17
コメントありがとうございます!
コミュニケーションとは、要するに、言葉のキャッチボールとある人が言った。
なんでもかんでも、野球で例えるのはただの脳筋じゃね?とか、そっか脳筋に説明する為の敢えての比喩表現か?とか、性格がかなり捻くれた俺は、そんな風に思う所は色々あるけれど。兎に角、コミュニケーションとは分かり易く言えば、言葉という球の投げ合いで、それをきゃっきゃっと受け取り合うキャッチボールなのだ。うん、確かにニュアンス的には何も間違っちゃいない。
ただ。まあ、そのだな。
キャッチボールの筈のソレが、片方がいきなりバット持ち出して場外ホームランとかしちゃダメなのね。もしくは、投げられた球をキャッチすらせずにさっと避けちゃアカンのよ。
……まあ、俺は体育の授業で、カースト上位のヲタクを馬鹿にする系の奴等と同じチームになった時、思いっきりソレしたけどね。常日頃、こっちをからかってくるような嫌な奴等だったし、勝負系にきゃんきゃん煩い奴等だった事もあって、正直インドアな俺は面倒だった。チーム内につるんでる友達いないし、ミスったら盛大に非難してくるような協調性のない奴らに、何故痛い思いまでして(因みにバレーな)動かなきゃならん、というのが俺の考えだった。協力する気は最初から毛頭なかったし、中ると地味に痛いから、俺は敵チームからのボールが陣地内に飛んできても、棒立ちでボールを取りに行く素振りもせず。また、俺の頭目掛けて飛んできたボールをすいっと避けてまた同じ場所に立ち続け……。一度や二度なら誤魔化せても、いじめかって頻度で俺の方へ飛んでくるボールを、すいすいやる気なく避けてたら流石にわざとだってバレてやっぱり非難轟轟だったけど、まあどっちにせよこっちがミスってもフォローじゃなく野次が飛んできたんだろう事を思えば、俺が無駄に動く必要性はないという結論に至る訳で。それに、回ってくるサーブで、チームのポイントに貢献しまくったからチャラだろうと思う。インドアなので、飛距離のないへろへろサーブは、敵チームの網ギリギリに落っこちる。勿論、そんなギリギリのところで落ちる下手くそなサーブに、虚を突かれた敵チームが即座にボールを打ち上げる対応がなく。あと、ボールも本人すら予測できない方向にぶっ飛ぶからな。後ろとかな。うん。
前世でやった物理的なボールの受け取り合いの悪意あるスルーは、ある意味コミュニケーションの放棄の具体例とも言えよう。我ながら例えがクズだが。
最初から、相手の対応を決めつけ、尚且つ意思疎通を放棄。あの時の俺は、何度飛んでくるボールをすいすい避けたことだろうか。あれは投げてる方はポイント稼ぎ(何故なら絶対ボールを拾いに来ない俺の方角だった)もあっただろうけれど、コミュニケーション論的にはアウトだ。ゲームとしては、全く進行しないし、観客から見たらクソみたいな試合である。ただただ自動的に敵チームに点数が加算され、受け取ろうとする素振りも見せない俺に周りの人間からの心証が悪くなる一方の悪循環。
コミュニケーションを放棄した人間に待つのは、コミュニティからの追放だ。昔懐かし、村八分とかそこらへんな。それが、所謂コミュ障と称される人間だとしても例外は一部を除いてない。そこに差別はあっても区別はないのだ。
まあ、カースト上位者から元々下されていた俺の場合は、完全なる自業自得の極みだが。
そんな、一般的な恥ずかしがり屋とか口下手なコミュ障とは違う筈の、オレ様枠メインヒーロー様が、何故こうも話が通じないのか。
今世の俺の自戒、目立たず騒がず口答えせずは、天然なのかオレ様超理論なのか、不思議思考回路を持つ攻略対象の前ではあっさりと砕け散ってしまった。
色々キャパオーバーでストレスの限界値が突破していた俺は、ついつい近い距離に腹パンした辺りから、それはもう怒涛の勢いで当初のお約束事を頭の中からスポーンと抜け出てしまったようだった。思わず内心で、この間抜けめと呟く。男子たる者、このくらいの逆境なんのその。気を強く持つんだ俺!今の体は立派な女の子だけどな!
放課後、人気の絶えた教室棟の廊下の階段下の暗がり。
この学校は部活動もしくは委員会に属さないといけない決まりから、放課後になったこの時間帯、教室棟に未だ残っている生徒は殆どいないし、職員棟に引き籠っているだろう教師もまた然り。
そして、掃除は全て業者がやっている、掃除の時間もないこの学校では、こんな廊下の片隅にひっそりとある階段下なんかに誰も近付かない。
とはいえ、確率的に誰かが通り過ぎるという可能性は確かに低いが、ゼロではないのだ。
かれこれ、この場所に押し込まれてから15分以上は軽く経っている。これ以上の長居は無用である。あの皇煌夜に超至近距離で頭を押さえられている場面なんて目撃されようものなら、ただでさえお先真っ暗だった学園ライフが死ぬる。主に風評被害とか、女子の嫉妬とか、そこらへんね。男は兎も角、女は陰湿・陰悪・陰険だからね!女子トイレは魔の巣窟だぜ☆
「放せ」と言ったら「何故だ?」と疑問形で返しやがったイケメン野郎の、丁度イイ距離にあったその綺麗な顔面を変形する勢いで引っ叩いてやりたかった俺は、敢えてのコミュニケーションとは何たるか論を脳内会議する事で冷静さを保っていた。が。
そんな、折角の俺の血の滲むような努力を、オレ様枠の御仁が配慮する訳もなく。
「……答えないのか。まあ良い。そんな事よりも」
何やら至近距離でぶつぶつ言いだした生徒会長。いや、この近距離じゃ独り言じゃないからね?つか、思いっきり俺の抗議をスルーした上に、「そんな事」と宣いやがったな!些事じゃねえんだよ!人としても大事だからな!この距離一大事!!
「仮名四葉。もう一度言うが、お前は呪われているな」
そんなリピートいらねえ!
「一般枠の外部生徒だし、最初はただそういう性質だと思っていたが………。呪われているなら、納得が行く。お前の奇矯な動きは呪われているからこそだったんだな」
「…………」
うん。もうボク、どこからツッコミ入れるべきか分かんないや!
性質って何?奇矯な動きって何?
それって、つまり、俺の挙動が素で変だって言いたかったってコト?!
意味不明な呪いのせいにしてまで?!そんな真顔で聞いちゃうくらいに変?変だったの?
思わず、瞬間湯沸し機よろしく怒りと羞恥で目ん玉を回しそうになるぐらいのパニックに陥りそうになるが、淡い香りが鼻を掠めて我に返る。んな事よりも先に是正すべき案件あったわ!ぐらつきそうになる気力を保ち、能面の表情で瞳だけはきっと眼光鋭くすると、奴の方へ傾いていたさっと体勢を立て直し、未だに後頭部と頬に回されていた両手にそれぞれ手刀を振り落す勢いで豪快に放った。
「なっつ?!」
会心の一撃が決まった所で、その場から飛び退こうとして後ろにあった壁に背中がぶつかる。そういや俺、さっきまで壁ドンされてましたね。すぐ後ろに壁あって当然でした。うん、阿呆とは俺のコトです。
「うう…」
やっぱ奇矯って言われても仕方ないかもとかそんな考えが過り、壁にぶつかった痛みもあって、俺ってば涙目。でもイケメン野郎に気付かれたくなくて堪える。男の子は簡単に泣いちゃいけないんだぜ!
手を押さえて痛みを堪える生徒会長に、俺はざまあと思いながら涙目になったのを隠していた顔を上げる。
「……呪いとか、奇矯な行動とか、意味が分からないんですけど」
喧嘩売っているならお買い上げするぜこの野郎。
内心物騒に罵るが、相手は色んな意味で格差があるカースト上位者筆頭でこの世界の準主人公枠の人間。正直に色々ぶっちゃけすぎるのもアウトだし、尚且つ彼ら乙女ゲーム組に興味関心を持たれるのもある意味アウトであるから、言動には気を付けるべきだろう。昨日今日で、メインヒーローに目を付けられ、こうやって階段下に押し込まれている時点で色々手遅れ感が半端ないけどな。あと、さっきから暴力を振るっているけれど。まあ、正当防衛ってコトにして欲しい。俺ってば短気だからさ、細かいことには目を瞑りやがれこの野郎!っていう持論です。つか、ストレス発散ぐらいさせてくれ。……でも、やっぱり攻略対象者殴るのはダメだったかなあ。
嗚呼、矛盾ばっかり。堪え性が無さ過ぎて自己嫌悪だわ。自分で自分の首締めるようなもんだもんな。
「君は一体、何がしたいんですか」
取り敢えず、この場で最も肝心であろうコトを述べるけれど、ぐちゃぐちゃな思考回路で感情の上下変化が激しすぎて、声に力はあまり入らなかった。もう、いい加減この意味不明な状況、疲れたわ。
「…………」
さっきまでは要らん事をぺらぺら喋っていた黒髪のイケメンは、沈黙している。手刀を落してやった手首を庇うように痛みを堪えていた表情を今は掻き消して、こちらを観察するように見ているのに気が付いて、俺は唇を引き結ぶ。
こいつらの前で情緒不安定なんて、なにやってんだ、俺。付けこまれる隙を突かれたら終わりなのだから、この時こそ気を張らないといけないっていうのに。
すると、俺を暫し見ていた生徒会長は、一度瞼を閉じて溜息のような呼気を零し、その赤い双眸を瞼から覗かせた。
「仮名四葉」
どこか、呆れた声音で同級生である男が言葉を紡ぐ。
「信じるか、信じないかは、別にどうでも良い」
別にどうでも良いなら、「呪い」とか「奇矯」とか死語に近い単語を敢えて使ってビビらせてんじゃねえよ、この野郎。
「俺も、そこまで拘っていないし………現状不便でも不都合でもないからな」
呟くように言葉尻を濁らせた男に、眉を寄せる。やっぱりこいつが何を言いたいのかが分からないんだが、俺の読解力が低すぎるとかじゃないよな?つか、そもそも説明になってない。
「だから、私は『呪い』とか「いいから、最後まで聴け」
埒のあかない言動に、苛々して話を進めようとしたら、ぴしゃりと言葉を遮られる。
生徒会長は一旦俺から視線を逸らし、片手で前髪を掻き上げる。その仕草が様になっているのを見て、益々眉根が寄る。
「その、呪い………解かずにいれば、すぐに死ぬぞ」
「!」
あまりに表情がない声音で紡がれた言葉に目を瞠る。だけど、再びこちらを見る瞳は鋭く、その言葉がただのからかいに聞こえなくて、いつもならそんな戯言速攻否定する俺ですら咄嗟に言葉が出て来ず、息を呑みこむ。
「……………」
「呪いで、死のうが生きようがどうでも良いが………もし、俺の言葉を信じるなら、お前の未来に選択肢をやろう」
――どうする?
そこで初めて口元を吊り上げて愉しげな笑みを浮かべた男に、俺は瞳も意識も逸らせずただ固まってその場に座り込んでいた。
To be continued…?
…生徒会長の「呪い」云々まで書ききれなかった。。
追々種明かしします。
明日も早朝から仕事あるので、ちまちま合間を縫って……書けたらいいなあ。。




