オマケ・愛を乞うのか捧ぐのか……は誰次第?・3〜ブレングルス視点〜
遅くなりました……
ブレングルス視点最後です。
披露パーティー終了後。
メルラの美しさに案の定招待客が皆見惚れた。あれ程メルラが野暮ったいと笑った令嬢も令息も、表面上はメルラが『レーメ・ルーレラ』である事に擦り寄って来ながら内心では『たかが伯爵令嬢』とバカにしていた紳士・淑女も。
明るい色のドレスを身にまとい俺の隣に立っているだけなのに、招待客の独身者達の口惜しそうな顔はメルラの価値にようやく気付いたというところか。だが、まぁ今更遅い。そういった意味ではリクナルドにしてもレオナルドとマクシムにしてもメルラの良さを理解出来ていた所は評価出来る。
他国の王族や外交官にも大陸共通語か相手国の言語で流暢に挨拶をするメルラと、視線がかち合う度に俺の頬が弛んで目に熱が篭る事は自覚している。それに嫉妬している者もいるようだが概ね好意的だ。
そうしてリクナルドとレオナルドとマクシムが現れた。マクシムもまだ男爵令息だから招待したのだが、3人を招待した時はメルラの事を俺は何とも思っていなかったから。3人に対しても何にも思っていなかった。しかし自覚した以上3人には牽制しておかなくてはならない。メルラの腰に回した手を更に強く引き寄せその額に口付けを贈れば、メルラが驚いた顔を見せる。だが3人には充分牽制になったようで、俺に嫉妬に塗れた視線を寄越した。……まぁ今日は甘んじて受けておこう。
***
披露パーティーが無事に終わり城の俺とメルラに与えられた部屋に入る。着替えた俺とメルラは侍女に注いでもらったお茶でゆっくりと一息ついた。侍女を下がらせ俺はメルラの肩を抱いてその顔を覗き込む。
「レン様?」
「メルラ。ずっと考えていたんだ。君が作家である事を公表したこと」
「まぁ。これで10回目ですわね」
クスクスと笑い声をあげながらメルラは俺の視線から目を逸らさない。
「ああ。今日を最後にもう尋ねない事にしようと思っている。メルラは俺のためだ、と言っていた。最初は俺との結婚を取り止めたいのかと思っていたが違うという。しかしそれだと公表する意味が分からない。メルラはあれほど目立ちたくなかったはずなのだから」
「……はい」
「何度尋ねても俺のためとしか答えないから、もしや俺が稼げなくなった時の事を考えて公表したのか、とも思った。それなら王弟の妻が働いている事にとやかく言う者を黙らせる事が出来る。尤もメルラが働いている姿など人に見せる気は無いが、何処から情報が漏れるか分からない上に中途半端なものでは俺の立場にも関わる。だから先に公表したのか、と思った」
「そう、ですね。そう考えなかったわけでもないです」
「だが、違う。そうだろう?」
俺の目をメルラは受け止めてハッと息を呑んだ。
「理解されてしまわれたのですね。さすが“聡明な王弟殿下”ですわ」
メルラが微苦笑した。聡明なのはメルラの方だ。俺の目だけで俺が何を悟ったのか分かったのだから。
「……全ては、俺のため。俺が愛する女性を見つけてメルラが身を引く時、それでも俺がメルラに罪悪感を覚えないため、だな?」
確認をすればメルラがニコリと微笑んだ。愛らしい微笑みに今度は俺が微苦笑する。
メルラはずっと俺のために公表した、と言っていた。メルラは俺の元の婚約者達の件から俺が愛する人を見つける事に焦がれている事を憶えていた。
だからニコル君の墓に報告した時に、俺に愛する人が現れた時は身を引く、と宣言した。メルラが『レーメ・ルーレラ』である事を公表したのもそのため。
ーー本当に俺のためだった。
いくらメルラと俺の中で、俺に愛する人が現れた場合はメルラが身を引く事を了承していても、世間的には俺がメルラを捨てた事になる。それはメルラの本意ではない。メルラは俺に幸せになって欲しいと思って身を引く娘だ。だが、俺が捨てたと思われるのも、メルラの後に俺の唯一になった相手が名誉を傷つけられるのも、メルラは居た堪れないのだろう。
だから。
メルラは自分から作家である事を公表し、俺と離婚したのは作家生活を送るのに王弟殿下の妻のままでは満足行く作品が書けないからだ、と思わせる下地を作った。
これならば俺にもメルラの後に俺の唯一になった相手にも最小の傷しか付かない。……これだけ俺のために行動してくれるメルラを、俺は心から愛しいと思った。
だが今は未だ言わない。少しずつ少しずつメルラを口説く事にしよう。何故なら俺の唯一はメルラだから。離婚など申し出るわけがない。後は俺とメルラの身に何も無ければ良いのだから。
きっとメルラの事だ。ニコル君を一途に思っているのは確かだが、それ以上に“好きになった相手がまた居なくなる”事に怯えているだろう。だから俺は、ブレングルスはメルラより14歳上だが共に老いていくことを誓おう。メルラが人を愛する事に怯えなくても良いように。
ーーブレングルスという人間は、どうやら愛を乞われるより愛を捧げたい男だったらしい。俺はメルラに俺自身を捧げよう。だからメルラ。いつか俺を愛してくれないだろうか。
そう願いながら俺はメルラに最初の愛を捧ぐ。
「メルラ。これから宜しく、俺の妻殿」
「こちらこそ宜しくお願いします、レン様」
メルラ。今の君はおそらく「殿下に愛する人が見つかるまでですが」とでも胸中で考えているだろう。だが俺の胸中は2人で老いる所までだから。君を手放すなんて有り得ないぞ。
以上、ブレングルス視点でした。
レン様は溺愛派。
慎重にメルラとの距離を縮めながらも毎日愛を捧げている人です。
この後、リクエストのあった2人の新婚生活編をお送りします。メルラ視点です。
早めにお届け出来ると良いのですが……。




