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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その48 お狐様、嘘がばれてお仕置きされる!

「長々とお話しましたし、そろそろお茶にいたしましょうか」


 イロハになった元ゴロハチが提案した。


「いいですね! 喉も渇いたしそうしましょう! ね、アティ?」

「うむ。そうするか」


 伊織もアティラも二つ返事で同意した。


「では、すぐに用意いたしますね」


 しずしずと台所に向かうイロハ。


「はい、よろし――うっ!」


 返事をした伊織が急に無言となり、さらに真顔になった。異変を感じ振り返るイロハ。

 そして伊織は、


「ぐっ、ゲェーーーー!」


 勢いよくリバース。二日連続ゲロであった。いきなりの嘔吐に慌てるイロハ。


「伊織様! どうしました!? 大丈夫ですか!?」

「お、おい汝、大丈――ぶっ、げろげろー!」

「ああっ! アティラ様までっ!」


 伊織を心配そうに見詰めていたアティラも後を追うように仲良くリバース。同時多発ゲロにイロハは狼狽するばかりだ。


「イロハぁ、朝食に毒を盛るとは……謀りましたねぇ……!」


 吐く物吐いてちょっと楽になった伊織が、口元を袖で拭いつつイロハを睨み付けた。


「誤解です! 毒なんて盛っておりません!」


 弁解するイロハ。すると伊織の言に触発されてアティラも参戦だ。


「では、なぜ妾たちがこうも吐瀉物をまき散らすことになったのか説明してたもれ! さあ、はよ! 説明するのじゃあ!!」

「なぜ、と仰いられましても……私にも理由はわかりかねます……」


 アティラの剣幕に萎縮するイロハ。イロハとしても何が原因かわからず、言いようが無かったのだ。

 だが、そんな言い訳でアティラが許すはずも無かった。


「不遜! まさに不遜よのう、イロハ! 伊織、知覚じゃ! 知覚の加護で原因を特定するのじゃ!」

「はいっ! 了解です! むむむ……」


 ノリよく知覚を開始する伊織。いつもなら自分のせいだと発覚するだけなので、渋るところだが、この時ばかりはイロハが毒を盛ったとを確信していたため、あっさりとアティラの求めに応じたのだ。

 だが、伊織は大事なことを忘れていたのだ。そう、味噌汁に使われていた平茸を採ってきたのが、紛れもなく伊織自身だったことを……。


「さて、何が出るかのう。ふふふ、イロハよ覚悟しておくのじゃぞ……」

「……はい」


 アティラに薄暗い笑みを向けられたイロハは、神妙な面持ちで結果を待った。否定しようにも聞き入れて貰える雰囲気ではなかったからだ。

 そうしているうちに知覚が終わったらしく、伊織が声を張り上げた。


「はい、知覚できました! 原因は!」

「原因はなんじゃ?」

「原因はー……んー……」


 出だしは良い勢いだったのに何故か言い淀む伊織。


「どうした? さっさと言うのじゃ!」

「アティ、原因なんて何でも良いと思いません? イロハも反省していることだしー」


 先ほどまでイロハを断罪していたのに急にトーンダウンの伊織。この期に及んで灰色決着を求めだした。

 明らかに己に都合が悪い知覚結果が出たのでうやむやにしようとする意図が見え見えであった。

 当然アティラがそれを許すはずも無く、


「……原因は汝じゃったか」


 と、明らかに確信を持つつ、疑いの目を伊織に向けた。


「ななななな、何を言い出すんです!? アティ! 誤解です誤解! 私が悪い訳無いじゃ無いですか!? だって被害者ですよ、私? 自分で自分に毒を盛るはずが無いですよね!?」


 嫌疑をかけられた伊織は慌てて否定した。

 確かに意図的に自分で自分に毒を盛ることは無いだろうが、意図しないで毒を盛ることに関しては実績がありすぎて言葉に説得力が皆無であった。


「ならば知覚した原因を言えるよな? ん? よもや、汝が原因だったなんて事はありえんのだからな!」

「ぐっ! 言えば良いんでしょ、言えば!」


 煽られたうえに完全に退路を防がれた伊織が、逆ギレ気味にいきがった。


「ああ、では聞かせて貰おうかのうw」

「……むぅ。雉肉を知覚。毒性分であるカンピロバクターにより嘔吐発生中。現在、治癒の加護で回復中も今後、腹痛・下痢等を引き起こす。緩解まで後6時間の見込み。……どうですか、私は悪くありませんよ?」


 伊織は知覚内容を述べると、じっとアティラを見た。


「……どこかで聞いた気がする内容じゃのう」


 アティラは考え込むように俯く。


「ききき気のせいですよ!?」


 気のせいでは無かった。というか昨日、伊織がアティラを騙そうとして捏造した知覚内容そのままだった。


「うむむむむむ。内容に不自然な点はなさそうじゃが、どうにも引っかかるのう」


 アティラは首を大きく傾げ、腕を組んで悩みに悩んだ。

 どこかで聞いたような内容だが、それをいつどこで聞いたか思い出せなかったのだ。

 なお、聞いたのは前述の通り昨日である。残念だがアティラも相当に鳥頭だったのだ。


(もう駄目かと思ったけど、アティが痴呆気味で助かったよwww)


 いつまでも思い出せずに悩むアティラを見て伊織は心の中でほくそ笑んだ。


「アティ、もう良いでしょう? 雉肉のカンピロが原因だったと言うことはイロハも意図して毒を盛ったわけじゃ無いんだし、ここらで手打ちにしましょう!」


「……うぅむ、仕方ないのう」


(……くくく、策士伊織に抜かりなし!)


 伊織は心の中で勝ち誇った。

 一方、アティラは釈然としない様子だが、伊織の言葉を覆す材料も無いためしぶしぶ了承。これで騒動は終結したかに思えたが、そうは問屋が卸さなかった。

 それまで事態を静観していたイロハが恐る恐る疑問を口にしたのだ。


「あの……すいません。伊織様、アティラ様。今日の朝食に雉肉は使用しておりませんが……」

「「……」」


 イロハの言葉に伊織とアティラが一瞬固まった。そして、


「そうじゃ! 雉肉なんて入っておらんかったぞ!? おい、駄巫女どういうことじゃ!」


 アティラが伊織にくって掛かった。自分が騙されていたことに気がついたのだ。


「あっれぇー!? 雉肉、入ってませんでした? ホントに? いや、炒め物にお肉入っていましたよね? 雉肉!」


 だが、伊織も負けじと白を切った。ここで嘘だと認めたらここまでの全てが水の泡だから必死だったのだ。


「あれはボア肉です」

「……」


 だが、無情にもイロハはそれをぶった切った。再び沈黙する伊織。


「そうじゃ! 朝餉の肉はボア肉じゃった! お? そういえば思い出したぞ! 雉肉のカンピロは汝が昨日妾に嘘をついた知覚内容じゃろ! 貴様、騙しおったな!」

「ちっくしょおおおおおおおお! もう一息だったのにぃぃぃぃぃぃ!」


 伊織は頭を抱えて叫んだ。もう一息で騙しきれたのににイロハの横槍で嘘がばれてしまったのが悔しかったのだ。

 そんな反省の色が無い伊織の片肩をアティラは後からがしっと掴んだ。


「っ!」


 伊織は後から肩を掴まれ慌てて振り返る。するとそこにはとても爽やかな笑みを浮かべたアティラが存在していた。

 しかも笑顔のはずなのに友好的な色は皆無。圧力しか感じる事が出来ない笑みであった。


「さて汝、覚悟はいいか?」


 アティラはさらに凄みのある笑みを浮かべ死刑宣告を飛ばした。伊織、絶体絶命だった。


「ひいっ! イロハ助けて!」


 伊織はこの期に及んで自らの罪を擦り付けようとしたイロハに助けを求めた。

 もはや恥も外聞も無かった。藁にもすがる思いだったのだ。


「申し訳ありません、伊織様。懲罰はきちんと受けるべきかと」


 だが、一も二も無くイロハに切り捨てられる伊織。

 まあ、一連の流れを鑑みれば当然の帰結であるが、それでも伊織はイロハなら助けてくれると心のどこかで思っていたのだ。

 全く、都合のいいお狐様であった。


「アカン! イロハも相当おかんむりだったコン!」


 言葉尻に怪しい語尾を付け出す伊織。頼みの綱のイロハにも見捨てられ、どうすれば良いのかわからず右往左往するしかなかった。


「さて、執行じゃあ」


 アティラはニチャァとした笑みを浮かべ、手をわきわきさせながら伊織にゆっくりと迫る。


「アティ、謝りますから堪忍です、堪忍!」

「全てが終わったら堪忍してやろう……とう!」

「それじゃあ意味がな――ひぃゃあ!」


 アティラは制止する伊織に飛びかかると、伊織を押し倒し腋に両手を差し込んだ。そして……、


「あはっ! あははははははっ! ちょっ――アティ、ダメっ! やめっ――てぃやっぁははははははは! くすぐったはははははははは!」

「うりゃうりゃうりゃ、まだまだ序の口じゃ! ほれほれほれ!」


 アティラの両手が伊織の腋を執拗に陵辱する。

 そのくすぐったさに伊織はなんとか逃げ出そうと身をよじるが形勢を逆転出来ずになすがままであった。


「ふぃっゃあははははは! あはっ! 笑いすぎて、息がっはははははははははははは! アティ、かんっ……に……ふぁっはははははははははははははは!」

「精々、笑い死ぬが良い! ほれ、イロハ見てないで加勢せい!」


 既に抵抗できず、なされるがままの伊織をさらに追い詰めるかの如く、イロハに加勢を求めるアティラ。慈悲は無かった。


「私もですか?」

「うむ! 汝は尾を責めよ!」

「ちょっ! イロハっ! ふぁっはははは! ダメですよっ! アティのっ……口車にっはははははは――乗ったらぁはははははははは!」


 伊織は息も絶え絶えになりながら、これ以上の責め苦はさせまいとイロハを制止した。

 イロハはアティラと伊織の対立する言葉を聞いてしばし思惟。ゆっくりと口を開いた。


「……はい、アティラ様の仰せのままに」

「ほほほ! 汝も存分に恨みを晴らすが良い!」

「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!! 神は死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 イロハの返答に意気上がるアティラと、逆に絶望の淵に落とされる伊織。

 イロハは伊織に歩み寄ると、アティラに言われるがまま尾を取った。


「伊織様。失礼いたします。御覚悟を」

「イロハっ! ダメですっ! 目を覚まし――ぎゃはははははははははははははははは!!」


 イロハのくすぐりが伊織を襲った。一層笑い転げる伊織。


「はい? どうしました?」


 イロハは伊織が何を言おうとしたのかがわからず首を傾げた。無論、指を動かしたままで。

 結局、伊織の一番弱いところにイロハの指が到達。伊織は一度びくっと身を震わせた。そして、


「ぎゃはははははははははははははははははははああああーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 部屋の中に大きな笑い声が響き、何故かはわからないが、びくんびくんと痙攣する伊織だった。




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