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なんでもアリな闇鍋ゲームで詰んでる俺は脇役兼死体役イコール被害者な件(仮)  作者: 来樹
1章 ようこそ、聖アールグレイ学園へ!
20/30

18

短い。


 『聖アールグレイ学園』とは、恋愛シュミレーションゲーム、所謂(いわゆる)乙女ゲームだ。


 学園生活の中で、複数の攻略対象と関わり、イベントを経て恋人関係になる過程を楽しむゲーム。夢見がちな恋愛観を持つ人間なら、誰しもが憧れるであろうシュチュエーションと、複数のハイスペックなイケメンにお姫様のように大切にされ求愛される世界。そんな夢のような世界で、仮想恋愛を体験するゲーム。それが、俺が転生した世界、『聖アールグレイ学園』だ。

 プレイヤーたる主人公(ヒロイン)は、天使の輪が綺麗に出た薄紅色のショートボブに、くるくるとした緑色の目が愛らしい美少女―――四季(しき)(れん)()。孤児院出身で、彼女の両親の知り合いだという理事長から薦められて特待生枠でこの学園に入学。そして、桜舞い散る入学式で、桜の樹の下で眠っていた攻略対象(メインヒーロー)(すめらぎ)(こう)()との出逢いを切っ掛けに、そこから複数の攻略対象(イケメン)とじれじれの恋愛模様を繰り広げるという王道学園シンデレラストーリー。取り敢えず、当時の俺がプレイしたゲームのあらすじはこんなだった。アニメ化、ドラマ化、映画化した時も特に変更点もなく、イケメンに言い寄られるどっきどきな学園生活を送り、最終的には御曹司と恋愛結婚をするという玉の輿モノ。そんな、日常系の概ね平和な乙女ゲームに、よもや俺の死亡イベント以外の予想外なトンデモ設定があるだなんて知らなかった。つか、知りたくなかった。


 呪い、だなんて。


 なんのこっちゃ。おい、ラブ&ピースな、ゆるふわ乙女ゲーム(笑)設定ドコ行った。戻って来い。

 そんな超常的な設定アリかよ。

 俺の死亡フラグがそんな不可視で非科学的な分野まで開拓しちゃっていて、なんつーかもう、ニューフロンティア精神ぱねえッス。

 「……………」

 気の所為か、巻き込まれイベント回避が不可能な気がしてきたんだが。

 頑固な油汚れじみた死亡フラグに、俺は暫し思考を放棄した。

 ある意味センチメンタルジャーニー。

 


 原罪、あ、変換ミスった、現在の方な。

 俺は只今自室に籠っております。

 メインヒーロー様から衝撃の「お前は呪われている」発言を頂いて、何だか某北斗の方から「既に死んでいる」発言に聞こえて暫く魂飛ばしていた俺。見るに見かねたのか、それとも話が進まない事に面倒になったのか、未来の生徒会長様は俺を無理矢理正気に返らせると、自室へ戻るように指示したのだ。

 そういや、選択肢やるとか言っといて、結局あの野郎何も教えてくれなかったのだが。

 そもそも、突拍子もない「呪い」発言についても、根拠とか経緯も何の説明すらされていない。そこでいきなり生き延びる為の選択肢を与えると言われて、何故簡単に信じて奴の言葉一つで早々に自室へと戻ったのか。そこは膝を詰めてきりきり洗いざらい吐かせるところだろう。とは言え、今更そう思ったところで、既に俺は仮初めの住まいである一人部屋に戻っているし、奴は奴で己の自室へ戻っているのだろう。多分。

 ……あいつの「呪い」云々をそのまま鵜呑みにしてしまったのも、早々に自室へ戻された巧みな話術にしても、本当は全部あいつの瞳が嘘を言っているものじゃなかったからっていうのもあるし、血のような紅の双眸がひどく静かにこちらを見ていてショックで呆けていた俺がそれ以上口を動かす気にもなれなかったっていう理由もあるけれど。

 事態は何一つ進展してないし、何も問題が解決していない。寧ろ、死亡フラグが更に強固になり、進展どころか後退すらしている気がする。

 おい、信じられるか?これでまだ、入学してから二日目という最高にヘビーで濃い一日がまだ終わっちゃいねえんだぜ?

 ハハハハハ、と渇いた笑い声をたて、がっくりと肩を落として枕に顔を押し付ける。

 嗚呼、体が重い。頭が痛い。

 何もする気が起きない。

 やるべき事も、考えるべき事も、富士山並みにある筈なのに、未だ一合目も登れていない体たらく。寧ろ、富士山周辺のおどろおどろしい樹海でへっぴり腰になっている気分だ。

 制服のままベッドに倒れ込んだ俺は、あれから二時間以上も経つというのに、なんの行動も起こせていないままだった。文字通り、倒れ込んだままで。

 「あー、あー……」

 おかしい。

 俯せに顔を押し付けた枕から顔を上げ、丸くなるように横に体勢を変える。頬をくすぐる長い髪とスース―する足が直にシーツを滑り、その肌触りに眉が寄る。

 「俺」の記憶が戻って、まだ二日。

 昨日の時点で、俺が下らない痴情の縺れに巻き込まれて死んでしまう事に気付いた。その時も、得も言われぬ怒りだとか絶望感だとかに襲われはしたがすぐに持ち前のポジティブさで乗り切った筈だった。ほぼ確定している未来に、いつまでもうじうじしている暇なんてないし、そんなしみったれた事をしている時間があるなら、そんな悲惨な未来を回避する打開策なり何なりを探したり考えたりした方がよっぽどマシだったから。元々、前世でも次から次へと何かしらの問題に巻き込まれていたタチだったから、ツッコミ精神で何のそのとやってきた。やってられっかバーローと罵りながら、時には卑怯な手段を平然と取ったりして。潰されない為に。馬鹿にされないように。見返してやると。だから、逆境には慣れっこの筈だった。

 それなのに。

 あいつが――(すめらぎ)(こう)()が、「呪われている」と断じただけで、いとも簡単に俺の中であった芯が瓦解した。奴が本気で本当の事を言っているのだと悟った瞬間に、頭が真っ白になって、息も(ろく)にできなかった。あの時、あの瞬間、確かに息が止まっていたのだと思う。

 (ごう)(がん)不遜(ふそん)とも言うべき奴が浮かべた笑みと「未来の選択肢をやろう」という言葉に、俺は初めてまともにあいつ自身を見て、あいつの言葉を受け取った。目も、思考も、一挙手一投足すら奴から逸らせずにいた。それは―――己の行動理念も、未来も、自分が決めて自分が選ぶ生き方をしてきたこの俺が、そこで初めて俺の未来がこいつ次第でどうとでも転がるのだと悟ってしまった屈辱の瞬間だった。

 湧き上がるべき怒りも、悲嘆すべき哀も、示される未来への選択肢に安堵もできず。

 ただ、無気力に寝台に転がる有機物の塊。

 

 ―――違う。


 「っつ!!」

 不意に、この世界は「俺」の世界じゃないと思い出して血の気が引いた。

 だって、この世界では、有機物の筈の「私」も無機物にすぎないのだ。「私」だけではない、きっとこの世界の誰も彼もが同じ無機物。プログラムされた世界の演算された人形でゲームの駒。天網(てんもう)のように、その未来は予め編まれている。それは、いくつもパターン化され、決められているシナリオ通りのものしかない。……機械仕掛けの人形は、ただの無機物でしかないのだから。


 『呪われている』だって?


 嗚呼そうさ、これが呪いじゃなけりゃあ、プログラムされたシナリオを進行する上での補正効果にすぎない。

 逃げられない、修正力。それを「呪い」というならそれは正しい。

 「…かえりたい」

 そもそも、「俺」はどうして、ここにいる?

 俺は死んだのか?何故?いつ、どうやって?

 死んでいたのだとしても、死んでいないにしても、どちらにせよ「俺」がここにいる理由にはならない。だって、此処は現実(リアル)じゃない。虚構の世界の筈だから。

 普通ならば、夢オチを真っ先に疑うのだろうけれど、俺は昨日の時点で一度気を失って倒れている。その時に、戻るならば兎も角、一日以上経った今もこうやってこの世界に留まっているし、廊下での不幸な事故で何度も痛い目にあっている事から、やっぱり夢オチの可能性がないようにも思う。思うのだけれども。

 この世界が夢ならば良いと願ってしまう。

 そうすれば、あの男の言も、鼻で(わら)って(かわ)してしまえるのに。

 虚言だ、妄言だと、そう言って一蹴(いっしゅう)してしまえるのに。

 

 「       」


 パクパクと、言葉にならない言葉を漏らす。音にしないその言葉を唇で(かたど)って、重い瞼を閉じた。

 目を閉じて、醒めたら、その世界が「俺」の世界でありますようにと願って。













 「――か…り……つ」


 「――仮…名……葉」


 「――仮名四葉」








 呼ぶな。それは、「俺」の名前じゃない。


 俺は、俺の名前は――――…。








 「       」

 












To be continued…?





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