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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その37 お狐様、図星を突かれ逆ギレをする!

「おう、乳繰り合いは終わったか?」


 伊織とゴロハチのやり取りを黙って見ていた阿武隈がにやにやしながら揶揄した。


「乳繰り合いだったら良かったのに……」

「伊織様。コイツ潰しますか?」

「ゴロハチぃ! 忠誠心薄くない!?」

「もう私はフィロウシー様の僕ではありませんので」

「まあまあ、二人とも落ち着いて。で、寛はなんでいるんだっけ?」


 話が横道に逸れすぎて本題を完全に失念している伊織だった。


「伊織は相変わらず忘れっぽいな……この世界に召喚された俺が異端審判で死刑宣告されたジュンニャンを見事に救った話の続きで、世界樹に愛の逃避行した理由と今幽霊の話だろ?」

「あー、そんな話だったね……玄姦見られて王様を脅迫の続きだった……」


 話の内容を思い出した伊織がげんなりとした。下半身に忠実な阿武隈の活躍を聞かされるに違いないと思ったのだ。


「こうして難局を乗りきった俺とジュンニャンだったが、さすがにネタがネタだったため、獣人たちとの和睦を纏めた後に世界見聞という名目でジュンニャンとゴロハチを連れてファンタジニアを出ることになった。まあ、実質的な国外追放だな。それで世界中を旅しながら安住の地を探したんだが、どこに行っても水が会わなくてな。最終的にここ大深海の世界樹に辿り着いた。まあ、初めは世界樹を見たら違う所に行くつもりだったんだが、ジュンニャンがいたくこの森を気に入ったから世界樹に家を作って住むことにした。そうしたら勝手に幹を削り家を作ったことに怒ったアティラ神が出てきて一悶着があった。で、俺らの知識とマナを定期的に与え、なんやかんやあってついでにゴロハチを捧げることで世界樹に居着いた」

「ゴロハチは寛に売られたんだね……ドナドナだったんだね……」

「自分、雌ですから……」

「そっかー。じゃあ仕方ないね」


 やはり異性に冷たい阿武隈であった。


「ゴロハチぃぃ! 人並み以上の知能と知識を与えた恩を忘れたわけじゃ無いだろうな!」

「ハイ、トテモカンシャシテイマス」

「なんか棒読みじゃね?」

「ソンナコトハアリマセン」

「あー、ゴロハチの知能と知識って寛が与えたものだったんだね」


 合点する伊織。道理でアティラに聞いても話が見えない状態だったのだと納得する。


「おうよ。理由はいくつかあるが、一つ目は安全に連れ歩くため。ただの六つ足熊のままじゃあ世話が面倒だし危険だからな。それから二つ目がそれから森の管理・巡回・防衛のとアティラ神に仕える為に必要だったから。そして三つ目がお前のためだよ、伊織」

「えっ? 私のため? どういうこと?」


 伊織は意味がわからず小首を傾げた。


「俺たちが世界樹に居着いたのが大体200年前だ。で、死んだのが大体、100年前だな」

「寛、長生きし過ぎでしょ」

「何を言う。生きようと思えばいくらでも生きられたんだぞ。なにせ、俺は勇者で大賢者だからな。魔術と錬金術で延命どころか不老不死もやりたい放題だぜ!」

「じゃあ、何で死んだの? 毒きのこにでもあたった?」

「お前じゃあるまいし、そんな死に方するか! ……ジュンニャンがな、嫌がったんだよ」

「何を?」

「延命も不老も不死もだ。自然のまま生きて自然のまま死にたいと言っていたな。そういうところは神官らしかった」

「でもホモじゃん。人として不自然じゃん」

「同性愛は生物的に正常な性指向だから! むしろ異性愛が異常! 目を覚ませ伊織!」

「寛こそ目を覚ましなよ! 種の保存に真っ向勝負仕掛けてんじゃん!」

「男でも――妊娠できるっ! ……って、誰か言ってた(気がする)し、何も問題は無い!」

「あかん、手遅れや……」


 天を仰ぐ伊織。阿武隈の脳みそがここまで終わっているとは思っていなかったのだ。だが、現実は非常であった。


「手遅れ言うな! で、話は戻るが約100年前にジュンニャンが天寿を全うして天に召されたんだ。それで俺もジュンニャンと共に天に逝くために不老も不死も延命もせずに死ぬことにした」

「性別さえ考えなければ純愛だね」

「性別を考えても純愛だろう?」

「……ん。ま、そうだね。でもそれがゴロハチに知能与えたのが私のためにどう繋がるの?」

「うん。それなんだが、伊織は自分がどうしてこの世界に転生したと思う?」

「そりゃあ決まっているよ! 私の日頃の行いが良かったから、玉藻神社の玉藻様が妹を庇って死んだ自分を哀れんでお狐様に転生させてくれたんだよ!」


 さすが伊織である。自己評価の見立てが甘甘であった。


「うん。それ違うからな。大体、お前、自分家のご神体である玉藻前の存在を信じていなかっただろ?」

「え? な、なんのことかなー? ちょっと言っている意味がわからないんですけど?(棒)」


 白を切る伊織だったが、視線を左右に彷徨わせて思いっきり狼狽していた。

 なんてことはない。図星だったからだ。阿武隈はやれやれと呆れながら追撃する。


「だってお前、『北海道に玉藻前なんていねーよ。大体うちは明治時代に播磨から入植した初代のひいひいじいさんが故郷の神様を勝手にご神体として始めた神社だから玉藻前とは全く無関係だったのに、二代目だったひいじいさんが旅行で那須に行った時に見た殺生石に感動して昭和の初期に勝手に玉藻神社を名乗りだしただけだし、境内にある殺生石も三代目のじいさんが戦後の混乱期に借金の形として園芸屋からぶんどってきた偽物だよ』って言っていたよな?」

「うぐっ、そんなことを言った記憶は無いよ?」


 なおも白を切る伊織。ぶっちゃけ阿武隈の言う通りなのだが、おいそれと認めることが癪だったのだ。


「そうか。じゃあ、『息子に巫女の格好させてエロい動画撮って喜んでんじゃねーよ、クソ親父! なにが『けいこくたまもちゃん』だ! うちの神社のご神体の殺生石なんて偽物じゃねーか!』とお前が言ってたのも俺の気のせいだな! つまりあの巫女女装はお前の本意――」

「それは言いましたけど何か? ぶち殺すよ?」


 白を切り通せなくなった伊織は言うに事欠いて逆ギレだ。


「あっさり認めてんじゃねーよ! ま、いいや。結論を言うと伊織がこの世界に転生したのは俺がお前の魂をこの世界に喚んだからだよ」

「なーんだ、寛が私を喚び出したのかー……って、ええ!? 嘘でしょ!?」


 驚愕する伊織であった。



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