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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その35 お狐様、おっぱいがいっぱいのつもりが現実を知る!

「うぁぁぁぁぁぁぁん! ゴロハチが殴ったぁぁぁぁ! 世界樹の巫女なのに殴ったぁぁぁぁ! 痛いよぉぉぉぉ!」


 伊織は手のひらで顔を覆い、大きな声で泣きじゃくった。

 これまで恫喝されたり威圧されたことはあっても鉄拳制裁を受けたことは無かったのでショックだったのだ。


「聞き分けの無い上役を諌めるのも下役の務めですので」


 ゴロハチはそう強弁しつつも、少々ばつが悪そうに答えた。

 伊織を泣かすつもりは無かったのだ。だから阿武隈よりも殊更手加減して拳骨を落としたつもりだった。

 事実、それなりの手加減しかされなかった阿武隈は未だ地面に埋まったままであった。


「しくしくしく……暴力熊なんて大嫌いです……」


 しかし、伊織は泣き止まず、なおも涙で頬を濡らす。


「そう言われると返す言葉もありません……」


 伊織の恨み言にしょんぼりとその大きな体躯を縮こませた。

 何だかんだ言ってゴロハチはアティラとその巫女である伊織に強い忠誠心を抱いていたため、マジ泣きされて凹んでいたのだ。

 一方、伊織はそんなゴロハチを見て手のひらの下でキランと瞳を光らせた。


 ……ゴロハチも案外ちょろいね♪


 と。確かにゴロハチの拳骨は目から星が飛び出るほど痛かったが、それで大泣きする伊織では無い。

 なにせ、見た目は少女でも中身はいい歳した男である。拳骨の痛みくらいで泣き出すほど幼くないのだ。つまり絶賛嘘泣き中なのであるが、涙は自体は本物であった。


 伊織は拳骨を張られたショックでちょっと悲しい過去を思い出しちょろっと涙が溢れて来たので、咄嗟にその涙を利用しゴロハチに負い目を植え付けさせ、精神的に優位に立つ計画を思いついたのだ。

 もっとも、相手は勘のいいゴロハチである。伊織としても成功の可能性は半々であろうと踏んでいたが、成さねばならぬ!と、無駄なアクティブさを発揮。嘘泣きをすることに決めたのである。

 そして結果は見ての通りの大成功であった。実際に涙が出ていたため、ゴロハチも騙されたようだ。


 心中でよしよしとほくそ笑む伊織だったが、はたと我に返った。

 ゴロハチに負い目を植え付け精神的に優位に立ったのはいいが、それからの展開を全く考えていなかったことに気がついたのだ。

 基本、出たとこ勝負の伊織である。計画性なんぞあるわけも無く、この場を纏める算段も無かった。

 仕方なく泣き続けながら、どうしたものかと指の隙間からちらりとゴロハチを見た。

 するといつもなら山のように大きく見えるゴロハチが、熊耳を垂れ下げ体躯を小さく縮こませて申し訳なさそうに佇んでいたことにより、まるで雨に濡れた子犬のように小さく見えた。


 ……マジヘコミしてるなぁ……。あんまり追い詰めると可哀想かも……。


 その哀愁漂う姿にちょっとばかり同情。また伊織としてもいい加減泣き続けるのにも疲れてきたし、これ以上引っ張ってもどうにもなりそうにないので、どうやって決着をつけようかとあれこれ思索。

 そういえばとあることに気がついた。


 ……ゴロハチって自称雌らしいけど、おっぱいはあるのかな? 毛に覆われているから見た目じゃあ全然わからないけど、雌なら当然あるよね! その感触を試すべきかな? 試すべきだよね! でも、それってセクハラになるかな? いや、私は(体は)女の子だし、ゴロハチも熊だからセクハラじゃないよね! よし、仲直りの印として胸元に抱きついておっぱいを堪能……確認してみよう!


 悲しいかな。伊織もオスだった。しかもケモナーの気もあるという業の深さだった。

 相手がたとえ熊だろうと関係ない。合法的におっぱいを触るチャンスである。試さない理由など無かった。

 完全にゲスの思考だが、伊織の中では筋が通っているので何も問題は無かった。

 では、さっそくとゴロハチの胸に飛び込むために一芝居。ゆっくりと口を開いた。


「……ぅ、えぐっ……ゴロハチ……もう、叩かない?」


 伊織は顔を覆っていた手のひらを下げ、涙で腫れた瞳をゴロハチに向けた。無論、上目遣いで。

 いい歳した男としてば気色悪いとしか表現しようが無い行動と言動だが、今の伊織は見目麗しいお狐様の少女である。その威力は抜群だった。


「え……ええ……。もう、叩きません」


 ゴロハチは少々惚けた様子で伊織を見ながら殊更優しい声色で頷いた。

 普段のどうしようもない伊織には無い儚さと可憐さに加え、保護欲を刺激するその姿や立ち振る舞いに魅了されたのだ。

 そんなゴロハチを見て伊織は、


 ……よっしゃあ! 籠絡成功! テンプテーションの才能有りだよ! さすがはお狐様! 魅了させたら世界一だよ! ぱない!


 と、心の中でガッツポーズ。そしてトドメと言わんばかりに涙で潤んだ瞳を向け、舌っ足らずな口を開いた。


「じゃあ、仲直りの印。ちょうだい」


 伊織はすこし恥ずかしそうな表情を浮かべつつ両手を目一杯に広げた。


「はい、いますぐ」


 ゴロハチははいと頷き、まるで誘蛾灯に誘われる蛾のようにゆっくりと近づくと、その大きな前肢で赤子を守るように優しく伊織を抱きしめた。


 ……むほー! ゴロハチのおっぱいキター……あ、あれ?


 ゴロハチの胸に抱かれ歓喜した伊織だったがすぐに首を傾げた。

 いくらゴロハチの体躯が大きいとは言え、胸に抱かれたらおっぱいが当たるはずなのに、予想されたおっぱいの柔らかさが全然伝わってこなかったのだ。

 もしかしたら毛が深いので堪能できないのかもしれないと考え、さらにぎゅーっと抱きついた。


「ゴロハチ、もっとぎゅー!」

「はい、ぎゅーです」


 伊織はゴロハチにもっと強く抱きしめるよう求めた。するとゴロハチは徐々に力を込めだす。伊織とゴロハチがさらに密着。伊織にゴロハチの体の感触が伝わる。


 そして伊織は理解した。


 ……あかん……ゴロハチの体。筋肉ムキムキ過ぎておっぱいまで筋肉だ……。


 伊織の言うとおりゴロハチは筋肉ダルマだった。しかも特に鍛えられた筋肉だった。

 人間に例えると腹筋が六つに割れたボディビルダーの様なボディだった。

 おかげでおっぱいの柔らかさなど皆無だった。

 伊織は心底落胆し、ゴロハチから身を離そうと手の力を抜いた。だが、ゴロハチは拘束を解くどころかさらにぎゅうぎゅうと伊織を抱きしめる。


「あ、あのー……ゴロハチ。もういいよ?」

「……」


 伊織は上を向いてもう放すようゴロハチに働きかけたが、全く反応がない。しかも伊織はゴロハチの毛に埋まっているため、その表情を窺い見ることもできない。

 そうしているうちにもゴロハチの抱きしめる力は徐々に増していくばかりだ。

 締め付けられ、徐々に息が苦しくなってきた伊織は身の危険を感じ、腕から逃げだそうと身をよじる。

 だが、ゴロハチの腕からは逃れられない。


「ゴロハチ、もういいから! いいから放して!」


 いよいよ苦しくなってきた伊織は大声で叫び、じたばたと暴れた。するとふいにゴロハチの呟きが伊織の耳に届いた。


「……ハァハァ。伊織様ヵヮィィ……」

「こぉん! トリップなさっておる! ぅお……し……締め付けが……ゴロハチ……放して……」

「……ハァハァ。伊織様ィィニォィ……」


 なんとゴロハチは伊織の匂いと抱き心地にやられ、正気を失っていたのだ。

 伊織に対して普段はつれない態度のゴロハチだが、あれは本心からくる態度では無かった。

 実は森で初めて伊織を見たとき既にそのあまりに愛くるしい姿に心を奪われていたのだ。

 だが、伊織はゴロハチの元主人である阿武隈の思い人であり、現主人である世界樹の巫女でもある。

 好意を出すわけにはいかなかったのだ。

 だから自分の想いを誤魔化すために出来るだけつれない態度を取るようにしていたのである。


 それなのに伊織から仲直りの印としてハグを求められて、直に匂いを嗅ぎながら抱きしめて正気を保てるはずも無かった。

 無論、勘の悪い伊織がそんなことに気がつく訳も無いが、ゴロハチが伊織のために甲斐甲斐しく肉や野菜を持ってくる意味を考えれば予想できた範囲でもあった。


 それはさておき、既に半死半生の伊織だったが、想いがちょっと溢れてしまったゴロハチがトドメを刺すかのように強く抱きしめた。


「……ハァハァ。伊織様ダイスキ……」

「……ヴォエ!……もぅマジ無理……」


 そしてそのまま気を失う伊織だった。




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