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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その33 お狐様、幼馴染(ただし男)と対面する!

「よう、伊織。久しぶりだな!」

「寛っ!? 本当に寛なの!? なんかちょっと小さいし幼いし透けているけど!」

「ああ。魂だけだしな。体は魂に注いだマナが足りなくて小さくなっちまったみたいだな」


 伊織の言うとおり阿武隈寛は今のお狐様Ver.伊織くらいの年齢・大きさで尚且つ透けていた。注ぎ込むマナの分量を少し間違えたため小さくなってしまったのだ。

 また、透明なのはゴロハチが呼び出したのは魂だけでなのだから当然であった。


「はぁ、魂って本当にあったんだねぇ。ぶっちゃけ信じてなかったよー」


 伊織が興味深そうに言った。相変わらず神社の(元)巫女&跡取り息子としては問題ありありな発言であった。

 まあ、身近な者ほど信じないというのは案外とあることなので、殊更特殊な考えではないが、それを口に出してしまうのは迂闊としか言いようが無い。

 ……が、元々伊織は迂闊な人間なため何も問題は無かった。


「ははは、伊織は相変わらずどうしようもないな! だが、それがむしろいい……下半身が滾るぜ!」


 バリネコ寛がよだれを拭きながらタチ受けしそうなポーズを決めた。


「隙ホモだね」


 伊織が真顔で言った。


「隙ホモですね」


 ゴロハチも真顔で言った。なお、隙ホモとは隙あらばホモの略である。


「俺はホモではない! ゲイだ!!」


 阿武隈寛。アイワズゲイであった。

 そんな阿武隈の主張を伊織は黙殺。ゴロハチに疑問を呈した。


「……本当にコレが勇者で大賢者だったん? 何かの間違いじゃ?」

「私もそんな気がしてきました。大賢者フィロウシーは私の妄想が生み出したものだったのかもしれませんね」


 しれっと伊織に合意するゴロハチ。

 久方ぶりに会ったご主人が思いの外見苦しかったため、無かったことにしたかったのだ。


「おぃぃぃぃ! ゴロハチぃぃぃぃ! 俺を妄想扱いするんじゃない!」

「申し訳ございません、少々記憶が曖昧で……ええと、どちらさまでしょうか?」

「おいおい、冗談が過ぎるぞ! いい? 君のご主人だよ! フィロウシー様だよ? わかる? わかるよね!?」

「は? 誰です? 私に馴れ馴れしく話しかけないでください。目と耳が穢れます」

「可及的速やかに記憶から抹消されたぁぁぁぁ!」


 ゴロハチの辛辣な態度に頭を抱える阿武隈であった。


「えーと、で、寛は何のために出てきたんだっけ……?」


 そんな阿武隈とゴロハチの漫才を眺めていた伊織がこてんと首を傾げた。こいつも当初の疑問を失念していたのだ。


「勇者で大賢者な俺、異世界に見参! の物語他2本かな?」

「あれ? 何か寛の方が主人公っぽいんですけど? そもそも何で寛はここにいてしかも幽霊なの!?」

「それを今から順を追って説明するな。まず俺がこの世界樹に行き着いたまでの話だが、俺はお前が妹を庇って刺され死んだ葬式に参列した帰りの途中でこの世界のファンタジニアという人間の国に召喚されたんだ」

「……やっぱり私は死んじゃったんだね」

「ああ。三日三晩生死の境を彷徨ってな。立派な最期だったよ」 

「……そっか。それで寛は召喚された後どうなったの?」

「異世界の勇者様、ファンタジニアを助けて下さい! と俺を召喚したジュンニャン言われた。なんでも、オークとかウェアウルフなどの亜人・獣人の国に攻められて滅亡寸前だから助けて欲しいという話だった。そしてジュンニャンがお前にちょっとだけ似ていて俺の好みだったから助けることにしたんだ」

「下半身で決めるとか、元友人としてちょっとドン引きなんですけど……」


 伊織が冷めた視線を阿武隈に向けた。


「やかましい! で、俺は現代知識と創作魔術の力で内政・軍事と大活躍! ファンタジニアの大賢者・フィロウシーの名を欲しいままにした。ついでにみんなには秘密でジュンニャンもしいままにした。いや、むしろされた。俺バリネコだし」

「ジュンニャンのくだりは聞きたくないから言わなくてもいいよ」

「嫉妬すんなよ、伊織! お前も愛してるぜ♪(イイ声)」


 阿武隈をころころしたくなる伊織だった。だが、残念。阿武隈はもう死んでいるのでころころするのは無理な相談だった。

 仕方ないのでゴロハチに嫌みをぶつけることにした。


「ゴロハチー! お宅のご主人の脳味噌腐ってるんだけど、どうにかして?」

「伊織様。申し訳ございません。アレはもう手遅れです」


 己を揶揄する二人を尻目に阿武隈は言葉を続ける。


「獣人たちを退けたまでは良かったんだが、今度は逆に攻め入ってやろうと話が出てきた。ついでにこの頃、ゴロハチを拾った」

「ゴロハチ。ついで扱いされてますけど」

「自分、雌ですから……」

「そっかー。じゃあ仕方ないね」


 阿武隈寛。異性に冷たい男であった。


「俺、日本人だし、専守防衛で良いじゃんと思った。それに、そもそも何で獣人に攻められたんだという疑問が湧いた。んで、調べたらファンタジニア王国、つまり人間側が先に手を出したことが分かったんだ」

「それで好戦的な人間側の在り方に疑問を覚えてここに逃げてきたという訳だね」


 阿武隈の言葉を聞いた伊織が納得したように頷いた。だが、


「いや別にそこは特に疑問に思わなかった。せいぜい安全保障的に先制攻撃もありだなと思ったくらいだ」


 阿武隈の答えは伊織が予想するものではなかった。予想が外れた伊織は「あれれ?」と不思議そうに首を傾げた。

 一方、阿武隈はファンタジニア王国が先に手を出した顛末と理由を述べだした。


「んで話は戻るが人間側が先に手を出した理由ってのがな、俺がこの世界に召喚される何年か前からファンタジニア側も獣人側も指導者層の交代が起きたばかりの過渡期のせいで内部の統制があまり取れて無くて、国境付近で偶発的な小競り合いがあったりと、きな臭い空気が漂っていた。それでも王様はあくまで先々代の時代に結ばれた和平合意を尊重し現状維持の方針だった。だが、まだ若かったこともあって求心力が足りず、また開戦派を唱えていたのが重鎮貴族たちだったこともあって反対しきれずに先制攻撃を渋々了承。それでいざ攻め入ってみれば獣人側に情報が漏れていたらしく、待ち伏せ食らって敗走。最終的にはファンタジニアの王都ロマンシアの近くにまで攻め入られ、藁にもすがる思いで俺を召喚という顛末だった。まあ、その後は俺がバッタバタと獣人たちをなぎ倒し、逆に相手の国に攻め入るまでの状況にしてやったけどな!」

「うん。結果的には寛のおかげで何とかなったけど開戦派はアホだね」


 身も蓋もなくぶった切る伊織。他者には辛辣で評価も厳しい性格なのだ。

 なお、自分に対しての評価が甘甘なのは言うまでも無い。


「確かにこれだけ聞けば開戦派が阿呆としか思えないし、俺も最初は開戦派がアホだと思った。でも、よくよく話を聞いてみると、結果的には失敗したが開戦派にも多少の理があることが判ったんだ」

「えー、どういうこと?」


 伊織は意味がわからず首を傾げた。


「俺は勇者で大賢者だからジュンニャンに言われるまで気がつかなかったが、人間って獣人や亜人に比べると弱いし寿命は短いしで優っている所が繁殖力くらいしかないんだ。だから正々堂々と正面切って戦いだしたらまず勝てない。それなら獣人たちより高い繁殖力を生かして人海戦術で押せば良いと思うが、産んですぐ戦場に出せるわけじゃないし、主食の一つである麦の不作が長い間続いていたせいで生まれる子供の数も少なく、戦力が獣人たちとそう大差が無かった」

「だから慌てて開戦しちゃったの? 獣人が和平合意を破棄して攻めてくるという確信があった訳じゃ無いよね?」

「ああ。だが、攻めてこないという確信も無かった。だからこそ、国境付近での小競り合いで疑心暗鬼になった。実のところこの小競り合いは人間・獣人の両陣営ともに意図しないものだったが、それを証明できるものは何も無かった。だから、獣人たちが合意を破って攻めてくる前に先制攻撃をして戦況を優位に進め、その後の和平交渉のイニシアチブを握るべきだという開戦派が主流になったんだ。しかも良くなかったのが、先々代が獣人たちと結んだ和平合意がちょうど今回と似たような状況でな、圧倒的に不利だったファンタジニアが獣人の虚を突いた先制攻撃で戦況を優位に進め、最終的に人間側に優位な形で和平交渉を結んだという顛末だった。さらに開戦派の中心である重鎮貴族の当主たちがちょうど子供の時にそれを経験していたものだから、我々も蛮族を退治したあの英雄に続けという機運が出来上がってしまったんだ。まあ、結果は御覧の通りだが、仕方ない側面もあったという話だな」


 結果論で言えば間違いとわかっても、当事者になってみればそう簡単な話ではないと思う阿武隈であった。



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