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お狐様、まかりとおる!! ~転生妖狐の異世界漫遊記~  作者: 九巻はるか
第1章 大森海の世界樹とお狐様
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その26 お狐様、神に白いタマゴタケ(推定)を毒見させる!

「汝。ちょっと見ないうちにやつれたのう」


 翌朝。アティラは開口一番そう言った。


「昨晩は酷い目に遭いました……」


 伊織はげっそりした表情を浮かべ答えた。

 結局、吐き気や頭痛は真夜中まで続き、症状が改善した後もうまく眠ることが出来ずに朝を迎えてしまったのだ。おかげで今日は期せず早起きだ。

 よって伊織がそんな表情を浮かべるのも無理はなかった。


「それは災難だったのう」

「……うぅ……ヒトヨタケとお酒が憎い……」


 完全に責任転嫁だった。

 悪いのはヒトヨタケと酒ではなくて、それらを一緒に食した伊織である。


「ふむ。まあ、ヒトヨタケと酒が憎いのは結構だが、朝餉はまだかの?」


 欠食ロリBBAあてらちゃんが伊織の恨み言をあっさり流し、唯我独尊に朝食をご所望だ。寝不足で体調が悪い伊織なんぞそっちのけである。


「はいはい、もう出来ていますよ……はぁ……」


 だが、こう見えても転生前は一家の家事を取り仕切っていた伊織に隙など無かった。

 ……まあ、実際にはただ単に熟睡出来ずに朝早く起きてしまったから作っただけであるが。


「それは重畳! 献立はなんじゃ?」

「今日の朝ご飯はお肉ときのこのおうどんですよー」


 胃腸の調子自体はもうすでに回復しているのだが、気分的にがっつり行く気がしなかったので、お腹に負担が少なそうなうどんをチョイスした伊織であった。


「ふむ? うどんとはなんじゃ?」

「小麦粉を練って細く切ったものを湯がいて汁に付けた料理ですよー」

「ほほう! それは興味深いの! では、早速出すのじゃ!」

「はいはい。ちょっと待って下さいね。今持ってきますから、アティはテーブルに着いて待っていて下さい」


 伊織はそう言付けるとぱたぱたと台所に走った。そして少ししてからうどんが盛りつけられたどんぶりを盆に載せ持参。アティラの前に置いた。

 麺の上にネギと薄く切ったボア肉、そして白いきのこがたっぷりと丁寧に盛りつけられたうどんだった。

 そんなうどんを見てアティラは歓声を上げた。

 見たことがない食べ物に興味が湧いたという理由もある。だが、なにより目の前のうどんという料理がとても美味そうに見えたのが一番の理由だった。


「これは旨そうじゃのう! ところでこのうどんとやらに入っている白いのこは何というきのこなのじゃ?」


 どんぶりを覗き込んでいたアティラが興味深そうに訊いた。


「えーと、白いタマゴタケ……かな? もしかしたらエノキタケか白いぶなしめじあたり? 多分?」


 伊織は盆で口元を隠し、視線を逸らしながら誤魔化すように答えた。

 一度は自信満々に白いタマゴタケと同定したはいいが、一晩経ってから再び白いきのこをよく観察してみると、タマゴタケの傘の端に出現するはずの条線がどのきのこにも全く見当たらなかったので自信が揺らいでいたのだ。


 そんなこともあり、ちょっとヤバイかなと伊織も少し思ったが、いまさら捨てるのも勿体ないし、姿が綺麗で見るからに美味しそうだし、縦に裂けるし、直感でなんだかいけそうな感じがしたので食することに大決定であった。


 ちなみに現実にも白いタマゴタケは存在するようだが、傘に条線無い時点でタマゴタケでは無いし、店に売っている白いエノキタケやブナシメジはあくまで人工的な環境で栽培され白くなった物で天然物は白くなど無いがそんな事を伊織が知っている訳もなかった。


 なお、伊織はのちのちこのときの判断を後悔することになるが、まあ、考えが甘いのはいつものことなのでさもありなんである。


「んむ? まあ旨ければ何でもよい。早速朝餉としゃれこもうじゃないか! のうのうのう、もう食っても良いか?」


 アティラはそんな伊織の歯切れの悪い回答に少し怪訝な表情を浮かべたが、頭の中が既に食べることで一杯だったため、それ以上の追及はせずにいただきますを要求。

 伊織はお盆を胸元に抱え、微笑みながら頷いた。


「はい、どうぞ。たんと召し上がれ」


 そんな伊織の言葉を皮切りにアティラはきのこうどんにがっついた。


「うむ! うむ!! うむ!!! これがうどんか! 喉越しが良くそれでいてこしがあり、なんとも不思議な味わいじゃのう! つゆもきのこの出汁がよく出ていて味が深く、きのこ自体も旨味がありさらに歯切れが良くて非常に美味じゃ! 薬味のネギと肉も良いアクセントとなって全く飽きが来ないのもすばらしい!」


 アティラが急に評論家じみたことを言い出した。

 どこにそんな語彙と知識があったのか疑問であるが、それは伊織の作ったきのこうどんがそれほどまでに美味かったという証明でもあった。

 そんな美味しそうにうどんを貪るアティラを見て、伊織はほっと息を一つついた。

 うどんがアティラの口に合うかどうか不安だったのもあるが、何よりうどんに入れたきのこがなんともなさそうな事に安心したのだ。


 つまり伊織はアティラにきのこの毒味をさせたに他ならなかった。

 主人であるアティラを毒味役に使うなど、世界樹アティラの巫女としてあるまじき行為だが、加護の件などで多少の恨みを持つ伊織には躊躇などなかった。

 まあ、今、うどんを貪り食っているアティラの体はあくまで世界樹が顕現した姿に過ぎないので、たとえきのこに毒があったとしても大事には至らないだろうという目算もあってのことだった。

 アティラが普通の人間であったら間違っても毒味役にはしていなかっただろう。

 ゲスの極みである伊織にも多少の良心はあったのだ。


 こうしてアティラできのこに毒が無いことを確認した伊織は台所から自分の分のうどんを持参。いただきますの後に、うどんの上に乗っていたメインの具材である白いきのこをぱくりと頬張った。


「っ!? こっ、これは! うう゛ゃぁぁぁぁいぃぃぃ! きのこの旨味とつゆの旨味がコラボレーションして脳天を刺激すりゅぅぅぅ! はむはむはむ! ぁぁぁぁぁぁ! 本当にこの森のきのこはどれも美味すぎりゅぅぅぅぅのぉぉぉぉぉぉ!」


 白いきのこのあまりの美味さに伊織が体をびくんびくんしながら叫んだ。ついでに加護の効果で白いきのこの名前が二つよぎったが、食べるのに夢中だったため安定のスルーだ。


「汝は何かを食べるたびに叫んでおるのう……。のう。汝もならば、もう少し女の子らしく落ち着いて食事を摂ったらどうじゃ?」


 一足先に食べ終わったアティラが呆れ半分、心配半分の様子で伊織に苦言を呈した。

 毎回、伊織が尋常でないうえに、見苦しい美味がり方をするため行く末に不安を覚えたのだ。


「あう゛ゃゃゃゃぁぁぁぁ! 見苦しくてすいませんでしたぁぁぁぁぁ!」


 伊織自身も尤もなご指摘だとは思ったが、直ぐには止まらない口と体であった。




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