレー部はすげえなぁ!」
いきなりバレー部の内藤が強烈なサービスエースを決め、流れを掴んだ蓮たちは、順調に得点を重ねていった。
相手に一点を返された後は、蒼空のサーブだ。
——バチン!
強烈な音と共に放たれたボールは、綺麗な弧を描いて相手コートへ突き刺さる。
「やったー!」
「サービスエースだよ⁉︎」
「すげえ!」
「キャー!」
「青柳君、格好いい!」
特に女子から歓声が上がる。結菜が満面の笑みを浮かべながら、楽しそうに拍手をするのが目に入った。
十対四となったところで、蓮がサーブの順番を迎えた。
ボールを軽く回してからトスを上げ、放り投げるような動作でサーブを打つ。
ネットのスレスレを通ったボールは相手のレシーブを乱し、蓮たちの得点になった。
「威力つよっ!」
「青柳もすごかったけど、あいつもすげえ!」
「青柳君ってバスケ部のエースだよね? もう一人の人は?」
「帰宅部だけど、バスケ部よりバスケ上手いらしいぞ!」
「青柳よりも? マジかよ!」
「それはさすがに盛りすぎじゃない?」
「いや、動画も出回ってたぞ!」
(いや、一対一でギリ勝っただけなんだが……)
蓮は観客の中から漏れ聞こえてきた言葉に苦笑した。
内藤の強烈なスパイクがコートに突き刺さり、十四対六とマッチポイントを迎えた。時間短縮のため、一セット十五点先取だ。
サーバーは英一。空中に勢いよく放り投げてサーブを試みるも、ボールは無情にもネットに直撃した。
「「「あぁ……」」」
ため息混じりの空気が流れた。「格好つけないで下から打てばいいのに」という声も聞こえてくる中、蒼空がパンパンと軽く手を打ち鳴らした。
「ドンマイ!」
「マッチポイントだし、落ち着いて一点取ろうぜ!」
蒼空の明るい声かけに内藤も続き、重くなりかけた雰囲気が一気に和らいだ。
そのまま試合に勝利すると、蓮と蒼空はクラスメイトたちから「さすがは運動神経お化けコンビだぜ!」「二人とも、すごかったよ!」とはやし立てられた。
「おう、勝ったぞ!」
蒼空はすっかりその呼び名を受け入れていた。なんなら少し嬉しそうだったため、蓮も否定しなくなった。
あきらめたというほうが、彼の心情的には正しいかもしれないが。
すると蒼空が、急に何かに気づいたように、ハッと息を呑んだ。
「ちょっと待て。運動神経同じくらいで、勉強は圧倒的な差って、俺めっちゃ負けてね?」
蓮は肩をすくめた。
「安心しろ。俺にお前みたいなリーダー性と、周囲を明るくする快活さはないからな」
「おっ、褒めてくれてんのか? サンキュー!」
蒼空はニカッと歯を見せて笑い、照れくさそうに鼻を掻いた。
「お、おう」
いつもは賛辞を口にしても澄ましてみせるか反発する人物と一緒にいるためか、蓮は素直に喜ぶ蒼空に若干のやりづらさを感じた。
(柊もこれぐらい素直だったら——いや、それはもはや柊じゃないか)
そんなことを思いながら、蓮が何気なく凛々華へと視線を向けると——。
バッチリと目が合った。
「っ……」
思わず視線を逸らす。
その瞬間、じっとりとした視線を感じた。
「なんとなく、失礼なことを考えていたのはわかるわ」
凛々華の冷静な指摘に、蓮はたじろぐ。
「そ、そんなことねえって」
「あはは、まさに以心伝心だね〜」
二人のやり取りを見ていた心愛が、楽しそうに笑った。
「「っ……!」」
蓮と凛々華は揃って赤面した。
しかし、すぐに亜美が「次ウチらの番だよ。行こう!」と声をかけたため、試合に出場する生徒も、他の生徒たちも行動を開始した。
「それでは続いて——」
体育祭実行委員も声を張り上げ、移動を促す。
スケジュールはキツキツのため、試合後に雑談をしている暇はあまりないのだ。
「頑張れよー!」
蒼空が女子に気負いなく声をかける。
こういうところも、蓮には真似できないところだ。
蓮はふと、凛々華が振り返るのに気づいた。
(頑張れ)
そう言うように、小さくうなずく。
「っ……」
凛々華は一瞬、目を見開いた後——。
同じく、少しだけ顎を引いて、それから背を向けた。
女子バレーの試合が始まり、体育館の熱気はさらに高まった。
蓮はコートの端で試合を見守りながら、自然と凛々華の動きを目で追っていた。
相手の下からのサーブを、バレー部の女子が落ち着いて心愛にレシーブする。
「凛々華ちゃん!」
心愛がトスをしたボールに合わせて凛々華が飛び上がり、鋭いスパイクを叩き込んだ。
「っしゃあ!」
「キャー!」
「柊さん、格好いいー!」
男子からの歓声も上がったが、それ以上に女子の黄色い声が飛び交う。
凛々華は一部の女子から憧れの的になっているようだ。男子が女子のプレーにはしゃぐのを恥ずかしがっているため声が小さい、という側面もあるのだろうが。
(名は体を表すじゃねえけど……マジで凛々しいな)
冷静で落ち着いた雰囲気をまといながら、流麗な紫髪を揺らしてコートの中で躍動する凛々華。
その姿に、蓮はほんの一瞬見惚れてしまった。
「……ん?」
だが、次の瞬間、違う方向から男子たちのざわついた声が聞こえてきた。
「初音、やべえな……」
「あぁ、あれはすげえ……」
「レシーブとかトスなんてしなくていいから、もっと飛んでくんねえかな……」
心愛がボールに触るたびに、男子たちの邪念ダダ漏れのつぶやきが飛び交っている。
その豊満な胸が弾むたび、彼らの視線がそちらに吸い寄せられているのが、蓮にもはっきりとわかった。
(……まあ、そうなるよな)
蓮でさえ、ふとした瞬間に目がいってしまうことはあった。凛々華もおそらく平均以上のものを持ち合わせているが、心愛のそれは別次元だ。
きっと男子にジロジロ見られるのはいい気分がしないだろうから、なるべく見ないようにはしているが。
「つーか、なんでみんなシャツインしてんだよ……」
「お前みたいなやつがいるからだろ」
「なんだよお前。腹チラ見たくねえのか?」
「見たいに決まってんだろ」
「だよなぁ」
(くだらないと言えばいいのか、欲望に忠実と言えばいいのか……)
かすかに聞こえてくる会話に、蓮は肩をすくめた。
(初音に他校の彼氏いるって知れ渡ったら、結構な男子がダメージ受けそうだな)
彼らが膝から崩れ落ちる姿を想像して、蓮は密かに苦笑を漏らした。
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