大好きな映画の中に転生したら、5分後に密室で殺される主人公だった件。
なろうラジオ大賞3参加作品。
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はっと気づけば、レトロな部屋の中だった。
壁にかかった、柱時計と鏡。机の上にはカセットテープとアロマポット。マッチもあるな。
窓はオーパーツのレプリカが並んだ棚で塞がり、扉には鍵がかかっている。いわゆる、密室だ。
…… そして、ここは。
俺が大好きなサイコロジカル・ホラー映画 『鏡海の雪遊び』 の舞台じゃないか。
映画の内容はこうだ。
密室で殺された高校生が、鏡の中の世界に転生。だがそこでは、転生者たちによる無慈悲なデスゲームが行われていた。
生き延びた者には、元の世界での蘇生と、サッカーでいえば毎試合ハットトリックを決められるほどの成功が約束されている。
それを狙って繰り広げられる、仁義なき闘い…… だがその一方、勝手が違う鏡の世界で右往左往する様子は超絶笑える。
緩急のバランスが神な名作だ。
影響されて映画の撮影助手になったほど、好き。
それにしても、なぜここに来てしまったのか……。
思い当たりはある。
1週間の出張明け、帰宅してこの映画を見ながら俺は、出張前のお味噌汁の残りを飲みお菓子を食べて眠ったのだ。
起きてみたら、映画の中だった。鏡に映る俺は、主人公の姿だ。
汁、腐ってたのか。まじウケる。
さて。
俺はこれから殺される運命だ…… って、それ怖いよ!
食中毒で1回死んでても怖い。
だが、殺られなきゃ話が始まらぬ…… そうだ!
犯人を返り討ちにし、俺の代わりに転生デスゲームしてもらえばいいよね!
犯人の正体は、プロローグでなにげに交差点の鏡に映っていたサーファースタイルの雪だるま。実はデスゲームの主催者で鏡の海を自在に渡れる。
そして、鏡から不意に現れターゲットをゲームに招待するのだ。
よし、消そう。
ボーン、ボーン
時計が鳴った。映画のとおりなら、5分後に俺は殺される。
急いで使えそうな物を探す。
カセットテープから黒いテープをつまんで引き抜く。伸ばせば 50mはあるな。これで鏡を包んでみるか。
必死で作業を終えたところで 5分が経った。
もうじき、雪だるまが俺を殺しに現れる……
ゴトリ。
鏡が不気味に揺れた。来たぞ。
俺はマッチを擦り、鏡を包んだテープに火をつけた。
一瞬で、燃え上がる。
雪だるまは、炎に包まれ消えていった。
その後、俺はこの世界で平和に楽しく暮らしている。イケメン主人公転生万歳。
そしてある冬の日。
所用で例の交差点前を通った俺は、見た。
そこに、サーフボードを持ちロ◯ックスの腕時計をつけた雪だるまが、ひっそり立っているのを。




