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めとめが~あう~しゅんか~ん~
脳内で思わず某恋に落ちちゃう曲が全編平仮名でお送りされた。が、恋には落ちないからな、勿論。BGMの選曲なら、火曜サスペンスのあのドロドロした曲だと思う。
「………」
この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りされました。次回の放送もお楽しみに(キラッ☆)
ついでに、脳内に音声付きでテロップが流れる。いや、流れんなよ。
え、これENDじゃね?次回なんて来ない感じじゃね?To be continuedしようにも、セーブかけてねえし。ちょ、冒険の書どこ?!セーブ掛けなきゃジ・エンド!俺の人生が!ジ・エンドオオオオォ!!!!!!
お き の ど く で す が 、
ぼ う け ん の しょ は き え て し ま い ま し た
ちょ、運営ぃいいい!!!!!!!!!!!!!
視界が赤文字ENDマークでちらつく幻覚が見えて、思わずくらっと眩暈を催す。
「「……………」」
因みに。ハイ。
脳内が只今絶賛混乱中ですが、変態神父と目と目が合ってる状態のままです。どうしてこうなった。
ぼんやりと目を向けているとかではなく、がっちりぴったりと野郎の目ん玉の標準が俺の目線と合っちゃっているので、気の所為とかじゃないっぽいです。ファン心理で、「きゃー!私の方見てる!!」とかじゃないです。「ぎゃー!化け物と目が合った!」の方が正しいです。ああ、目の錯覚なら良かったのに。
四季恋華とイベント真っ最中の筈の攻略対象との目線ががっちり合ってるんデスけど、え、コレって大丈夫なの?ゲームの進行的に大丈夫なの?ここでフリーズなんて、ゲームの展開上、なかったよね。……そもそも、俺モブだし、本来ならこの現場にいるのもアウトじゃね?
「……………」
どうしよう、コレ、ちょっともう一度やり直しできないかな。イベントの最初から。もうちょい上手いトコに隠れるからさ。え、ダメ?マジで?
思わず周囲を見渡して電源ボタンを探そうとしたけれど、哀しい事にこれは現実なのでそんなお手軽リセットボタンある訳もなく。ついでに、蛇に睨まれた蛙の如く動けないから、物理的にも無理だった。
「「……………」」
未だ、攻略対象との目と目が合ったまま、恐ろしい間を挟んで、奴は無表情だった顔を不快に歪ませた。
ちょ、ま、ゴキブリ出た時みたいな目つき止めてよね!俺、Gじゃないから!そんな、Gを見るかのような蔑んだ目止めて!ちょっと美形だからって、平凡地味女子には美形からそんな思いっきり蔑んだ目を向けられると精神的ダメージが高いのよ!そんな嗜好がある変態にはご褒美かもしれないけれど、健全で平凡な女子高生である俺にとってはただの拷問です。何が悲しくて顔面格差社会を縮図した美形に塵芥を見るかのような目で蔑まれにゃならんのだ。俺だって一応人間なんだ。傷付くぞ、コラ。
つか、今ので、イエメン……違った、イケメン野郎の視線の呪縛から解放された。やったね、逃げるボタンがメニューに追加されたよ!
俺はメニュー画面が可視化されるなら、躊躇なくBダッシュを連打した。ふ、元ゲーマーキングの俺にはお茶の子さいさいだぜ!
俺は今世の「私」が習得した忍者スキル(別名・私は空気です背景です地味の子定番スキル)で以て、すっと中二階の暗闇に乗じて柵越しに身を潜めていた陰から匍匐前進ならぬ匍匐後進で、戦略的撤退を敢行する。くそ、戦術的勝利などくれてやる!!
某ピカレスクロマンなヒーローよろしく、捨て台詞を心の中で大声で吐きながら、礼拝堂からささっと逃げ果せた私は、大仕事を熟した気分で帰路に着いた。
冷や汗を拭う仕草をしながら、既に後方へ遠くなった礼拝堂を見て、ふと思う。
そういや、あそこまでハイリスク・ハイリターンな真似しといて、得た収益ってなくね?寧ろイベントぶち壊した(?)可能性もあるし、攻略対象に顔を見られた危険性も加味したら、マイナスでしかなくね?
結局、主人公である四季恋華のイベント進捗状況も把握できなかったし……。
中二階は電灯も点けてなかったし、暗闇に潜んでいたから顔かたちまでははっきりと目撃はされていないだろうけれど、これで攻略対象に顔をばっちり覚えられていたらスリーアウトじゃね?
「どうしよう……」
俺、思いっきり、余計な真似を仕出かしたのやもしれぬ。
いや、でも、必要な事だったし!時代は情報社会だよ!情報の遅れは命取りだから!株価のレートは常に激動だから!
ぬおおおと、頭を抱えて膝を付きたくなるが、此処は学園の敷地内で、どこに人目があるのかもしれないし、防犯カメラも絶賛フル稼働中なのだ。これ以上の失態は演じられない。つか、礼拝堂侵入はカメラに映ってないと思うから大丈夫だろうけど、ここの学園のカメラの台数が未知数なんだよな。流石に更衣室とかトイレとか一部の廊下とかはセーフだけど、教室とかはカメラが設置されているし。ここが山奥の金持ち学校っていう理由もあるんだけど、生徒側の親御が金と権力に物言わせて色々きな臭い事に利用しているらしい事もあって、どこに防犯以外の監視カメラが隠されているのか油断も隙もないのだ。おちおち暮らしてらんねえよなあ。
因みに、俺がこの監視カメラの事情を知っているのは、定番のゲーム知識です。なんか苛めの証拠集めで攻略対象の一人がソレ使ってポイント稼ぎしていたんだよ。あれって、ストーカー予備軍じゃね?と男の俺は思わず画面越しにツッコんだのを覚えている。うん、他の攻略対象もそうだけど、奴には特に近寄らないでおこう。
女子寮へ急ぐ俺は、後方の礼拝堂からイヤな現実から逃げるように視線を逸らした矢先に、何の因果か、もう一人の攻略対象を発見してしまい、思わず手でポンと掌を打ってしまう。
そういや、変態神父のイベントと同時に他の攻略対象のイベントがあって、どっちかを選択するメニューがあったな!
って、呑気にそんな些末な情報を思い出してる場合じゃねえわ。
俺は、一瞬呆けた顔を引き締めて、忍者スキル以下略で以て、道の途中にあった木陰に身を隠した。そっと、木の陰から前方の木の根元で眠っている攻略対象を窺う。
様子を見るに、眠っているらしい。良かった、取り敢えず、俺の存在には気付かれなかったらしい。ほっと安堵の息が漏れてしまうのは、多分恐らく先程の変態神父のイベントで見つかってしまったショックが尾を引いているのであろう。まあ、木陰からイケメンを見ている様は、まるっきり恋に浮かれた根暗女かストーカーにしか見えないけどな!ここでも、不審者再びって、オイ。こんなの、誰かに見られたら弁解の余地ねえよなあ。今度こそフラグを回避すべく、俺は前方の獲物から視線を逸らして、周囲を注意深く見回す。誰かこっち見てる奴いないよな?近くに建物とかないし、木とかで死角になってる筈だし、外に出て近くに居る奴じゃないと、こんな現場を目撃して居る奴なんていない筈。
結果、ゲーム補正でもかかっているのか都合良くも周囲に誰も人がいないようだった。
まあ、イベントの都合上、他の誰かと遭遇なんてプチパニックなかったしな。あったら、あったで、それが攻略対象に想いを寄せる女子生徒なら修羅場だし、そうじゃなくても、学園の人気者と親密そうにしている少女がいるなんて場面目撃されたらゴシップとして噂されてそっちも大事だ。俺の巻き込まれイベントが唯一の大事だし、このゲームの設定が平和なラブコメだしなあ。ご都合主義ってやつ?けっ、人生においてあるべき山あり谷ありが、奴等乙女ゲーム組に起きないなんて人生舐めてんじゃねえのとしか思えてならない。こんな、都合の良い展開なんてねーよとか、少女漫画の見すぎだろとか、砂糖を吐きそうなセリフを平気で囁く攻略対象とか。現実を無視した設定だと思う。きっと、あいつらは他人をモブとしか見ていないのだ。だから、平気で彼らは彼らのラブコメの日常を送っていられるのだ。他人の目を気にせず、本来、人間関係で必要な妥協をせず、彼らは彼らの中で世界が完結している。恋だの、愛だの、周囲の迷惑を考えないで、まるで漫画の主役のように好き勝手に振る舞うのだ。それに巻き込まれる人間の事なんて考えていない。それで、死んでしまった俺は……。
それに。
俺は、私は………。
「にゃー」
「……猫?」
思わず、ほの昏い思考の波に埋没しかけていた俺は、足元に纏わり付く小さな黒猫の鳴き声でその存在に気が付いた。
攻略対象が眠っている内に早急にこの場から離れようと思っていたのに、自分の思考に没頭する余りに、周囲への警戒を疎かにしてしまったなんて、俺とした事が何たる不覚!
コヤツ、やりおる。
女子高生の足に懐く黒猫を見下ろし、俺は首根っこを引っ掴んで持ち上げた。
「おい、黒猫。顔面は兎も角、ピチピチの若い女子の足に絡みつきたくなるのは分かるけど、セクハラだこの野郎。子猫だからって許されると思うなよ」
そう言って、遠慮なくぺいっと放す。
まあ、地面にちゃんと下ろしてだが。
幾ら俺でも血も涙もない冷血管じゃないしな。動物愛護団体怖いし。
「さらばだ、魔女の使い魔たる猫よ。俺はその色は別に嫌いじゃないが、猫は好かん。俺は帰るから、あそこで眠ってるバカ……えーとイケメンなお兄さんがいるから、あっち行きなさい。そして、イケメンの腹の上で居眠りしちゃえ」
俺は最後にイイ笑顔で悪魔の囁きよろしく黒猫に助言してやって、とっととイベント現場から脱出すべく踵を返した。が。
「にゃー」
黒猫はジャンプしてなんと俺のなけなしの女子力アイテム――――所謂制服のスカートに飛付いてぶら下がりやがった。
To be continued…?




