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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
33/56

その32 お狐様、怪しい六つ足熊をエイリア~ンと看破する!

 伊織とゴロハチは水芭蕉や鈴蘭が可憐に咲いている水気の多い湿地に来ていた。


「うぅ……涎でべろべろですぅ……」

「さあ、伊織様。せりが生えていそうな湿地に着きました」

「ああ、どうもです……あ、早速セリ発見ー……はぁ……」

「元気がありませんね?」

「私の元気を奪った原因に言われたくありませんから!」


 伊織は手際よくセリを採取、籠に放り込みながら抗議した。


「口は災いの元とは、全くく言ったものですね」

「だからって上半身を丸ごと咥えないで下さい!」

「咬まなかっただけ良かったと思って下さい。余計な一言でいつか身を滅ぼしますよ」

「あうー、ゴロハチにまで言われるとは……。実は昔からよく言われております……」


 伊織は一言多いと友人や妹からも同様の指摘をされまくっていたことを思い出し、言葉をつまらせた。

 特に親友であった阿武隈には口うるさく注意されたものだと懐古し、一つ溜息をついた。

 すると、そんな伊織の心情を察してか同調するようにゴロハチがしみじみと頷いた。


「ええ、よく存じ上げていますよ」と。


 この過去を懐かしむようなゴロハチの発言に、伊織はセリを採取する手を止め驚きの声を挙げた。


「よく存じ上げているって……ゴロハチに話したこと無いですよね?」

「あれ、そうでしたか? 伊織様が忘れているだけでは?」


 しれっと白を切るゴロハチ。中々手慣れた様子だ。だが、いつも勘の悪い伊織も引かなかった。


「いいえ。確かに私は鳥頭なところがありますが間違いなく言っていません。それなのにゴロハチはまるで、以前から知っていたように呟きましたよね? 何故ですか?」

「ふむ……」


 伊織の追及にゴロハチは何かを考えるように押し黙った。

 そしてそんなゴロハチを見た伊織の中では「この熊、私の正体を知っているんじゃないか?」という以前から抱いていた疑念が確信に変わりつつあった。

 また、己には直接は関係が無いがゴロハチがアティラに貰ったという「知能を上げる加護」の存在も疑問に思えた。


 この加護についてアティラに訊いたところ「全く身に覚えがない」と言われたときは、(アカン、この駄神はもうボケちゃってるんだな……)と思ったが、アティラには本当に身に覚えが無かったのかもしれないと思い直す伊織。


 ……そうなると、なぜゴロハチは自身が人語を話すことについてアティラに貰った加護ギフトなどと嘘をついたのか? ただの熊(?)が人語を話すことを怪しまれないためだろうか? それとも地球の知識があってもおかしくないと思わせるためか? 何のメリットがあって? 


 考えれば考えるほどにこのアティラの眷属をやっているという熊が伊織には怪しく見えた。

 そして伊織は思った。


 ……もしかしたらこの熊の正体はアティラや自分を陥れる為に派遣された敵性勢力のスパイもしくは人の記憶を読む得体の知れないエイリアンまたは地上進出を目論む地底人なのでは?


 ――と。


 伊織はムーの読み過ぎであった。

 それに加え自身がお狐様に転生したせいで空想と現実の境が曖昧になっていたのだった。


 そもそも、ゴロハチからは地球とか日本人とか『ニャルラトホテプ』とか『モッ○ス様』とか『ガチャで爆死』という単語が出てきているのだがら、普通に考えれば伊織と同じように転生した日本人、もしくは転生した日本人から知識を得た熊ではないかと考えるのが普通であろうが、それに気がつかない程度に伊織は勘が悪かった。ついでに言うと頭も悪かったかも知れないがそれは未確認です。


 それはさておき、今後の為にもここで一気にゴロハチを問い詰め、正体をはっきりさせた方が良いと伊織は考えたが、そこであることに気がついた。

 もし、である。ゴロハチの正体を追及して実は敵だと分かったら、ここで自分は葬られるのではないかということを。

 伊織にしては真っ当な未来予想であった。そしてそれは大正解だった。

 誰もいない森の中である。ゴロハチが敵であれば正体を暴いた瞬間、ゴロハチのクマパンチが飛んでくるのは確実だ。


 伊織は悩む。問い詰めるべきか否か。また、問い詰めるとしても逃げる算段をつけてから聞くべきではないか。切り出し方はどうするのか。婉曲的に聞き出すべきでは無いかと。


 ……そして伊織は、


「ゴロハチって、敵のスパイか何かですか?」


 思いっきり直球で訊いた。何かもう考えるのが面倒くさくなってしまったのだ。

 言った後に(あ、言い方がまずかったかな?)とも思ったが、完全に後の祭り。アフターフェスティバルであった。

 そんな、ある意味予想外の質問をされたゴロハチは、質問の意味がすぐには理解出来なかったのか、しばらくきょとんとした表情を浮かべて伊織を見つめていたが、急に堰を切ったように笑い出した。


「あはっ! あははははっ! 伊織様は本当に面白い方ですね! いきなり何を言い出すかと思ったらスパイかって! さすがの私もそう来るとは思いませんでしたよ!」

「えー? じゃあ、どう言えば良かったんです? もしかして転生した日本人で、敵ですか? と、でも言えば良かったんですか?」

「ええ。「敵ですか?」は余計ですけどそちらの方がずっと良かったです。そもそもずっと、日本人では無いと知らないような言葉や知識をわざとチラチラしていたのですから、もう少し早く問い詰めてにきても良かったのですよ?」

「嘘だ! 前に日本とか這い寄る混沌とか北海道とかゴロハチが言ったときに私が突っ込んだら、聞くなと恫喝したじゃ無いですか!」


 伊織が納得いっていないらしく地団駄を踏んだ。


「記憶にございません。仮にそのような事実があったとしても、まだ話す時期では無かったという事です」


 ゴロハチは白を切った。己に不都合な真実は認めない主義であった。

 なお、話す時期などとそれっぽいことを言っているが、ただ単にこの伊織がゴロハチが目的とする伊織なのかどうかを見極めるのに苦慮していただけであった。


「言ってるそばから白を切るその態度が気に入らないぃ!」

「伊織様。大賢者フィロウシー様を憶えていらっしゃいますか?」

「え? なんです、急に? ホモ賢者がどうかしました?」


 ゴロハチの急な話題転換に頭を傾げる伊織。


「良かった。憶えていたようですね。フィロウシー様は本名をアヴドゥル・マクシミリアン・フィロウシーと仰います。何かお気づきになりませんか?」

「そうですね。ホモのくせに無駄にかっこいい名前です」


 核心を突いたと言わんばかりにキリッとする伊織。だが、残念。完全に的外れだ。


「いや、そうではなくて他には何か気がつきませんか?」

「火のスタンドを召喚しそうです」

「それはモハメドの方のアヴドゥルですね。私は第四部の方が好きです」

「きさま! 見ているなッ!」

「はいはい、伊織様には少し難しかったですね。ではもっとわかりやすく言いますよ。アヴドゥル・マクシミリアンをそれぞれ2文字ずつ取ると、アヴ・マクです。このうちのマクを逆にすると、アヴ・クマとなります。そしてフィロウシー。どうです、これでわかりませんか?」


 伊織の見当違いな回答にしびれを切らしたゴロハチが直接的なヒントをぶっ込んだ。

 だが、頭の頂上てっぺんからつま先までホモネタに汚染された伊織である。ゴロハチが期待した答えを返すはずも無かった。


「アヴ(ェさん)……クマ(先生)……もしや、件の賢者とその助手の正体って、ツナギが似合う男と、髭面で布団を敷きたがる先生を指しているっ!」

「くそみそと俺の先生ですね。そろそろその路線から離れませんか?」

「つまり『アヴ・クマ』はホモ……しかもガチなヤツのメタファーということっ!? つまり! ……つまり……どういうこと?」


 伊織は意味ありげに断定しておきながら、自らの論に首を傾げた。強引にホモネタで連想してみたはいいが、後先を考えなかったため話に行き詰まってしまったのだ。

 そして伊織に察して貰うことを遂に諦めたゴロハチは英語の先生よろしく、復唱を求めた。


「人の話を聞いていない伊織様。アヴ・クマ・フィロウシーです。リピートアフタミー?」

「あぶ・くま・ふぃろうしー!」

「オーケー! ワンスアゲインリピートアフタミー。アブクマ・ヒロシ!」

「あぶくま・ひろし! ……ん?」


 伊織もやっと何かに気がついたらしく、顎に手を添え首を傾げた。


「お気がつきになられましたか?」

「私、今、阿武隈寛って言いましたよね?」

「ええ。言いましたね。言わせましたし」

「もしかして、もしかしてですけど大賢者フィロウシーって、私の友人だった寛だったという可能性があったりします?」

「ええ、あったりします。というか、伊織様の親友であった寛様です。私の主人であった大賢者フィロウシー様――いえ、阿武隈寛は、人間の危機を救うためにこの世界に召喚されたのです。勇者として」

「ええええええええ! あのホモの寛が大賢者で勇者!? いや、確かにホモだけど運動も勉強も得意でしかもイイ声をしてましたけどっ! 大賢者で勇者!? だって、ホモですよっ!?」


 伊織はやたらとホモを強調しながら驚愕の声をあげた。

 それほどまでにホモにトラウマがあったのだから仕方が無かった。


「まあ、私が説明するよりも本人に直接聞いた方が早いでしょう。これからフィロウシー様を呼び出しますので少々お待ち下さい」

「え? 本人を呼び出せるんですか? 100年(?)くらい前に死んだって聞いてましたけど……」

「その疑問も会ってみればすぐに解決いたしますよ。では呼び出します……天を照すは……地を照すは……」


 ゴロハチが目を瞑りながら左手を握り、握りこぶしを開いた右手につけ術式をぶつぶつと唱えだした。すると辺りがまるで日食が起きたときの様に暗くなり、同時に蛍が舞うように光がふわふわと漂いだす。

 伊織はこのマジックショーのような魔法に見とれながら詠唱が終わるのを待つ。

 そして、数分にわたる詠唱が終わりを向かえ、


「……幽世かくりよより来たりて現世うつしよに再び顕現せよ! 魂解放スピリットリバレイト!」


 と、ゴロハチが叫び大きく拍手を打った。するとゴロハチの前に何かが現れ、それと同時に光がぱんと弾けたように閃光した。そのあまりの眩しさに伊織は発光する何かから目を背けた。

 そうしてそれはしばらくびかびかと発光していたが、徐々に光が収まっていく。伊織はそれを見計らって薄目でゴロハチのほうを確認した。

 するとそこには見知った人物が立っており、にこやかに伊織を眺めていた。




伊織の親友・阿武隈寛については「その9 お狐様、事案発生する!」を参照願います。

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